第14話 ツンとヒステリックと道案内
「ほら。リーゼとラルク君も」
「えっと、よろしくリーゼ」
ルキナに促され、俺なりに頑張って声をかける。自分から能動的に動くことはまずない俺だが、基本的に空気を読むスキルはあると自負している。だが、その自信も喪失しそうだ。
「気安く呼ばないで。私のことはアルクレイとでも……いややっぱいい。リーゼロットって呼んで」
睨まれたままに怒られてしまう。リーゼの方が呼びやすいんだけど。そんなことを思ってしまうが、とても口に出来そうになかった。こんなんでやっていけるのか。既に俺の胃はきりきりと痛みを訴えていた。
「ま、最初はこんなもんだろ。それよりやらんとならないことがめちゃめちゃあるからな。とりあえず……」
「アドゥルス先生!」
「おっ?」
突然扉が開かれたところに、若く綺麗な女性が立っていた。長い水色の髪。白く端麗な顔立ち。ノースリーブでグレイの服。太腿近くまで垂れ下がってる感じで、下は黒のズボンをちゃんと履いている。少しひらひらしてる印象の服だが出ているところは出ているのがよく分かる。まるでモデルのような美人さんが、見れば据わった目をして息を荒くしていた。
「いつになったら戻って来るんですか! いきなり私に全部押し付けたっきりで。わ、私にはこれ以上無理です。皆もう収拾つかなくなってます」
「あ……すっかり忘れてた」
「はあ!? 忘れてた!? リーゼさんとルキナさんが喧嘩してるようだから止めてくるっていきなり講義中に出て行って、二人からは講義をほっぽり出してる最中にも関わらずマーブルさんに会いに行くって聞いて、どれだけ待たされるかと思ったらこんなとこで何してるんですかっ!」
はぁ、はぁといきなり捲し立てる美人さん。いったい誰なんだと訊きたい所だが、流れから察するにアドゥルスと同じく先生をしてる人みたいだな。
「とにかく来てください。私だって自分のクラスがあるのに、いきなり二つ分のクラスなんて見てられません」
「いや、俺は今度からこいつらの専任になるはずで……」
「はぁ!? それは聞いてますけど今はまだ講義の時間ですよね。それをほっぽり出したのは一体、何処の誰ですか?」
俺は関係ないはずだ。なのに俺も、うっと怯んでしまいそうになる。女の先生はこれでもかというほど、リーゼの睨み以上にキッと射殺すように眼光を光らせる。
「お、俺ですね。あーもう俺が悪かったですから。怒らないでくださいエレーナ先生」
「あ~あ、アドゥルス先生怒られてる」
「かっこ悪いですね」
「うるさいぞそこ。エレーナ先生すぐ行きますから外で待っててください」
「すぐですよ!」
「はいはい」
いきなりの闖入者はかなりキレていた。今まで一番怖いかもしれない。
「ったく、おいラルク」
「あ、はい」
俺は訳も分からぬままにアドゥルスに手招きで呼ばれる。とりあえず説明してくれないかな。教室に残るリーゼとルキナには聞こえないように、手を口元に添えてアドゥルスは言う。
「まぁそういうわけだ」
「いや全然分からない」
「簡単に言えば、さっきの先生だけだと手に負えなくなったから俺がもう一回行くことになった。本当はお前に学校のこととか、魔法のこととか真っ先に教えるべきなんだが無理になったというわけだ」
「いやいや、そこかなり重要じゃないの? 俺がこの世界のこと何も知らない転生者ってバレたらまずいよね?」
「とりあえず予定変更してリーゼとルキナに後は任せる。だから先に言っておく。死ぬな」
「……え、あの二人? いや、余計死ぬ予感しかしないんだけど」
この先の展開なんか分かり切ってるよ。絶対あの二人が喧嘩して俺が巻き込まれるんだ。俺は断固拒否してアドゥルスに助けを求める。
「……じゃあそういうわけでリーゼ、ルキナ。悪いがこいつにアカデミーのなかを案内してやってくれないか。訓練場とか学生寮とか。な、頼んだ。代わりに掃除の二週間を一週間にしてやるから」
「あ、ちょ……」
「あ、いいですよ。ね、リーゼ」
「ま、まぁいいけど……」
ひでぇ。了承してないのに、アドゥルスは無理矢理強行した。罰が軽くなるということで、ルキナもリーぜも飛びついてやがる。
「よし頼んだ」
「アドゥルス先生早く!」
「あ〜はいはい今行きますよ」
「はいは一回です」
おいおい本当に行っちまったぞ。どうすればいいか分からない分、一気に心細くなってしまう。
「んじゃあ、授業もなくなったし。行こうかラルク君」
「ぅえ?」
いきなり背後に立つルキナ。心臓に悪い。びっくりした俺の反応を見てルキナはクスクスと笑う。
「え、何その反応。面白いね君。リーゼも行くよ」
「……仕方ないわね。まずは何処に行くの?」
ルキナに言われ、一応リーゼもついて来てくれるようだ。ガタッと立ち上がり、教壇近くにいる俺とルキナの元に入る。
「そうね。ラルク君は何処から見たい?」
と言われても困る。まずこの世界のことすりゃ分からないくらいだ。何があるのかすら分からない。下手なことが言えない分、余計なことは口にしないことにしよう。
「何処からでも良い。二人に任せる」
努めて俺は爽やかに返す。自分でも似合わないセリフだ。言ってから思う。もしかしたらキモッと暴言が飛んでくるかと思ったがそれはなかった。
「うん。じゃあ任された」
……問題児って言われてるけど、けっこう良い娘かもな。
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