福椿
さとこは
あまり気の進まぬ舞を習い 舞子になる覚悟でしたのが
好大郎との再会をきっかけに、舞がそうは 嫌いではないことを認識した
さとこは、好大郎との時間を得ることができて
それはそれは幸せになったからだ
お師匠さんに言われたよ
芸は身を助けるから
一所懸命したことは いつか自分に帰ってくるって。
さとこはまだそのような実感はなかったのだが
一心不乱に悲しみを消すように取り組んだ舞から桜舞が生まれて
これは、巧みの域にまで達したと感じていた。他の踊りはしなかった、
ただただ、好大郎を想い、舞ってきた。
凄く綺麗な舞だし
桜の清らかさに、散り際の、すがすがしさみたいなものを感じたよ。
好大郎も驚いて絶賛した。
そんな出来事から、さとこは、稽古をやめてはいけない気さえして 毎日自分で稽古していた
大好きな夏が来る
さとこは、22歳になり、好大郎との子を認めると同時に、所帯を持つ。
お腹の子供は順調で、毎日.舞をしながら、さとこは、お腹に語りかけた。
「きりょうよしにおなり、あいきょうよしにおなり、忍耐強くおなりなさい、元気な子、チントンシャン」
それから、さとこは、三味線ではなくて、アコースティックのギターを好大郎から少々習うようになる。
ギターに合わせる舞は、さとこの桜舞に、なぜかしっとりとフィットする
エチゾチックな雰囲気だ。
この子は、そうね、椿の蕾が咲く頃に生まれてくるわ。
それで、さとこは、お腹の子に「椿ちゃん」と言ってお腹を撫でた。
なんだか最近のさとこの舞は、リズム感に富んできて、情熱的だね。
自分でもそのようなことを思っていた。
二人と一人で夏祭りに出掛けた。
金魚すくいを懐かしんで、お祭りで、なぜかかわいい椿の造花の髪飾りを買った。
きっと女の子よ。でももちろん男の子でも、嬉しいのよ。
さとこは、若草色のゆかたを着ていて、袖を振った。
袖の中からチリンと簪かんざしが落ちる。
金魚と簪を眺めながら、さとこは、思わず、神社の本殿の前で、袖を振り振り舞うようなしぐさをする。
それを見ていた、巫女みこさんが、目を見張った。
帰りにお守りを購入するときに、巫女さんが覚えていたのだろう、珍しくお声をかけてきた。
「舞をなされるのですか?」
「はい。」
「素敵な舞ですね。是非とも拝見したいわ。」
袖を振っただけで、素敵などとは、お目が高い。
と、思ってしまう。
さとこは、袖さばきに、自信があった。
巫女さんに、上から福の鈴を振り撒いていただき、
安産を祈願した。
特別に鈴がシャラシャラ鳴ったものだから
周囲の人が驚いて集まってきた。
我も我もと、巫女さんに、鈴をお願いしていて大騒ぎとなった。
巫女さんは、深々と頭を下げて、さとこに言った。「おひとつ、是非とも舞ってはいただけませんか?」
さとこは、たじろがない。舞を舞うことは、朝飯前なのだ。
「よろしいですよ。」
お返事をして、神様の前でさとこは舞い始めた。
舞は、余りにも美しい空気を醸し出して、尋常ではない。
笛と太鼓と、鈴が、合いの手をして、それはそれは、境内が大騒ぎ、人だかりができて、いや騒ぎではなく、誰もが目が釘付け。
こんな舞を誰も見たことがない。まるで歴史小説の白拍子の姫かだれかのようだ。
舞が終わると、ドっと歓気が上がり、拍手喝采、スタンディングオベーション状態だ。
このときから、この神社とのご縁が深まり、さとこの桜舞は、お囃子バージョンが誕生して、自然発生的に縁起のよいものになったのだった。
神社にとっても、前代未聞の出来事だ。
さとこのつけた椿の簪は、またたくまに、縁起物になり、飛ぶように売れて面白かった。
「まるで神様扱いだね。。
さとこの舞にはそんな、人の心を動かす力があるんだ。」
好大郎は、さとこのお腹に手を充てながら幸せそうに言った。
生まれた子供は女の子で、夫婦で、
毎年、神社へお礼参りに詣で、
いつの間に咲いている、
夏には、若草色のゆかた姿で、夏祭りに行くと、
舞姫とか、椿姫とか呼ぶ人があって、この神社は、安産祈願のご利益があると賑わい、
いつしか、神聖な巫女の舞のお稽古場でも有名になりました。
桜舞~福椿
おわり~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます