ゲーマー
そして時間は流れてお昼休み。
「……思ったよりも退屈じゃのう。」
がっかりを体現したような顔と声色で狐娘がぼやく。
「そうだろ?言ったろいいもんじゃないって。」
「まさか今更こんなものを延々と聞かされるとは思わなかったぞ。」
「でも国語や日本史は流石に今更釈迦に説法じゃないかと思っていたが、まさか英語も数学も出来るとはな。」
「なにぶん暇だったのでの。メリケン語は喋れはせぬが読み書きはできるぞ。」
今更メリケンっていつの時代に生きてるんだお前は。その時代から生きてたんだろうけど。
「数学は?」
「あんなもん常識じゃろうて。あれが分からぬのは猿じゃ。」
じゃあ私も猿だ。全然分からん。
「安心せい、人間なんてただのでかい猿じゃ。大差ない。」
安心できる要素がない。猿は猿らしく威嚇して遺憾の意を表明してやる。ウッキッキー。
「まぁまぁ、今度勉強教えてあげるから。さ、ご飯ご飯。」
横一列に並んでいる机の2つをくっつけ、残りの1つから椅子を持ってきて3人で昼食を取る。相変わらずバカみたいな大きさの弁当箱のせいで正直机2個でもギリギリだ。
「おっと…これだと私は混ざれそうにないかな?」
柏台が弁当箱を持って困り顔だ。
「いや、机もう一個くっつければいいだけだし大丈夫。大体こいつの弁当がバカみたいにでかいのが悪い。」
私と狐娘で席を動かし柏台の分のスペースを確保する。元々狭すぎたのでちょうどよかった。
椅子が足りないのは席を立とうとしている生徒に許可を取って借りた。
「狐禅寺さん、桜城先生からは海外からの帰国子女って聞いてたから大丈夫かなって様子を見にきたんだけど……この分だと私の杞憂だったみたいね。」
「心配してくれてありがとう。でも、2人がいるから大丈夫。GWですっかり仲良くなったから。」
のじゃ口調じゃない狐娘にはやはり慣れない。なんか背筋がぞわぞわする。
「それにしても日本語随分上手いんだね。すごい。」
「向こうでも日本人と話すことが多かったからね。」
「そういえばどこに居たの?」
とうとうきたかこの質問。さてさて、なんて返すのか。
「アメリカ。私ハーフだからこんな髪の色なのよ。」
しれっと大嘘つきやがる。お前英語は喋れないだろ。
「すごい!今度英語教えてほしいな。ネイティブな。」
ほらみろ、柏台が本気にして目をキラキラさせ始めたぞ。
「ああ、ごめんね……日本人と話す機会が多かったというか、基本会話は日本語だったからネイティブな英語ってあんまりわからないんだ。」
「あ、そうなんだ……こっちこそ事情も知らずにごめんね。」
おい、柏台露骨にしょんぼりしてるぞ。どうするつもりだこの空気。魔法少女は食ってる間は周りの事一切感知しねえし。
「ただ、英語自体は得意だから勉強なら教えられるよ!」
「あ、うん、ありがとう……。」
柏台が苦笑している。無理もない、彼女は魔法少女に次いで次席入学の才女。英語も得意なのだろう。教えて貰う必要がない程度には。
ま、狐娘はそんな事知らないんだけど。
「まぁまぁ、英語なら私が教えてもらってやるから。」
「どこからの目線なのよそれは……。」
すげぇ。試しにボケてみたけどとっさのツッコミにも“のじゃ”がでない。普通こういうのってとっさのセリフにはいつもの口調が出るものだが。
「えっと、あの、そういえば……名前、まだ聞いてないよね?」
「あ!ごめんね、自己紹介忘れてた。私は柏台 莎莎嘉。ささかでもさーちゃんでも好きに呼んでね。一応このクラスの委員長だから、困ったことやわからないことがあれば私をどんどん頼ってほしいな。」
柏台と狐娘が会話をすると見た目のせいで小学生同士に見える。ただ、柏台も出会った時は見た目相応の頼りないというかおどおどした小動物みたいな振る舞いが多かったのに今では見た目以上に頼もしいというか芯があるというか、しっかりしたように感じる。それは口調にも現れているような気もする。人見知りが激しいのか、それともこの1ヶ月で精神的に何か大きな成長があったのだろうか。
「うん、じゃあさーちゃんって呼ぶね!よろしく!」
