第20話 混戦とライバルたち

「いくぞ」





 まるで特撮アクションもののようにかっこよく飛び出す俺。腕を振りかぶり俺は自分の魔法を……魔法を。


 いや待て待て。魔力が確かにあるのは分かったが、俺魔法の使い方知らねぇし。飛び出して腕を振り上げた手前、何でもいいから何か出ろとお願いするけど全く何も出てこなかった。





「で、ですよねぇ……」





 その折、ゆっくり顔を上げると目の前には一見可愛らしい美少女が、少し驚いたような顔をしていた。腕を伸ばすモーションなだけで、他には何もない俺の様子を見ると、即座にまるで般若のような顔となる。





「ふ〜ん、あ、そう。やる気は全くないと。人を小馬鹿にするのは随分とうまいみたいね」


「え、いや、違う。決して馬鹿にしたわけじゃ……」





 顔を真っ赤にさせて睨み殺すかのような鋭い眼光。桃色の髪までもがメラメラと浮かび上がる。





「ふ、ふふ。ふふふ……。こうなったらとことん本気にさせるしかないようね」


「ひぃ。ちょ、馬鹿。止めろって」


「問答無用」


「ル、ルキナ助けて!」





 助けを求めて上を見れば、ルキナは楽しそうに笑っていた。完全に助ける気ねぇ。さすが魔王の娘。一目散に逃げ出すしかない俺。どうやったら魔法なんか使えるんだよ。普通こういうのは転生した瞬間に手軽に使えるもんだろ。そうだろ。


 逃げ惑いながら、何か出ろ何か出ろと必死に念じる俺だが、何か出る気配は一切ない。どうすりゃいいんだ。





「覚醒しろ覚醒しろ覚醒しろ」





 もはや土壇場の覚醒に頼るしかないと思った。けど駄目だ。やはり何も起きず、あっという間に追い詰められてしまった。





「逃げるのはもうおしまい?」


「はぁ、はぁ、はぁ……もう無理……」





 正確にはただ単に体力が底をついて追いつかれただけなのだが、追い詰められたことに変わりはない。下が砂場みたいに砂地な分、凄い動きにくい。だというのに、さすがは勇者の娘といったところか。リーゼは息切れ一つしていなかった。


やばい。このままでは本当に殺さねかねない。もはややる気にさせる云々ではなく、小馬鹿にされたと感じたリーゼがムキになっているだけだった。


俺に残された手は一つしかない。魔力はあっても魔法が使えない。正直に白状して平謝りするしかなかった。俺が土下座よろしく態勢を下げると、その瞬間に爆発音が鳴った。





「……!?」





慌てて顔を上げる俺。爆竹や花火のような程度ではなく、ドォーンという不吉な馬鹿でかい音である。


いったい何だ。見れば、何とリーゼはあらぬ方向を見据えていた。正確には俺の後ろであり、倣って俺も顔だけ振り向く。するとそこには、見知らぬ男が三人もいたのである。





「よぉ。リーゼ。久しいなおい」





 真ん中に位置する銀髪の男。アドゥルス以上に跳ね上がった髪質だった。俺と変わらないくらい身長のはずなのに、嫌に金色の眼がギラついていて妙に迫力がある。身に着けている服装は黒のシャツにグレーのズボンとシンプルではある。が、それぞれの中指にシルバーのリングをつけていたり、小さなピアスをつけていた。俺の苦手とする人種っぽい。





「バジルか。久しいって、一昨日コテンパンにしてあげたばっかりのはずだけど?」


「ぐっ……」





 あぁ、そういうポジションなんだ。





「うるせぇ。お前が来るまでは俺は負けなしだったんだよ」


「知らないけど。それより何の用なの?」


「決まってんだろ。んなまともに魔法も使えない奴なんかどうでもいいからよ。俺ともっかい戦え」


「……まぁそんなことだろうとは思ってたけど」





 さっきまでの怒りは何処にいったのか。誰の目から見ても、リーゼは呆れるようにして溜息を吐く。





「となるとヒューイ君もそんな感じ?」


「当ったり前だろ」





 バジルとかいう奴の横で、比較的小柄な男が吠えた。薄めの緑髪をしたそいつは、白いパーカーのような服を着ていた。さらには黄土色のズボンと、こいつもシンプルな服装である。





「お前に会うまでは俺が、このアカデミーで一番のスピードだったんだぞ。それをあっさり抜きやがって。黙って引っ込んでられるわけないだろ」


「まぁ気持ちは分かるけどね」





 指名されたルキナも仕方なしと判断したのか。観客席からふわっと飛び降りたかと思うと、体を打った俺とは違い、いかにも簡単そうに着地した。


 相変わらず状況の急変に置いてけぼりを喰らう俺だが、今回はむしろありがたい。俺の魔法のことは有耶無耶になり、リーゼVSバジル、ルキナVSヒューイの図が浮かび上がったのである。


 リーゼたちも前に刈ってるなら大した問題ではないだろう。むしろ巻き込まれないように俺はこっそりと少し離れた。そんな折、少し屈強な男が目に入る。俺と同様、余った者同士と言ったところか。俺より一回り大きくまぁまぁガタイの良い余り者は、黒のオールバックに近い髪形で、筋肉隆々の肉体が服の上からも分かる。まぁ白いタンクトップなんだからそりゃあ分かりやすい。下は紺のズボンで、ベルトのバックルが嫌に大きい。そんな奴が、実はこいつが一番やばいんじゃないかとも思える奴が、青い眼で俺を見つけると、何かを言いたげに口をゆっくりと開いた。





「え、えーと。じゃあ俺らも戦うか?」


「戦わねェよ」


「そ、そうか。それじゃあ応援でもするか」





 おい。見た目に反してめっちゃ良い奴じゃないか。

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