第33話 タッグバトル
「■■■■■■■ッ!」
魔法の凄さには確かに驚かされる。だが、本当に驚くべきはモンスターのほうかもしれない。ルキナの雷とリーゼの炎を喰らったというのに、モンスターはまだ余力があるらしい。さらには、モンスターを中心に突風のようなものが発生して、二人の魔法を掻き消してしまった。
「な、何で。どういうことなんだ?」
「この子も魔法を使えるってだけでしょ。そんなに驚くことじゃないわ」
「そうそう。それならもう少し強力な魔法を使えばいいってだけだし。ね!?」
ルキナは最後に声を張る。それは、モンスターによる魔法攻撃に襲われたからだ。何処からともなく出現した火の玉がルキナに降り掛かる。それを、高く跳躍して避わす。
「わ、わわっ!」
その攻撃は単一ではない。リーゼの炎のように、いくつも降り注ぐ。リーゼはもちろん、俺のところまで攻撃範囲となる。俺だけなら何とか避難できるけど、今はチェルシーと、見知らぬ生徒を抱えている。今更自分だけ逃げるわけにはいかないが、どうすればいい。悩むのは一瞬。だがその隙に、逃げる時間さえ喪失してしまう。
「馬っ鹿じゃないの? あんた炎の魔法使うんだったら何で使わないのよ!」
「あ、あぁ。助かった。ありがとう」
俺やチェルシー含め、やられた生徒たちを覆うように、魔法による防御壁が俺たちを護ってくれていた。オレンジ色の膜みたいなものだが、目を凝らしてみると、チリチリと燃えているようだ。リーゼが楯として出してくれたんだろう。
「……魔力を使い切ったの? それなら、あんたはそこで大人しくしてなさい」
「了解」
疲弊した俺の様子を見て、リーゼは自らそう判断したようだ。いや、魔法なんか使えないし、ただ単に疲れただけなんだが、弁明しなくていい分俺にとっては有難い。
それだけ言うと、モンスターを一人で撹乱するルキナを助けるべく、リーゼも戦いに赴いた。
「おっと、要注意なのは爪と牙くらいかな」
「油断禁物よ。魔法が使えるんであれば、何をしてきてもおかしくないんだから」
「分かってるって!」
当たり前のように宙を舞う二人。気を引き締めるよう促すリーゼだが、ルキナは余所見をしつつも圧倒していた。モンスターの魔法攻撃も完封し、自分の魔法攻撃のみを的確に叩き込む。
そこにリーゼも加わるとなると、戦況の優勢は明らかだ。炎と雷の応酬により、モンスターの体は所々焼け焦げる。その程度で済んでいるのも大したもんだと思うが、さすがに限界は訪れたらしい。ついには吠える声に変化が現れる。
力なき声を零し、体をグラつかせた。その隙を、二人が逃すはずはない。
「隙あり。とどめの一撃はずっと充電してたんだから」
ルキナの体が一層激しく弾ける。溢れ出た魔力は、バリバリとその存在を大きく示す。ルキナはその雷を両の手に集中させ、モンスターへと掌を向ける。
「ちゃんと合わせなさいよ」
同時に、リーゼも最大攻撃の準備を整えていた。うねる炎を右手に纏う。あまりに強力な魔法ゆえ照準が合わないのか。左手で右腕を抑えて狙いを定める。全身から猛る炎は、自ずとその絶大な魔力を物語っていた。
モンスターは怯んだ状態にある。これで終わりだ。二人の攻撃が通れば俺たちは助かる。疑いようのない事実が俺にも認識出来た時、呟く声が聞こえた。
「ダメ……。ベルちゃん……」
意識を失っている筈のチェルシーが、確かにそう言った。その瞬間、ようやく思い返すことが出来た。チェルシーがここまで頑張った理由。それは、モンスターを倒すことでも、ただ逃げ切ることでもない。
「リーゼ! ルキナ! 撃っちゃダメだ!」
弾けるように俺は、攻撃態勢にあるリーゼとルキナに訴える。
「え?」
「何で?」
宙に留まる二人は、意味が分からないとでも言いたげに、困惑した表情で見下ろしていた。
「チェルシーが言ってたんだ。そのモンスターは、学生の誰かが飼ってるペットらしいんだ。だから、何とか動きだけを封じることは出来ないか」
俺の言葉を聞き、二人は納得の表情を浮かべる。
「……なるほど」
「動きを封じるだけって。またえらく難しいこと言ってくれるね」
「む、無理なのか」
ルキナがぼやく。リーゼとルキナでも無理なのかと、心配をしてしまう俺に、ルキナは鼻を鳴らして告げた。
「私を誰だと思ってるの? 魔王の娘だよ。それぐらいおちゃのこさいさいだっての」
ルキナは準備した攻撃を止める。だが充電したという魔力はそのまま維持していた。
「そういうことなら、ルキナに任せるわ。私の魔法じゃ少し手荒になってしまうから。ただまぁこれくらいなら……」
やり取りの中でモンスターを態勢を立て直す。それを見越したリーゼは、荒ぶる炎を出現させてモンスターへ向けて放つ。炎は軌跡を辿り、モンスターを囲むようにうねる。これでモンスターの動きを完全に封じた。
「これでやりやすくなったでしょ」
「さっすが。あとは任せて」
ルキナのお礼に対して、リーゼは何処となく照れてるように見える。
けれど、炎で囲った檻も完全ではないのか。モンスターは炎を打ち消そうともがいていた。封じたと言っても、ぐずぐずするわけにもいかなさそうだ。
ルキナは腕を高く掲げる。天まで届かすように
人差し指をも真っ直ぐに伸ばした。その指先に、雷の魔力を溜め込む。
「威力は抑えとくからね」
弾ける魔力は、ルキナが腕を振り下ろすのと同時にモンスターへと振り落とされる。指先から放たれた魔力は、まるで本物の雷のようにモンスターの頭上から一閃を辿った。飛来したモンスターはバリバリとダメージを負う。やがてモンスターは脚を崩してゆっくりと沈む。
力なき声と、体を上下させて呼吸する様子から、ちゃんと生きていることは明確だった。
ようやく、一件落着だろう。ふと、隣で横たわるチェルシーを見ると、何処となく微笑んでいるようにも見えた。
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