ものすごくいい笑顔で狐娘が返す。つくづくすげえなこいつ。正体を知らなければただの年頃の女子にしか見えない。
「そうだ、まつりちゃんは何か好きなものってある?」
「あぶらあげ!」
即答である。そこは隠せよ。
「あ、えっと食べ物の話じゃなくて……趣味とかある?」
「あっ……ああ、そっちか!あはは……そうだね、強いて言うなら趣味は日本のゲームかな。向こうにいる時から結構やってたんだ。」
狐娘が両手をわたわたしている。ここまで取り乱すのは初めて会った時以来じゃないだろうか。今回は赤面もしてるが。かなりレアだ。いやレアって言えるほど積年の仲ってわけじゃないけど。
「ゲーム?私も好きだよ!どう言うジャンルが好き?私が一番好きなのはローグライク!」
「ほう、なかなか渋いのう……私はアクションやFPSをやる事が多いけど、パズルや格闘なんかも好き。対人戦がメインのゲームが好きかな。」
「いいね、今度対戦しない?私の家でもどこでもいいから。」
おい狐娘、素が出てるぞ素が。いいのか。と言っても2人とも会話に熱中して気づいてないようだが。あと柏台がゲーマーだと知らなかった。割と以外だ。ぐいぐい食いついてくる。社交辞令ではなく、ガチのやつだこれは。
「それなら部室でもいいんじゃないか?普段遊んでばっかりだし。」
「部室?オカ研の?」
「そう。元からテーブルゲームばっかりだからなあそこ。」
「でも、画面とかが……。」
柏台が躊躇っている。嫌というよりは申し訳ないといった感じだ。
「それなら私が持ってくるよ。持ってきたテレビが余っちゃって必要ないから。なほの家にテレビあるし。」
そもそも最近のゲームはHMDばかりでモニターは必要ないのだが、昔ながらのゲームをするためには必要だ。その心配をするということは柏台はそういうものの方が好きなのかもしれない。
「私、部員じゃないけど……。」
「まぁ、そこは私が部員になるから大丈夫。2人も入ってるんだし。」
机の引き出しから記入済みの入部届けを取り出す狐娘。いつの間に書いたんだ。というかいつの間にその紙入手したんだ。
余談だがペーパーレス化が謳われる現在でもこういった書類は紙で提出する必要がある。保管の都合上らしい。
「うん、じゃあお言葉に甘えようかな。なほちゃんもいい?……なほちゃん?」
最近柏台はこいつをなほちゃんと呼ぶようになった。本人がそう呼んでほしいって言ってるし妥当ではある。何の妥当だろう。自分で言っててわからなくなってきた。
「あー、こいつ食事中は一切反応しないし食べ終わるまで時間かかるから、あとで私が許可とっとくよ。」
「わかった、じゃあお願いできるかな。」
「任せといて。」
こんな会話をしているが魔法少女は一切反応しない。こいつ、飯食ってる最中だったら何されても気づかないんじゃないか。
いや、側から見てる分には実に美味そうに、そして幸せそうに食べるものだから邪魔をするのは精神的に難しいが。
複数人で食べてても一人だけ自分の世界に閉じこもって顔芸の域に達する様な表情で食事に没頭するのは普通ではないのだが、こいつにかけられている魔法はここにも影響が及ぶらしい。私と狐娘以外は誰も疑問に思わない。私達も慣れてしまって疑問には思わないので、こいつの食事風景を疑問に思える存在はごく僅かだろう。だからどうしたという感じではあるが。余計なことをいちいち考えるのが好きなんだよ私は。悪いか。
「っと、もうこんな時間。次の移動教室、日直だから準備しなくちゃ。みんなも遅れないようにね。じゃあ。」
「そうだったな、大変だな……頑張って。」
「あ、まつりちゃんの案内お願いね!」
柏台はテキパキと弁当を片付け借りた椅子を丁寧に戻し、予め準備を済ませて置いてあったのだろう荷物を抱えると教室の外へと消えた。次の移動教室は生物。楓先生の授業だ。
そういえば楓先生、魔法少女がいつも寝てるの知っているはずなのに一度も注意したことないな。他の人にはあるのに。なぜだろうか。今度本人に聞いてみるか。
隣の魔法少女。 雨月さつき @samidare_orz
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