菫微笑(すみれえみ)
さあや
菫の小道で
さとこは、いつも、
ひとりで学校から帰って来るのです
なぜか、仲のよい友だちは、引っ越してしまったり、転校してしまったりするのです
初夏のこと
さとこは、道端に咲く
菫すみれの花をみつけた
薄紫と白の小さな花でした
かわいくて すぐに好きになりました
そんな季節の変わり目が過ぎて 夏が来ました
さとこは ひとりで 学校のプールへ通います
泳ぎの苦手な生徒は
水泳に出席せねばなりません
そんな日々が何日か続き さとこは 息継ぎが苦手で変な顔になって泳いでいるのを気にしていたら
ある男の子が プールの中でぶつかりそうになって
謝ってきました
それから わたしのことを「金魚ちゃん」と呼びました
ぱくぱくして息継ぎしているところを見ていたのですね
水泳のリレーがありました
私は必死で泳ぎました
さとう君に 金魚じゃなくて せめてスイスイと泳ぐメダカと言われたいよ
リレーでターンをするとき
お尻が丸出しのポーズです
よくみんな恥ずかしくないな
私は嫌だなぁ
ターンが無事おわると思ったとき
「金魚 頑張れ!」という声が聞こえました
リレーは三着でした。
帰りに てくてくとプールから帰る途中で
さとうくんに会いました。
後ろから 追い付いたようです。
「ねぇ、さとこちゃん、もうさとこちゃんは、金魚みたいに綺麗な娘だね」
金魚みたいにって変だと思ったけど、ドキリとして、さとうくんの顔を見ると
赤面しながら 微笑んでいました
紫色のTシャツの さとうくんは
まるで 菫のように 笑っていました。
夏休みが終わる頃
さとうくんが
私に 包み紙を渡して
次の日から学校へ来なくなりました。
包み紙には レターセットと鉛筆と消ゴムが入っていました
さとうくんは よく筆箱を忘れて 私が貸していたのを思い出します。
一ヶ月ぐらい過ぎて 秋になりました
さとうくんから手紙が届いたときには 驚きました
「桜の咲く頃、僕は日本にはいません。さとちゃん、手紙をください。」
私は、さとうくんに、菫の押し花の便箋で手紙を書きました。
「友達はできましたか。
さとこは、舞子になることになりました。でも、行きたくないんです。私は、菫が好き」
そして、さとこは、菫の道と、さよならしました。
桜の好きな さとうくんに、踊りを見せるときが来るかも知れず、さとこは一所懸命、舞を稽古してきました。
さとこ と さとうは
今17歳の終わり
二人は菫の道で再会しました。
すっかり 精悍な顔になった さとうくんに
さとこは 桜舞を踊って見せた。
普通なら17歳から踊る舞
さとこは17歳で卒業を
この舞は、さとうくんだけに見せたくて ずっと頑張ったんだよ。
でも私は菫のような
さとうくんが好き
花も菫が好き
そう言って お土産のスミレキャンディーを 口に含みました
そんな、少女にもどったみたいな さとこに 好大郎こうたろうは 口づけをしたから
キスはスミレ味だった
二人でやり直したいことがたくさんあって
どんなに心が踊ったか
どんなに恋い焦がれたか
わかってくれるよね
金魚の
なら。
どんなときも
諦めないで
絶対に幸せになってね。
~菫の小道で おわり~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます