拝啓、ボクを捨てた父さんへ
吉永 悠
ボクは父さんを許すよ
「あなたー、こっちの荷物を運んでー」
「あぁ、分かった」
もう3年、か。あいつは元気だろうか? 俺の事を憎んではいないだろうか? 否、きっと憎くて堪らないだろうな。
「ねぇ、お、お義父さん! これお義父さん宛てじゃない?」
この子は新しい奥さんの連れ子。俺の事を照れながらお父さんがって呼んでくれる姿は可愛らしく思える。
「誰からだ?」
中には2~3枚の文字連ねただけの手紙だった。
「拝啓、ボクを捨てた父さんへ⋯⋯っ!?」
おもわず手紙を投げ出してしまう。心当たりがあり、動揺してしまう。
「どうしたの?」
「何もない!」
手紙を拾い続きを読む。
「父さん、聞きましたよ。再婚おめでとう⋯⋯」
ーーボクを捨てたのが確か3年前の9歳の頃だったかな? 母さんは昔からボクのことをゴミ同然に扱ってきます。それは知ってるか。
"捨てた"という言葉を使ってはいますが、別に父さんのことを怒ってるわけじゃないんだよ?
ただ知って欲しいんだ。父さんに隠れて母さんにされた事。
あれはまだ6歳の頃かな。父さん暫く出張に行っていた時期あったでしょ? その頃母さんは家に男を連れ込んで毎日行為に及んでたんだ。それもボクにその男のを咥えさせて。マジでゲロ吐きそうだった。
タバコを何度も手足に当てられたなー。痛い、熱い! って叫んでもニヤニヤしながら続ける母さんと浮気相手。幼い頃の話なのに鮮明に覚えてるよ。
あ、そう言えば! 手足の爪を全部剥がされたこともあるんだ。泣き叫んでたらさ、静かにするまで1枚ずつ剥ぎ取るって。逆効果なのにね。(ココだけの話! 本当は爪の裏の皮膚が見たかったらしい笑)
殴る蹴るは当たり前だった。それは父さんも知ってるよね? ボクの唯一の味方だった父さんだから。
知ってるよ? ボクのために今いろいろしてくれてるんだよね。親権をもぎ取ろうとしてくれたり。
もう、意味は無いけど。
最後に父さん、本当に再婚おめでとう。父さんが幸せそうでよかったです。ボクは今にでも死にそうですけど。
ボクはボクを捨てた父さんを許すよ。
中田 優太
「うっ、すまない、優太」
不甲斐ない。息子1人さえ守りきれない父親など、そんなの失格だ⋯⋯
「まて、嫌な予感がする」
妻に出てくると伝え俺は昔住んでいたアパートへと向かう。
「優太ッ!!! っ!?」
臭い。なんだこの異臭⋯⋯
「園華!! 優太はどこだ!?」
元妻、園華は布団の中で何かに抱きつきながら泣いていた。
「あ、な、た。私、やっ、と気付、いた。息子の、大切さ、を」
「どうしたんだ! こんなに痩せこけて」
「優太ぁ。優太ぁ」
「おい、園華!」
いつもは当たらない俺の感。それが最悪な形で的中してしまう。
「ゆう、た? おい、風呂はいってるのか? 臭うぞ? おい、動けよ。父さん、会いに来たぞ? 返事、してくれよ。声変わりはしたのか? 俺に声を聞かせてくれ。お前を捨てたことを、謝らせてくれ」
いくら揺さぶっても目覚めることは無い。あとから聞いた話によると死後3日は経つそうだ。
「あなたぁ〜、ごめんなさい」
「頼む、今は話しかけないでくれ。お前を殺したくて仕方が無いんだ」
俺はそのままキッチンへと向かう。そこにはぐちゃぐちゃなホールケーキがあった。
『母さん、誕生日おめでとう』
そのクッキーが残っていた。恐らくお金を貯めて買ったのだろう。
『家族の絵』
そこには俺と園華、優太3人の幸せそうな絵があった。あいつ、絵上手くなったんだな。
「日記?」
『父さんは今日も帰ってこなかった。早く3人で遊びたいな』
『父さんは再婚するらしい。少し寂しいけど幸せならいいかも』
『母さんが今日褒めてくれた。「たまには役に立つ」だって、嬉しいな』
『今月もお小遣い貰えた! 3年間貯めて3600円もあるぞ! これで母さんのケーキ帰るなぁ。⋯⋯3人で一緒に食べたいな』
『今日はケーキ買ってきた! 早く母さん帰ってこないかなー』
日記はそこで終わっていた。
「はは、あんなに虐待されても、園華の事を、捨てた俺の事を愛してくれてたのか」
俺が今の妻を選んだ理由は同じ境遇にあったからだ。俺は1つの不幸より多数の幸せを選んだ。優太という不幸を捨てて⋯⋯
園華はこの後逮捕された。俺は虐待も殺人に関与したわけじゃないので捕まることは無かった。
だが、見えない俺の罪は一生、否、生まれ変わっても消えることは無いだろう。
俺にとって幸せな3年間は、あいつにとっても、園華と居れることが幸せな3年間だって思い知ったんだ。
拝啓、ボクを捨てた父さんへ 吉永 悠 @haruka025
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