第21話 ルキナVSヒューイ
余った俺たちは共に距離を取って砂地の上にそのまま座り込んだ。
「あ、俺。マックス・ボルティーノって言うんだ。君は?」
「えっと、ラルク。ラルク・レッド・グリーヴスだ。長いからラルクでいいよ」
「そっか。俺もマックスでいいよ。よろしくラルク」
ようやく名前を覚えることが出来た俺だが、何とマックスが握手を求める右手を差し伸ばして来た。何て良い奴なんだ。アドゥルス、マーブルさんに続いて、久しくまともに受け入れられた気がした。
小さな感動を覚える俺の前では、派手な魔法合戦が繰り広げられでいた。てっきり漫画みたいにページを捲ったらもう勝負は決した。そんなことが起きるのではないかと予感していたのだがむしろ逆だ。バリーとか言う銀髪野郎も、ヒューイとか言うつり目野郎も中々良い勝負をしていた。
「確かに前より早くなったかもね」
「今にそんな余裕はなくなるぞ」
ルキナに迫るヒューイは、空間から生み出した両手剣でその刃を向けていた。黒く洗練されたブレードで流れるような剣舞を見せる。躱す隙が何処にあるのか。そう思わす怒涛の攻めを、ルキナは余裕の笑みを浮かべながら回避して見せる。
ルキナもバチバチと電光を発しており、後退しながら僅かな隙を見付けては、ヒューイ目掛けて電撃を撃ち込んでいた。
「まだ余裕あるけど?」
「だったらこいつだ」
ヒューイが瞳孔を開く。焦点は間違いなくルキナに向けられているが、只事ではない雰囲気が包み込む。距離が大きく空いているにも関わらず、ヒューイは左右のブレードを大きく交差させて振り下ろす。その時、ブレードの刃は光を帯びる。黒い刃は赤く濁り、透き通るようにその形を洗練する。振り抜かれた勢いのまま、いやそれ以上に赤い光の刃はルキナを襲う。その様はまさにカマイタチのようだった。
飛来するスピードは相当なものだと思う。ルキナも微動だにせずに刃が目の前に迫る。瞬間、ルキナは大きく溜め込んだ電撃を放ち、相殺に持ち込む。
「やるじゃん」
「まだまだぁ!」
ヒューイは自身の体を浮かせて空を舞う。鳥のように飛行しながら、再びカマイタチを撃ち込む。高速にで振りぬき、計四本の刃が生成される。ルキナは堪らず飛び跳ねるようにして躱し、腕で衝撃を和らげて着地した。
「あれ? いない?」
一瞬視界から外れたものの、すぐにヒューイを確認するルキナだが、先程までの空位置にその姿はない。ルキナが回避するその間に、ヒューイはルキナの死角となる上部に移動していた。そしてカマイタチをさらにめいいっぱい撃ち込んだ。
逃げ場などない。囲い込むようにいくつもの刃がルキナに襲いかかった。無数の攻撃は砂地に衝撃を与えると、ルキナの姿を覆い隠してしまう。どうなってしまったのか。さすがにやりすぎではないかと腰を浮かせる俺だが、のちに砂埃が晴れると、ルキナは五体満足で地に足をつけていた。
「ル、ルキナ。大丈夫か」
「大丈夫じゃないかな」
「え?」
つい声をかけた俺への返答。凄まじい攻撃のあとのわりに、ルキナは一見無傷のようだった。だが、より視界がクリアになって目を凝らすと、ルキナがあられもない姿をしていたことに驚いてしまう。
肝心な……いや見えてはいけないところは見えてないが、スカートは一層短く今にも下着が見えそうだ。さらには脇腹を霞めたのか。服が裂かれて上の下着と一緒に横乳が見えてしまっていて、何とも嬉しい……いや、けしからぬ恰好となっていた。
「この服も、結構気に入ってたんだけどっ」
「ぐっ……」
怒気を纏ったのがよく分かる。さっきまでヒューイに勢いがあったが、今やそんなものは何処かに霧散してしまった。リーゼと同じく感情に起因しているのか。ルキナの身体から膨れ上がる凄まじい電光はまさに稲妻と同義である。
ヒューイも同様に風を纏い応戦する。が、本気になったルキナには先ほどのような飛来する刃は当たらない。風に乗り距離を空けるヒューイ。それ以上に、稲妻の如く距離を縮めるルキナ。二人の力の格差は明らかで、どちらのスピードが勝っているのかも一目瞭然であった。
「頑張れー、ヒューイー!?」
それでもちゃんと応援してやってるマックスは良い奴だと思う。ヒューイもその応援に後押しされたのか。覚悟を決めると手にしたブレードでルキナへと向き直る。
「今度こそ、勝つのは俺だ」
ヒューイを中心に風は収束し、力を蓄える。瞳孔を開き手に力を入れた。黒いブレードは朱く朱く染まり上がる。ルキナの電光石火とも言える動きを見極め、ヒューイは両の腕を振り下ろす。
「これ高かったんだから。あとで弁償してよね」
「っ……」
眼前に迫る刃をものともせず、ルキナはただただ自分の不平を口にした。そして、目の前の刃よりも早く、ルキナはヒューイの腹に拳をを打ち抜く。弾ける閃光。圧縮した雷の魔力は敵を確実に滅する。
重い攻撃で吹き飛んだヒューイは二、三転がり砂地の上で倒れ込んでいた。ざく、ざくと二本のブレードも地に刺さると、持ち主の魔力の影響か消えてしまった。
「ヒュ、ヒューイっ!?」
一目散にヒューイのもとへ駆けるマックス。一方俺は、激しい戦いだったにも関わらず飄々としているルキナを恐ろしく思い動けずにいた。
「あ~あ、ボロボロ」
なんて言いのける始末だ。さすが魔王の娘。恐ろしい。そんな俺の心境も知らず、ルキナは俺に気付いたのか、笑顔でブイサインしてきやがった。呆気に取られた俺は、恐ろしいのに不覚にも可愛いと思ってしまった俺は、オウムの様にブイサインを返すしかなかった。
仕方ない。可愛いは正義だということだ。
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