死神と残り3分の寿命らしい僕

暗黒騎士ハイダークネス

第1話


「君はあと3分以内に呼吸が止まる」


 いきなりそんな声が僕の横から聞こえてきた。

 すぐ横に振り向けば、誰もいなかったはずの僕の病室の椅子に病院着でも、白衣でもない別の誰かが腰かけていた。


「やぁ、僕は死神、君の命の回収者さ」


 そう彼は名乗った。


「・・・ふーん」


 僕は持っていたストップウォッチを動かした。

 痛い人かな?なんてことも少しは思ったけど・・・もうすぐ僕の命は尽きるんだな~と漠然とした思いだけが僕の中に溢れた。


「いやいや、なんでストップウォッチのボタンなんて押すのさ」


 そう彼は無表情でそれを受け止めた僕に対して言う。


「なんとなく?」


 3分で満足するゲームなんてないし、手元にただあったからとしか言えない。

 メールを家族に僕が死ぬのを知らせても・・・来るとも思えないし、来てほしいなんてのも思わない。

 仲の良い友達はみんな、この病院で死んだか、出ていいた彼らの住所は知っていても、その連絡先なんて知らない。

 ナースコールをしても、本当に死ぬのなら・・・人生最後に会う人というのなら、親しくない人に見送られて死にたくはない。

 僕のこの行動に意味なんてない。ただの僕のくだらない意地だ。

 そう・・・ただ無為に無駄に僕はただ最後の時間を潰しているだけだ。

 後3分で本当に僕が死ぬのなら、なおさら・・・なんとなくで、こんな人生を終わらせてしまってもいいんだ。

 ・・・ただそうしたかっただけだ。


「いや、3分後には君は死んでいるんだから、見れないじゃないか」

「あ・・・」


 手元の進む時間をただじっと眺める。


「・・・」


 本当に死ぬのなら、死んだ後のことなんて今考えたって仕方ないか。


「まぁ・・・いいんじゃない?」

「ふーん、何も反応なくて、僕としてはつまんないよ~」


 何の反応も示さない僕に、そう彼は言った。


「ごめんなさい?」


 そういう彼に僕は反射的に謝る。


「はは・・・回収対象に謝られるなんて変な気分だね~僕の回収する人らは、みんな喚いたり、悲鳴を上げたり、お金を渡そうとしたり、僕に殴りかかろうとしたり、家を燃やしたり、近くの人を襲ったり、その行為がいきすぎる場合には僕が先に回収して殺しちゃうんだけどね」

「ふーん」


 殴りかかろうなんてこんな細腕で思わないし、ここにライターなんて燃やすものなんてない。

 お金なんて僕は持ってないし・・・悲鳴を上げるだけの怖さなんて僕には彼からはそう感じなかった。

 たとえるのなら、近くにいる身近なお兄さんのような?昔、隣の病室にいた吉田お兄ちゃんみたいな感じ?


「はぁ・・・僕なりに怖いことを言っているつもりなんだけどな~~~ここまできて、表情一つ変えないなんて・・・本当につまらない人間だね、君は」

「じゃあ、殺す?」


 躊躇い気味にそう首をかしげながら、彼に聞いてみると、彼はこう言い返した。


「別に君はつまらないけど・・・他の命の害じゃない。ただ最後の3分を・・・もう1分か、それを満喫してくれればいいさ」


 そう・・・ただストップウォッチを眺める僕をつまらなそうな目で見つめる。

 ちょうど3分たつころに・・・僕の意識は暗闇の中に沈んだ。






 ピーーーー


 そのすぐ後に彼の心臓は止まり、心電図の音が周りに響く。

 すぐさま医者が駆け付け、状況を確認して、彼に心肺蘇生を試みる。

 だけど、彼の心臓は動きださない。

 8分間・・・何度も何度も・・・何度も何度も試みる。

 その幼い命を救うために何度も何度も懸命に・・・その横では看護士が必死に彼に呼び掛ける。


 いつもなら、すぐさま回収していなくなる彼だが、今日はなぜだか、彼の最後が気になって、そのまま壁際で彼の魂が身体から抜け出す様を見守ることにした。

 ふと、その様子を見ながら、死神は彼の手元から離れて落ちているストップウォッチを見つめる。

 ストップウォッチは『3:00:01』の表示で止まっていた。

 そんなことは関係ないと回収をしようと、彼の魂に少しふれてみると・・・


『苦しい』『寂しい』『痛い』『辛い』『悲しい』


 そんな感情ばかりが、彼の中に流し込まれた。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 いつものように彼の中に流れ込んできた感情に、自分を落ち着けるように息を吐いてから、流れ込んできた内容を振り返ってみる。

 さっきのような感情ばかりだったが・・・その感情の中には『死にたい』に関連するようなことはあっても、『生きたい』と願う気持ちがほとんどなかった。

 ただ・・・最後に『看取ってくれて、ありがとう』と彼に向けられた言葉があった。

 それを知った彼は少しの間、目を閉じて、考え込む。

 いつも回収してきた人間は自分のことばかりで、命を奪う彼に向けては恨み言しか言われなかった。

 そんな中で・・・彼に『ありがとう』と、そう言葉を向けたのだ。

 少しでも彼を生かしてあげたいという気持ちが芽生え、考え始めて、それを思いついた。

 これからすることは死神の同僚からすれば、彼の為そうとすることは決して褒められるべきことではないだろう。

 だけど・・・彼はそれを行う。


「・・・口約束といえど、それは契約をなされたことをみなしてもいいか・・・」


 そう自分への言い訳を並べる。


「・・・これは依怙贔屓なんかじゃない、契約によって、彼が得られた正式な対価なんだ」


 そう心臓が止まった彼の魂を引きもどす。


「そして、最後にこれは・・・僕なりの君に対するただの願い」


 『ありがとう』の対価に『生きて』という願いを込めて、魂を元の身体へと返した。


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