第20話 『真実』とは……。

 深夜0時。日付が変わるとともにエレベーターに乗り込むと、階数のボタンの下にあった蓋を、鍵のように施されていたネジをコインを使って捻り、湊は開けた。そこには、『B4』と書かれた隠されたボタンがある。このマンションには、地下四階があるということか。そこが、研究所なのだろう。

 まさか、そんなに近いところにあるとは。

 湊は、いたずらっぽく、へへへ、と笑った。

「ものすごく盲点な場所でしょう」

「うん」

 それで一つわかった。わざわざ夜中にしたのは、このエレベーターでマンションの住人と絶対に鉢合わせしないようにするため。

 しかし、その研究所があるのと同じマンションに湊が暮らしているという事実は、彼は未だに研究所が彼を所有しているモノであるという意味に他ならないだろう。

 ああ、そうだ。

 また一つ、苗の中に記憶が舞い戻ってきた。それで苗は研究所の人間とひと悶着起こしたことがあった。湊は都合のいいモノじゃない、そう叫びながら、大暴れしたことがあった。だから、つまみ出されて、今は湊と同じ家で暮らしているのだ。

 もしかすると、人がいなくなった夜中に忍び込もうと湊が言った一番の理由は、そのせいなのかもしれない。

 ふと、横を見ると、にやにやと口元を歪めて、彼は必死に笑うのを堪えているようだった。

「思い出したんだ」

「う……うん。なんか、他にもあるのかな。都合よく忘れちゃっていること」

 なんだか、恥ずかしい。エレベーターというこの狭い箱の中に二人で閉じ込められていると思うと、なおさらである。

「あったとしても、僕から聞かないほうがいいんじゃない。自分で思い出したほうがまだダメージ少がないでしょう」

「それもそうかも」

 そうつぶやいた苗が嘆息したその瞬間、エレベーターは止まった。そして、扉が開く。ほんの少しだけ、苗はほっとした。

 そこに広がっていた世界は、苗の想像とそこまで大きくかけ離れていなかった。無、というものさえ意識させるような、白ばかりの壁や、すべてがあるべきところにあり、例外は許さないというような整然とした棚の中の器具。そこに聳える、大きなモンスターを思わせるいくつもの機械。

 それから、つんと鼻につく臭いが充満していて、それはとても苗にとって馴染みのあるものに思えた。

 そうだ。この薬品の臭い。懐かしいと思ってしまうのは、まだ完全に目覚め切っていない苗の封じ込めた記憶が欠伸をして、いまにも目を覚まそうとしているからだろう。

 どんどんと、よみがえってくる。入り口はここだけじゃない。この研究所は、国家が秘かに動かしている、大きな機関だ。とてつもないその広さは、東京都の大きさくらいはあるだろう。

 言ってみれば、一つの地下帝国だ。

 なぜなら、生まれたクリーチャーたちはある程度までこの中で人間社会に溶け込むための訓練をしながら生活をするからだ。日本の人口を補填しようとしているからには、本当はそれでも狭いくらいなのだ。

 A地区は幹部のいる地区、B・C地区が研究施設、D以降が生み出されたクリーチャーたちが暮らしている区画。

 苗は、湊と一緒に、何人もここで迎え、そして見送っていった。外の世界へ送り出される者、それには至らず処分される者、運命は様々だったが。

「彼の研究室は、隣のC地区だよ」

 湊はそう言って、苗の手を取った。確かに、一つ一つを思い出すように周りをきょろきょろと見まわしながら歩いていると、はぐれてしまいそうだった。

 隣の地区、とは言っても、歩いて三十分はかかっただろうか。研究員がいる時間ならば、移動施設内の手段として、車両は一つだけの簡易版の電車が動いている。だが、今は歩いて移動するしかないのだ。

 どこまで行っても無味乾燥で、同じような白一色の景色。苗たちがいたB地区からC地区へ移っても、代わり映えはしない。ただ、扉一つ隔てているだけの同じ場所、というイメージしかなかった。

