第13話 重大発表と新しいクラス

 勇者の娘と魔王の娘。硬直した俺の表情はどんな顔をしていたのか。いや、冷静かつ客観的に考えてみれば簡単に分かることだ。眼を少しだけ見開き、ひくひくとつり上げた口角を震えさせる。一言で言えば、俺はアドゥルスのあまりに衝撃な事実に、苦笑いを零していた。





「マジか」


「おう。大マジだ」





 まぁ、魔法が存在する異世界なんだとすれば勇者や魔王の存在は不可欠と言ってもいいだろう。むしろ、転生した俺がなれるものだと錯覚していたくらいだ。だがその思惑は大きく外れ、勇者と魔王は別に存在するばかりか、目の前にいる女の子が勇者に魔王の娘さんだと。


 いや、この世界においての勇者や魔王がどんなもんかは知らないけど、六英雄なんて呼ばれている分、テンプレ通りかなり凄そうである。とんだ大物が目の前にいるわけだ。


 そんな血統書がついた二人はそれぞれの反応を見せる。





「あはは、驚いてる驚いてる。それで、ラルク君はどういう顔してたのかな?」





 ルキナはニヤついた顔で得意気であった。幼気だった印象がガラリと変わり、目線が鋭くなる。ルビーのように赤い眼をしていることもあり、何だかただならない雰囲気が漂う。元々女の子に縁がなかった俺だ。完全に思惑がバレてると思うと、かぁと照れ臭くなった。そんな俺の様子に、ルキナは一層眼を鋭くさせる。





「な、何でもない」


「そ。それならいいけど」





 そう言ってルキナはケラケラと笑う。く、何だかおちょくられた気分だ。


一方リーゼと言えば、肘をついて不満気な表情をしていた。





「別に、勇者の娘とか関係ないし」





 そういう認識が好きじゃないのかな。そんなことを思ってリーゼを見ていると、リーゼがキッと蒼い眼で睨んできた。





「何? ジロジロ見ないでよ」


「ぅ、はい」





 火炙りにされたとか関係なく、純粋にリーゼの威圧感に圧されてしまう。俺何にもしてないのに、何でこんなに好感度低いんだよ。むしろマイナスじゃないか。画面越しだったなら、何だこいつと罵倒してやってるとこだぞ。





「よし。んじゃあ仲良くなったところで……」





 一体何処を見れば仲良くなってんだよ。どうやらアドゥルスの目は節穴であるらしい。しかし、俺の盛大な突っ込みはスルーされてアドゥルスは続ける。





「重大発表がある」





 まだ何かあるのだろうか。俺にとってさっきから重大発表ばっからでそろそろ勘弁してほしいとこである。





「まだ転入生がいるとか?」





 ルキナが思い付いたように言葉を投げ掛ける。一緒に学ぶ仲間が増えることに喜んでいるっていうより、新しい刺激があることに喜んでいる感じがする。


 ルキナの予想に反し、アドゥルスはいやと軽く否定した。





「元々こいつが異例だからな。他に転入生はいない。だが重要だぞ。何せ授業スタイルが大きく変わるからな」


「授業が、ですか」





 リーゼが訝しげな表情を作る。今までこの学校がどういうやり方を取ってきたのかは知らないが、反応からして今知らされたらしい。いきなりやり方を変えるとなると、どう変わるのか不安にも思うだろう。俺なんか不安しかない。





「ま、詳細は後々になるが、基本的な講義は今まで通りで行う。ただし、それ以外はこの三人が同じクラスだ。クラスっていうか、チームだな」


「え?」





 三人というフレーズに驚く。いまいち要領が掴めない俺だが、それ以上に反応したのはリーゼである。





「へぇ、何か面白そう」


「ちょっと待ってください!」





 ルキナが朱い眼を輝かせている横で、リーゼがバンッと机を叩いて立ち上がる。右の片手のみ叩きつけたところに、動揺ゆえの荒っぽさが垣間見える。





「もう決定事項だから抗議は却下だぞ」


「うぐっ」


「質問なら挙手な」


「はい」





 リーゼが律儀に直立したまま手を挙げる。それを確認すると、アドゥルスも「ったく、じゃあリーゼ」と発言の許可を与えた。





「まずどういった経緯でそのようなシステムになり、何故この三人なのですか?」





 リーゼのルキナに対する印象は最悪だろう。新しいシステム以上に、この三人が同じチームであることに不満を持っているのは容易に分かる。





「答えは簡単だ。お前ら二人とも、優れた魔力を持っていて、他の奴らとは頭二個分、三個分と抜き出てんだよ。んで何より、それを覆すくらいにお前らが問題児だからだ」


「え?」


「すぐ喧嘩するし、危険な魔法使うし、おとなしくしねぇし、人の言うことは聞かねぇし。というか、お前らが本気になったら止められるの俺と学長くらいだろ」





 さすが勇者の娘と魔王の娘。どうやら大人顔負けの実力者らしい。それも驚きだが、アドゥルスなら大丈夫ということに、俺の中でアドゥルスの株がちょっと上がった。





「そ、それでも私がルキナと同じだなんて……。それに、その得体の知れない男と一緒というのも認められません」





 まぁ、確かに得体が知れないよな俺。自分でもそう思ってしまうあたり、リーゼからしたら相当だろうと思えた。だがアドゥルスはといえば、リーゼの言い分を聞き入れる気はないようである。





「いや、だからラルクだって」


「そうではなくて、いきなり見ず知らずの人間と同じクラスと言われても、納得がいかないと言ってるんです」


「それでももう決まったことだ。受け入れろ。もともと学長が決めたことだから俺だって先が思いやられるんだぞ。ぶっちゃけ、俺がお前らのお守り担当になったわけだからな」


「むぅ……」





 どうにも覆らないことが分かると、リーゼはそれ以上何も言えないでいるようだ。アドゥルスは言う。





「ラルク。お前はまだ分からねぇだろ。後でちゃんと説明してやる」


「あ、あぁ」





 さすが先生をしてるだけって察しが良い。確かに俺にはよく分からなかった。その間にも、リーゼは観念したのか反論することはなかった。ただ不服ではあるらしく、顔をしかめているリーゼに、ルキナが声を掛けた。





「よろしく。リーゼ」


「く……」





 にっこりではなく、にたりと言ったほうが相応しい笑みを見せるルキナに、リーゼは複雑そうだ。キッと睨むだけでリーゼは再び席に着く。





「それに、ラルク君もよろしく」


「あ、うん。よろしく」





 まだラルクの名前には慣れないが、ルキナみたいに可愛い女の子から呼ばれるとくすぐったい。出来るだけ名前に慣れていきたいと思った瞬間である。

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