第43話 巡り合わせ
当然、ルキナは反応する。
「パパを知ってるの?」
「パパ………? ということはまさか、キングリィの娘さんか」
「うん」
「……ははっ、なるほどな。今の魔力も通りで。……懐かしい気がしたよ」
じーちゃんは言葉通り遠い目をしていた。思い描く懐かしい光景を見ていたんだと思う。
「こう見えて、私も若い頃は魔道士だったんだ。キングリィ……魔王とも戦ったことがある」
「魔王と……」
今のじーちゃんは、どこにでもいるような風貌だ。魔王がどれくらい強いのか俺には想像でしかない。だが、今のルキナの力を考えると相当強いのだと予想される。そんな魔王と、目の前のじーちゃんが戦ったという事実に、少しばかり驚嘆して呟いてしまった。
「なに……。私の力など微々たるものだ。たまたま魔王と戦っただけでほとんど一方的だったよ。死人は出なかったが抵抗も虚しく、私が当時住んでいた街は滅ぼされた」
魔王と呼ばれるだけある。やはりそれ相応の所業をしたのだろう。だが、何もルキナの前で話さなくてもいいじゃないか。誰も、何も言えない沈黙の間が生まれてしまう。
「だがその随分後に、私は魔王に助けられたんだ。あの『転生者』と六英雄たちとの戦いの時だったか。キングリィは覚えていないだろうが、世の中不思議な巡り合わせがあるもんだと思ったよ」
「……えと」
ルキナが何とか口を開く。何を言えば分からず、ただ、黙ったままでいることも出来なかったようだ。
「君が気にすることはない。当時は確かに気持ちをぶつけたかったが、今は何とも思っておらん。勇者と組んだ魔王は人が変わったようでな。今はうまいこと魔物を統率してくれている。おかげで生活できていることもちゃんと分かっている」
少しばかり妙な空気に戸惑ったが、落ち着いたようだ。すまない。君は気にしなくていいと言うじーちゃんの言葉に、ようやくルキナも笑顔を見せることが出来たようだ。
「なら私たちでも構わないですね?」
「あぁ、頼む」
「お、お願いします」
魔王の娘であるなるば。また先程の凄まじい魔力であるならば、任せられると思ってくれたようだ。じーちゃんが深く頭を下げる。それに倣って、ソニアも ペコリとお辞儀していた。
仕事の内容は確認できた。ガーナの森に向かい、度々フェンルガンというモンスターが現れる原因を究明して対策すること。帰って来なくなったソニアのお父さんを含む、村の人五人を連れ帰ることだ。
「……結構難しくないか」
俺も助けてあげたいと思った。これは間違いない。だが、もともと討伐だけの依頼と違い、だんだんと難関な内容ではないかと思ってしまう。
「まぁ、そうね。もしかしたらSSダブルエス相当かもしれないわね」
村を抜け、ガーナの森へと向かう俺たちだ。先頭を歩くリーゼの背中に向けて問い掛ける。リーゼの答えを聞いて、確かライセンスがないとSSはダメだったのではないかと思い出す。
「いいのか?」
「……良くはないけど。あの娘にライセンスがないから断りますって言える? やっぱり間違いでした。なんて」
「言えないな」
もちろん規定に反くことが良いとは思わない。けどまぁ、そういった社会のルールを、前の世界でも俺は破ってたわけだから、俺としてはそこは構わない。問題は、この依頼内容を完遂できるのか気になるところである。
「でもまさかSSの依頼とは思わなかったよね。こうなったら乗りかかった船だし。頑張らないと……」
「あんた、分かってたでしょ?」
「っ……」
リーゼの言葉が鋭くルキナに突き刺さる。明らかに動揺の色を見せたルキナは、俺でも分かるくらい芝居がかったように取り繕いを始めた。
「そ、そんなことないよ。私がミスしちゃっただけだし」
向けていた背中を翻したリーゼは、射抜くような視線をルキナに向けた。ツカツカと早歩きして、ルキナに詰め寄って行く。
「確かに内容を聞いた時、私はSSの依頼かもしれないと思った。でもSランクかもしれない。私が事情を説明したうえで受けようと思ったけど、ルキナは遮って魔力の強さを見せて納得させた。つまり、私たちのライセンスだと受けることが出来ないと知ってたってことよね?」
「そ、そんなことないよ。私だって知らなかったもん」
「このっ……。あんた最初っからSSランク受けたがってたでしょーが!」
「いひゃいいひゃいいひゃい……」
なかなか白状しないルキナにリーゼはぷっつんしてしまったようだ。ルキナの白いほっぺをぎゅーと引っ張り上げる。抵抗虚しく、ルキナは涙目ながらでされるがままだった。そして業を煮やしたリーゼが、ついに最終手段を用いた。
「……先生に言いつけるわよ」
「しょ、しょれひゃへ……」
それだけはとルキナもついに観念したようだ。自分が処理を任された時に、チャンスだと思って魔が差したらしい。そこまでしてSSランクをやりたかったのかと俺は脱帽した。
「全く。まぁ私もそろそろSSランクやりたかったしね。ちょうどいいわ」
「えへへ〜。それでこそリーゼだよね」
リーゼが自分もと口にしたことご嬉しかったのか。ルキナはパァと顔を綻ばせた。
「な、なぁ。それってバレたら、もしかして俺も怒られるのでは……」
「そうなるわね」
「バレなければ大丈夫だよ。ちゃちゃっとこなして、ソニアちゃんのお父さんたちも助け出せば問題ないでしょ」
これ絶対バレるフラグではないだろうか。より深く生い茂るガーナの森を目の前に、本当に大丈夫だろうかと不安を覚え始める。とはいえ、今更引き返すわけにもいかないし。腹をくくるしかない。
俺は、ガーナの森へと一歩踏み出したのである。
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