 トリとの、あの夜の空中散歩とは大違いの、味気ない散歩。

 そんな心のつぶやきを、湊はしっかり受け取っていた。

「あなたに素敵なものを見せられたのが、僕じゃなくてトリだったのが、残念だね」

 ぽそりとつぶやくその声は、どこか一粒、苦いものが混じっているようだった。

「でも、それだってあなたじゃない」

「でも僕は……」

 何かを言いかけて止めたと思ったら、彼の足も止まった。

「どうしたの?」

「ここだよ」

 気が付けば、そこには一つの部屋の扉があった。この研究施設のドアはみんな自動ドアなのだが、前に立っていても開かない。施錠されているのは、当たり前かもしれない。

「どうやって開けるの?」

「そんなの、僕には簡単なことだよ。チートスキルがあるからね」

 あの不思議な力のことを言っているのだろう。確かに、鍵を開けるくらいなんということはなくできそうではあるが。そんなふうに茶化して言っていいことなのだろうか。

 どこか、自分自身への皮肉にも聞こえてしまうのだ。

「冗談だよ。僕は生前の彼にこの部屋の鍵をもらっている。いつでもおいでって言ってくれて」

 そう言いながら、彼はジーンズのポケットからカードキーを取り出した。

「な……なんだ……」

 やっぱり、湊はトリなのだと実感させられる。このジョーカーのカードのように、人を惑わしからかって楽しむ様が。

 中に入ってみると、ここには、今までとは違う、人がそこにいた気配というものがある。無造作に積み上げられた本や書類、椅子の背もたれにかけられた白衣、クッキーの缶とマグカップ。何故だか、そういうものを見て苗は安心したのだ。

 人間らしいものがそこにあることに。

 その中から、苗は時計を探した。湊の命を刻んでいるかもしれない、針が反対周りの時計を。壁にかかっているのは普通の時計。

 どこにあるのだろう。

「僕の命に、もしかしたら、世界の命に関係しているかもしれないものを、そんな簡単に見つかるところに放置して置いたりしないよ」

「それもそうよね」

「ここに隠しているんだ」

 湊は急にしゃがみこんで、そこに敷いてあったラグマットをどけた。すると、そこには床下収納の扉が現れる。なんだか、子供の宝の隠し場所を教えてもらっているような感覚になってしまう。そんな苗の感情を読み取った湊は、少し複雑そうな顔をした。

「でも、見つからずに隠すには、こういう単純なところの方が却って見つかりにくくていいでしょう」

「そうね」

 苗は笑ってしまう。そんな場合でもないのに。なんだか見た目通りの子供らしいところもちゃんと持っていたりすると思うと、今までの皮肉や人をからかう態度も、どこか可愛らしく思えてくるというもので。

 でも、今はそんなことに気を取られている場合ではない。湊の命はこの扉の向こうに眠っている。

 蓋を開けると出てくる一つの時計。大きさとしては二十センチくらいの高さの、外側のケースが木製で、その木の風合いからして年季が入っていることが感じられる。そして、時計の針は金色だった。その針は、鈍く光りながら逆向きに動いている。まるで、間違い探しの映像のように。

「これが、湊くんの命を刻むもの」

「本当の命は、心臓じゃないんだね」

 心臓。そう聞いて、苗はひやりとした。

「この時計が止まってしまったら、湊くんはどうなるの?」

「さあね……終わるんじゃないかな」

「でも、このまま進んでいったらいったで、赤ん坊に戻って、消えていくんじゃないの?」

「言っただろう。ベンジャミン・バトンとは違うって。そうなるとも限らない。どうなるかは、何もかもがわからないんだ。その時この時計が止まるのか、また別の動きをして、僕の命が止まることはないのか」

 湊は、ずっと自分の一寸先の未来さえわからない人生を生きてきたのだ。それを、まざまざと見せつけられているようで、いたたまれなくなる。今までだって、それをちゃんと理解しているつもりでいたけれど、本当には何もわかっていなかったのかもしれない。

