龍胆に蛍
さとこは、名前を、郷御前からいただいている。 義経のいる、京へ嫁いだことから、御里の、河越(現代の埼玉県、川越)では、“京姫“と呼んでいたようだし、平泉では、“北の方“と呼んでいたようだ。
義経は、二人の女性に愛された。
最後に義経に逢うことになるのは、この郷御前である。
静御前は、由比が浜で、男子の赤子を、頼朝により捨てられてしまう悲劇のヒロインだが、郷御前もまた、娘を生んでおり、その消息は不明だ。
さとこの家に代々伝わる浅黄色の着物には、
お静おばあちゃんが、一番大事にしていたものだ。
紋のことをよくわからなかったから、代々の、家紋のことかと思っていたらば、この着物の紋は、源義経を現している、とのことだ。
平安ぐらいには、持ち物に好きなマークを書くという、個人的なものから発祥していて、平安末期にはまだ家紋は無く、鎌倉時代からのようだが、笹龍胆が本当に使われていたどうかは、ぎりぎり、どちらだろうかというところだ。
笹龍胆は、義経の紋所だっただろうか。お家というには、少ない家来であったから、どうだろうか。
しかし、さとこの家の、家系図には、それが伝わっていて、家うちは、なんでも源氏の家系の血筋の人がある、と聞いていた。
そんなことから、さとこは竜胆の花を見て、自分のマークを作った。
それが金魚のマークである。
その金魚で、さとこは、好大郎から 声を掛けられた、「金魚ちゃん」を思い出す。
屋台も店を閉める頃、竜胆の鉢植えをみつけて、さとこは、それを購入する。
暗闇に、竜胆が光り、秋の訪れの近いことを感じるのでした。
静御前は、逃亡する義経に同行するが、吉野山は女人禁制で、同行を諦めていると、捕らえられてしまう。
鶴岡八幡宮で、頼朝に、別れの曲を舞わされる。
その時に男装したのが白拍子の男装の始まりとも言われる。
その時、歌った唄が、しづやしづしづ……なのだ。
菫の小道にさしかかると、なにやら薄ぼんやりと、小さな黄色っぽい明かりが点滅するのをみつけた。
それは、源氏蛍だった。
さとこは、その蛍の草むらに、暗闇の中、竜胆の花を、地べたに植えた。
きれい仕事ばかりの、さとこでしたが、生まれて初めて、土いじりをして、きれいな指先が汚れた。
蛍と、竜胆の前で、一曲踊りたい衝動を覚えるのでした。
この地からは、しづやしづしづと唄が聞こえてきそう………
これこそほんとの『地ぢ』なりけり………
さとこは、静御前の唄を、想像して歌うのでした。
※地……音楽のこと
~龍胆に蛍 おわり~
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