第15話 道案内とスリーサイズと学食
俺、リーゼ、ルキナの一行は、講義中であるにも関わらず外を歩いていた。中庭という奴だろう。敷き詰められた綺麗な石の上を歩く。周りは緑が生い茂り、庭師でもいるのか。立派な庭園だった。小さな緑の壁だったり、アーチが造られていた。所々に桃色の花が咲いており、綺麗に彩られている。飽きることのないように見る者を楽しませる工夫が為されていた。
また白い石像もちょいちょい並べられている。自分の背の半分くらいの大きさのものがほとんどだが、驚くべきはその精巧さである。ディティールにまで手が込んであり、まるで本物。というかこの竜の石像なんか今にも動きそうだな。俺がつい立ち止まって眺めていると、ルキナに呼ばれてしまったので俺は駆け足で二人に追い付く。
それにしても、案内するとは言いいつつ、時間をたっぷり使えるわけじゃない。今の講義の時間がタイムリミットで、次はまた別の授業が始まる為それまでというわけだ。
一応授業には出ようという意思は二人ともあるようだ。その点について、俺が何か言うこともない。その決まった時間内で、何処を回ろうかと話し合いが為された。
「まずは学食でしょ。それから闘技場とかどう?」
「と、闘技場?」
「それでいいんじゃない?」
ルキナの提案にリーゼも納得の色を見せる。むしろ俺の方が異議を唱えたいくらいだ。アカデミーってことは此処は学校だろう。なのに、闘技場というのは穏やかじゃない。
「……それって何するとこなんだ」
「そりゃあ、戦うところでしょ」
何言ってんのこいつ。みたいな眼差しでリーゼに突っ込まれてしまった。ですよね。見ればルキナも同様の反応である。
「でも此処って学校なんじゃないのか? そんなとこに闘技場なんて物騒なもんがあっていいのか」
「まぁ、確かに珍しいかもしれないけど。魔法なんていくら覚えても、ちゃんと使えなきゃ意味がないし」
「それに、ちょっと街を外れたら魔族に襲われることもある。魔法である程度戦えるようになっておくことも必要なことよ」
な、なるほど。俺は納得しておくことにした。いや本当はしてないけど。とりあえず街からは絶対に出ないこと。これだけ覚えておこう。魔族ってことは要するにモンスターに違いないが、魔法なんか使えない俺に対処出来るわけがない。転生者とバレたらほぼ死ぬ。街から出てモンスターに遭遇しても死ぬ。何で死ぬ情報ばっかり集まるんだろうな。
俺はそこでもう少し考えを巡らせる。嬉しくない情報ばかりだが、必要な情報であるのは間違いない。
「とりあえず学食と闘技場ってことかな」
「ええ。あとはやっぱり寮は最初に見せないといけないから、その三つでいいんじゃない?」
「んじゃあそれで決まりね」
確認するルキナに俺も肯定の意思を示す。そして俺は、何と言えばいいか分からないが、討たれた転生者と、この世界における勇者と魔王。そして六英雄について尋ねようと思った。
「学食に向かいながらで構わないから、えっと、教えてほしいことがあるんだ」
「何? リーゼのスリーサイズ?」
「ぶふっ」
思わぬワードが飛び出たので俺は吹き出してしまった。
「はぁ? ふざけないで。ってか何であんたが知ってんのよ」
「この前の健康診断で見ちゃった」
顔を赤くさせて怒るリーゼは、にひっと笑うルキナのほっぺたをギュウゥと横に引っ張る。不意を突かれたのか。ルキナはすぐさま泣き言を口にした。
「ちょ、リーへ。それいひゃい。いひゃいいひゃいいひゃい。ほ、ほめん。いはなひからゆるひて」
「当たり前よ。もし言ったら絶対に許さないから。あんたも変なこと聞くんじゃないわよ。次そんなこと聞いたら燃やすから」
俺何も言ってねぇ。とんだとばっちりである。
解放されてほっぺたをさするルキナと、いまだ顔が赤いリーゼに、そうじゃないと否定しながら何とか質問をぶつけた。
「大まかでいいから、その、勇者と魔王について教えてくれないか?」
「え?」
二人とも驚いた顔だ。けど俺のほうが驚きたいくらいである。転生者が討ったのが六英雄であり、そのうちの二人がこの世界における勇者と魔王というのは分かった。つまり一時は手を組んだわけだ。しかし今はどうなんだ?
言ってしまえば強大な敵である転生者はもういなくなったのだ。だとしたら、勇者と魔王はどういう位置づけになるのだろう。そもそも俺のなかで、勇者と魔王は敵対しているはずなのだ。一時的とはいえ手を組んだのも、俺は信じられずにいた。
「私のお父さんは剣術や魔法を皆に教えたり、街の復興に協力したりしてるけど」
「私のパパは魔族を統制してるかな。野良の魔族も多いから、配下にしたり討伐したり」
「……な、何か平和だな。いや、勇者って打倒魔王だったり、魔王も街を襲ったり世界征服を目論んだりするもんじゃないの?」
俺が今まで培ってきた経験と違うぞ。勇者と魔王の対立の構図は何処に行ったんだ?
俺はつい興奮して二人に詰め寄ってしまう。
「昔はそうだったみたいけど」
「六英雄として一緒に戦った時に意気投合しちゃって、今ではよく一緒に飲んだりしてるかな」
「うえぇ?」
勇者と魔王が笑いながら、肩を組んで一緒に飲み明かしているのを想像してしまう。いいのかそれで。いや、確かに平和で良いけども。勇者と魔王の肩書き的にそれはまかり通っていいのか。
何処か納得出来ないでいるが、そのうち最初の目的地に着いたようだ。
「はい。まずは此処が学食ね」
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