 鳥越湊とはいったい何なのか、それを知ることの重要さを。

「この時計に関して、彼は何かを残していたりしないのかな」

「僕もこの部屋の中を探してみたりはしたけど、特には何も見つからなかったよ」

 苗は、改めてこの時計をよくよく観察してみる。カチコチと歯車が動いている感触と、音が聞こえてくる。まるで、湊の心臓の鼓動のように。

 奇妙なのは、針が逆に動いていることだけではなかった。

「ねえ、この文字盤……」

「ああ……数字がちゃんと並んでないよね。僕もそれには気づいていたけど」

 一番てっぺんには八。そこから通常の時計回りに、五、三、九、六、十二、七、一、四、十、二、十一、と並んでいる。だから、本当のところを言うならば、この時計は単純に通常の時間と逆走しているとも言い難いのかもしれない。

 一見不規則に見えるこの数字の並びに、もしかすると何か意味が隠されているだろうか。

 苗はそんな風に考えてみたが、湊は即座に否定をした。

「その規則性についてもいろいろ考えたけど、何も法則は見つからなかった」

「そりゃあ……この不条理な時計に対して何かしら筋の通った理屈を見つけるのは、無意味でしょうね」

「わかっているよ。でも、僕は科学者だからね。そこに理屈を求めるのが自然なんだ。でも、その時計の針を逆に回して世界が真理を失ったときに、理屈で固める科学というものの儚さを思い知らされたよ。そもそも、僕の存在自体が不条理だしね」

「だから、トリさんの時は、諦めて不条理を認めていたのね」

「まあ、そういうこと」

 湊としては皮肉で言い放った一言だったが、苗の中で何かがふっと降ってきたような気がした。どこでどう生まれたのかもわからない、不条理な存在。

 それがぴったりと当てはまるものは……。

「あなたは……きっと……」

 ちゃんと言葉にすることは躊躇われた。だけど、そうせずとも、頭の中で考えてしまった時点で湊にはもう伝わってしまっている。

「僕が、誰かが捨てた半分だって……いうこと……」

 トリと苗が出会ってからの今までの物語は、湊が苗を取り戻す物語ではなく、湊が本来あるべき誰かへ帰っていくための物語だったのかもしれないと。

 そんなこと、考えてみたこともなかっただろう。自分が、本当の自分に捨てられた何かだなんて。でも、理屈のない理屈への一つの筋道としては、それ以上の答えがないことは、きっと湊だって察しているはずだ。

 でも、それをどう受け止めていいかわからない彼は、困惑とも悔しさともつかぬ、単純に苦い表情とも違う、複雑な色をした表情をした。

「何で……僕が思いつきもしなかった可能性を、苗さんはそんなにいとも簡単に、もっともらしいこととして思いつけるんだろう……」

「それはわからないけれど……」

 でも、今の湊の言葉は、またしても苗の中で何か引っかかりを感じさせる。そう、どうして自分の頭の中にはそんなことが浮かんでくるのだろうか。しかも、かなりの根拠のない確信をもって。

 もしかすると、知らないんじゃない。本当は知っているから、こんな風に何かが浮かんでくるのではないのか。

 でも、何で知っているのだろう。苗は、湊が作り出したクリーチャー。湊自身が知らないことを知っているはずもないのに。

 でも、それは本当に真実なのか。

 自分が生まれた時のこと。湊の記憶。本当は、世界が捻じれて真理を失ってしまったのは、湊がこの時計の針をいじったからじゃない。最初からすでに、捻じれていたのだとすれば。

