第17話 お仕置きと主従関係
「ち、ちょっと待って……」
俺は慌てて止めに入る。ルキナみたいな可愛い女の子の使い魔。二次元脳だったらむしろこっちからお願いしたいくらいだ。
けど、いくら二次元みたいでも、此処は二次元ではない。そこは俺もメリハリはついている。学生の頃、使いっ走りにされていたことのある記憶がふつふつと蘇ってきた。
「俺はアドゥルス先生を訪ねて来ただけなんだ。君に呼ばれたわけじゃない。だから、俺はルキナの使い魔なんかじゃあ……」
俺は設定に忠実な弁明に入る。下手なことを言って転生者とバレるのは絶対に避けたいが、ルキナの使い魔になるのも御免被りたいところだ。そんな思いで申し出てみたものの、ルキナは少し目を見開いて俺を見る。
「ふぅん。そういうこと言うんだ」
「え?」
「これはやっぱりお仕置きかなぁ」
言うが早く、ルキナは俺を突き飛ばす。俺より小柄な女の子なのに、凄い力で俺は仰向けに倒れてしまう。
「っ……」
何するんだ。俺が口にする前に、ルキナはあろうことか俺を足蹴にして踏ん付ける。そして、徐々に体重を乗せ始めた。
「うわ、ちょ……。ぐっ、ぬぐくうぅう……」
ルキナの体型は大柄ではない。女の子らしい身長で俺より低い。なら体重もそんなにない筈だが、力の入れ具合が絶妙なのか今にも押し潰されそうな圧力を感じた。ぶっちゃけピンクのパンツ見えてるけど、そんな余裕はなかったりする。
「このまま魔法使ったらどうなると思う?」
満面な笑顔でルキナはそんなことを言い出した。この娘やばい。可愛いのは見た目だけ。むしろ、リーゼよりこの娘の方がやばいんじゃないか。女子高生みたいに幼い顔立ちのくせに、とんでもないドS少女である。
「ま、魔法って、雷を出す気なのか?」
恐る恐る尋ねる俺に、ルキナは「うん。そうだよ」と無邪気に肯定した。多分本気だ。素直にそう感じさせるルキナ。その横で、リーゼが声を上げる。
「出た。ルキナの悪い癖。そんなことしてないで早く案内するんでしょ。掃除当番減らしてもらえるんだし」
「それはそれ。これはこれ。それともリーゼはこの子を庇おうってこと?」
「はぁ? んなわけないでしょ」
おい。助けてくれねーのかよ。
「ちょっと待って。た、助けてリーゼ」
「……リーゼって呼ぶなって言ったはずだけど?」
「あああぁ、ごめん。助けて下さいリーゼロットさん」
アドゥルスがいない今、俺の命運はリーゼに掛かっている。それは明白だ。何としても
此処は見放されるわけにはいかない。
「お願いします」
「はぁ、もう」
リーゼは大きく溜め息を吐く。頭に手をやってしょうがないと言った風だ。それでも何とかしてくれるなら願ったりである。
「ほらルキナ。その辺にしとかないとまたアドゥルス先生に怒られるわよ」
「大丈夫大丈夫。ちょっとお灸を据えるだけだから」
「そんな事言って、前みたいにやり過ぎて壊しても知らないわよ」
「……もう、分かったってば。今度は大丈夫だと思うけどなぁ」
何やら随分と怖い会話をしている。俺は聞かなかったことにして、ルキナが足を退けたと同時に立ち上がった。
「あわわっ」
「そんなに怖がらなくてもいいのに」
普通に怖いわ。さっきまでルキナに対して良い娘だなと思ってた俺をぶん殴ってやりたいよ。これならまだリーゼのほうが、いや、すぐに燃やされかねないリーゼも嫌だ。今からでもこのクラス止めたくなってきた。
「じゃあとりあえず闘技場に行くわよ」
「むぅ。ま、今回は仕方ないか。ラルク君も……」
「は、はい……」
「ちゃんとついてきてね。オイタはダメだよ」
可愛く言うな。怖いのに可愛いって何かずるいぞ。俺は何とか精一杯返事をして大人しくすることにした。
リーゼを怒らせると燃やされる。つまりほぼ死ぬ。ルキナに逆らうと電流という名のお仕置きをされる。言うまでもなくほぼ死ぬ。完全に八方塞がりじゃないか。この案内イベントもさっさと済ませたほうが良さそうだ。
再び中庭に出てきた俺たちは闘技場とやらに向かう。一度同じ通った道であるが、見た目緑に囲まれた庭園と変わらないのに途中で道が変わったようだ。なるほど。これは一朝一夕には分からないのかもしれない。並んでいた白い石像も獣だったり、鳥っぽかったりと色んなものが象られていた。一応この石像が目印になるかと思ったが、すぐにそんなことはなさそうだと思い知る。道は続いているのに、石像はすぐになくなってしまったからだ。配置場所も決まっているのかもしれない。しかもだ。迷路みたいに道が入り組み始めていた。
「この辺分かりにくいでしょ?」
「そ、そうですね……」
ルキナが話しかけてきた。何か余計なことを言ってしまったら。そんな懸念が頭を過(よぎ)って一瞬返事に躊躇してしまう。しかし無視するわけにもいかず、必死に無難な答えを口にした。
「何で急に敬語? 私急に態度変えられるの嫌いなんだけど」
無茶言うな。とは思うがとても口に出来そうにない。
「じゃあ、普通の話し方でいいのか?」
「別にいいよ」
にっとルキナが笑う。正直敬語は俺も苦手とするところである。有難いことではあるけど、ルキナにとっての使い魔の定義がよく分かんないな。
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