第16話 学食と使い魔

 先程中庭を通ったのは近道だったのか。いつの間にか、再び城のような室内に入って少し歩くとまたも大きな扉の前である。今までで一番大きな扉かもしれない。それを難なくルキナが開くと、おしゃれなテーブルとイスがいくつも並んでいた。丸い印象で足が高いテーブルとイスだ。奥の方には、金持ちが持っていそうな長い長いテーブルが、これまた複数存在していた。左のほうには三段ほどの階段があり段が下がるようになっている。その向こうにはこれまたとても大きい扉である。





「うわっ、めちゃくちゃ広いな」


「でしょ。ちょっと広すぎるくらいだけどね」


「一旦寮に戻って食べる子もいるから、余計にね。特に今は広く感じるし」





 今は講義の時間だから誰もいない。ガランとしているのは当たり前だが、俺の想像していた学食のおばちゃんは何処に位置するのだろう。





「食券とかあんの?」


「しょっけんって何?」





 二人ともに不思議な顔をされてしまう。どうやら大量の料理が運ばれて来てそれを自由に選ぶ方式らしい。自分の好きなものを好きなだけ取れるところが此処の醍醐味だとか。なるほど。要するにバイキング方式というわけか。





 場所だけ教えてもらったら此処で他にすることはない。俺が道を覚えてられるかは於いておくとして、時間も限られているのだから、さっそく次へと向かうことになった。闘技場か学生寮だな。





「それじゃあまずは闘技場に行くわよ。そっちのほうが近いし」


「え〜? 寮に行こうよ。やっぱりリボンは二本ほしいから、ついでに取りに行きたいんだけど」


「そんなの後でもいいでしょ。近い方から行ったほうが効率よく回れるんだから」


「そんなに変わんないし。大体、リーゼが私のお気に入りのリボン燃やしたせいなんだけど?」


「も、元々はあんたのせいでしょうが」


「でも燃やしたのは事実だもんね」


「お、おい……」





 一気に不穏な空気に変わる。やっぱり予想通りになった。勇者と魔王は仲が良いらしいのに、この二人のほうがまだ勇者と魔王としての役を担っている気もする。だが俺が巻き込まれることまで、予想通りにするわけにはいかない。どう考えてもその瞬間デッドエンドだからな。


 リーゼは合理的に近い方から行きたいと言う。ルキナはサイドテールっぽく髪をセットしたものの、やっぱり二本が良いから先に寮に行きたいと言う。





「ラルク君も寮見たいよね?」


「え?」


「そんなの後からでも行くんだからいいでしょ。これから闘技場で戦うことにもなるんだから、先に調べとくのも勝つために大事なことなのよ。ら、ラルクはどうするの?」





 はっきり言うとどっちでも良い。って言うわけにもいかないか。ルキナは溢れんばかりの笑顔である。リーゼはどうするのかとちょっと不機嫌にも見える。エロゲだったら此処で選択肢でも出ていそうだ。どちらを選びますかってな感じで、それがそのまま女の子の好感度に直結してんだよな。ゲームだったら一応セーブでもしてやり直しも効くんだが、現実ではそうはいかないだろう。この現実も、今のところゲームの中みたいな世界観だが。





「俺は……闘技場が良いかな」





 脳内で、選択肢をカチッと押した瞬間である。闘技場を見たいという気持ちがあったわけではない。今までの傾向から見て、リーゼを持ち上げとくべきだろうと考えた結果だ。もし仮に、ルキナが言う寮を選んでしまうと、リーゼがへそを曲げて炎を出すかもしれない。そう考えたからだ。我ながら空気を読むことに成功したのではないかと思う。





「うん。そりゃそうよね」


「むぅ」





 賛同してもらったリーゼは少し誇らしげで、ふふんと鼻を鳴らす。ルキナは寮を選ばれなかったことに顔をしかめていた。悪いなルキナ。別に寮が嫌なわけじゃない。むしろ、闘技場なんて物騒な所より、俺も寮のほうが良かったかもしれない。ただリーゼに燃やされたくないってだけだ。





「ラルク君」


「な、何?」





 ルキナは唸ったあと、俺の目の前に立つ。そして、右手を差し伸ばしてきた。握手なのかな。このタイミングで?


 疑問を抱きつつも、俺は応じて右手を伸ばす。そういや俺女の子と手を繋いだことないぞ。ルキナの柔らかい手に触れる。その時、ビリっと、いやゾクッと何かが走る。





「あだだだぁぁぁああぁあ!?」





 ビリビリ、バチバチと電気が走る。明らかにルキナの手から流れてきており、すぐに手を離したかったが、ルキナの握力が凄いのか一向に抜けない。


 十数秒、俺は無慈悲な電流を浴びて死にそうである。むしろ、よく死ななかった。





「ラルク君は私の使い魔なんだから、ちゃんと私の言うこと聞かないと駄目だよ。だからお仕置き」


「え、えぇ〜……」





 どさっと倒れる俺に、上からルキナが得意げに諭す。え、俺使い魔なの?





「でも人間を召喚出来る魔法なんてないって、アドゥルス先生言ってたけど?」


「そこはほら、魔王の娘たる私の魔力が成せた業わざってところでしょ。私が魔法使ってラルク君が現れたのは間違いないんだし」


「え、いやそれは……」





 アドゥルスが言ってた戦災の子供っていう話は何処行ったんだよ。全然信じてないぞこの娘。





「でもアドゥルス先生に助けられたって……」





 よく言ってくれたリーゼ。





「う〜ん。そこはあれじゃない? アカデミーに来てうろうろしてたところを私に呼ばれた的な。てかその辺何でもいいかな。私最近使い魔が欲しかったから」





 おい、設定全部無視したぞ。その上自分が欲しかったからという、何て強欲っぷり。俺は初めてルキナが魔王の娘なんだと痛感した瞬間である。





「ってことで、ラルク君は私の使い魔だからね。オイタしたらお仕置きだからね」

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