 事実と真実は、もう最初から合致していなかった。

 だとすれば、もともとの事実はどこにあるのか。

 苗は、湊の心臓であると言える時計に触れた。すると、その触れた指先からどんどん流れてくるのだ。まるで、湊の時間が流れ込んでくるように。

 どうしてだ。でも、流れ込んでくるからわかる。これは、湊の時間であり、自分の時間でもあるということを。自分から零れ出した時間であることを。それを、理解してしまう。

 でも、信じられないし、信じたくない。こんなことを言っても、彼は信じないだろう。しかし、答えは一つだ。

 苗は恐る恐る湊の方に向き直り、震える声で言った。

「あなたは……本当は私だった……」

「え?」

「あなたは、私なの」

「何を言っているの?」

 湊が苗を目は、まるで見知らぬ生き物を見るようだった。それは、どんな鋭利なナイフよりも苗を傷つける。それでも、ちゃんと正面から告げなければいけない。

 本当のこと。本当の記憶。何重にも被せられた『真実』という衣。自分の中に戻ってきたあの青い鳥は、本当の苗の半身ではない。失われた真理なのだ。だから、世界は歪んでしまって、苗は湊に生み出されたクリーチャーだという『別の事実』が生まれてしまったのだ。

 ああ、そういうことなのか。

 こうして苗の頭の中に流れてくるだけで、湊にはちゃんと伝わっているはずだ。だから、彼はますます苗をずたずたに切り裂くような、どこか怯えたまなざしで見てくるのだ。

「でも……あなたは僕が作った……」

「駄目だよ。ちゃんと、しっかり私を見て」

 苗も、彼から目を逸らしてはいけない。何よりも、心の読める湊に、嘘をついてはいけない。自分に言い聞かせながら、苗は一つ一つしっかり言葉にしていった。

「真理が失われて世界が歪んだように見えたのは、ただ、元に戻ろうとしていただけなのよ。あなたが、この時計の針をいじったことで」

「やめてよ。自分が何を言っているかわかっているの?……それは、あなたが僕をいらないって言ったっていうことなんだよ」

「うん、わかっている」

「それで、僕をどうするつもり。この事実を壊して、僕を消すの?」

 悲痛な叫びのような言葉に、苗は必死に首を横に振った。ちぎれそうなほどに。そして、そっと湊を抱き寄せた。

「違うよ。それじゃいけないことを、もう私もあなたもわかっている。あなたが作ったこの現実で、人間が減ってしまったのは、人間が人間を疎むようになったから……そういうことだったけど……本当は、私が人間を疎んでいただけだったの」

「そうか……人から受け入れられなかったのは僕じゃない、あなたなのか。だから、人間を疎んだ」

「うん」

 苗は、わずかに震えている湊を抱きしめる力を強めた。

 どんどんと、そこに本当にそこにあった一つの真実が流れ込んでくる。本当の苗自身の姿が。半分が鳥なわけでもない、ましてや、湊が生み出したクリーチャーなどでもない。自分には本当に産み落とした親がいる。

 苗は、自分のことをまるで化け物のように感じていた。湊の妙な能力は本当にあったわけじゃない。ただ、自分が自分を化け物だと感じていた自分が、そういうものとして捨てたからそうなった。それだけのことなのだ。

 化け物みたい。こんな子なら、産まなきゃよかった。

 親が、そう言っていたから。自分はそういうものだと思っていたのだ。

「私は、望まれずに生まれてきた子だから。あんたなんかいらない、って言われ続けていたから。だから、馬鹿みたいに、いらないって言われる自分を捨てれば、ちゃんと普通の人間になれると思ったの」

「それじゃあ、あなたの親と同じじゃないか。そりゃあ、親と子はしょせんは別の人間だ。だから、親が子のことをいらないっていうことは出来てもね、自分で自分がいらないんだなんて、そんなことを言うことはできないんだよ」

「そうだよね」

 今度は、湊の方がぎゅっと苗を抱きしめた。

「わかる。あなたから伝わってくるから、もう僕にはわかったよ。これは僕が作った世界。……あなたは僕をいらなかったかもしれないけど、でも、僕はそれでも離れたくなくて、だから、僕が科学者であなたを作り出したなんていう夢を見てしまったんだね」

「それは当り前よ。あなただって、私なんだって、三ツ橋苗なんだからって、ちゃんと私に認めてほしかった、そういう気持ちがあっても何もおかしくないから、わかるよ」

 そう、自分が自分をいらないなんて言うことは、本当はできないのだ。どこまでいっても、自分は自分で、いらないといった自分は、自分でいたいと願うだろう。

 誰かが、自分が自分でいていいと言ってくれるのならば。

 湊にこの時計をあげた人。

 そう、彼は、苗が捨てたかった部分の自分を認めてくれた人。だから、湊の夢の現実の中でも、彼はただ一人だけ、湊の存在を認めてくれたことになっていたのだろう。彼の声が、今苗の中にまざまざとよみがえってくる。

 君自身の落ち度じゃないことで責められて、自分を忌み嫌う必要なんて、それほど無意味なことはないと思う。本当は、君が君を嫌うことに何の意味もないだろう。どうして無意味なことにそんなにしがみつく。

 柔らかな笑顔でそう言ってくれた。それで、呼吸ができるようになった気がしたのだ。

 自分を認められない自分。それを手放せばいい。彼がそう言ってくれたように。

 そんな思いに駆られて、湊というものとして自分からいらないものを切り捨てた。おかげで、苗はすっかり彼のことも忘れてしまったのだ。自分が自分でなくなってしまったから。

 湊の夢であるこの現実は、それを教えてくれていた。それじゃ駄目だということも。彼が言っていたのはそういうことじゃないのだということを。

 だから、帰ってきてほしい。また、自分へと。

 苗がそう秘かに心の中で祈っていると、湊は困ったように苦笑した。

「勝手だね」

「うん、ごめん」

 湊の手が、そっと苗の頭を撫でた。

「それに、どうしてそんなになんでも不器用なの。なんでも、間違っちゃうの」

「感情がある限り賢くはなれないよ。人間だから。……だから、私は人間が嫌いだけれど、人間というものに執着してしまうんだろうな」

 そんなの、何の理屈にもならないけれど。けれど、自分が自分を納得させるのに、今の苗にはもう理屈は必要ではなかった。

 その答えは、苗より湊の方がきっと知っている。

「本当は、自分を愛したかったからじゃないの」

「そうなのかも」

「馬鹿だね」

「うん」

 馬鹿だから、こんなことが出来てしまった。湊が自分で別の現実を作ってしまったことと同じだ。夢を見ている。たったそれだけのこと。

 それなら、目を覚まさなきゃいけない。

 もう一度、苗はぎゅっと力強く湊を抱きしめてから彼を放すと、時計を手に取った。今もなお、針は逆に動き続けている。苗は、針を動かすネジに手をかけた。

 この時計の針をいじることは、この夢から起こすこと。湊が針をいじってこの世界が真理を失ったのは、無理やり苗を起こそうとしたことにつながってしまったから。

 今なら、それがわかる。

「もしかしたら、彼が僕にこの時計をくれたのは、あなたを起こしてほしかったからなのかな。早く、戻っておいでって」

 それは誰も知らないことだ。湊が作ったこの世界で、湊自身が分からないのなら、苗にだってわかるわけがない。

 でも、わかる。今、こうしていて、真実を一つずつ嚙み砕いていって、怖いという気持ちがないのは、そう信じられるからだ。

 自分が捨てたはずの湊がそう思ってくれていることがちゃんとわかる。だから、大丈夫。

「起きる時間に、針を戻さなきゃね」

 もう一度だけ、湊は苗に抱きついてきた。

「もう、二度とこんな馬鹿な夢は見ないでね。僕を、ちゃんとこうやって抱きしめていてね」

「うん」

 時計の針を、逆回転から通常の回転に戻してやる。何時まで戻せばいいか、それをわかっていたわけではない。でも、手は自然に止まった。

 ごめんね。最後に湊にそう告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る