嘘八百
「あ、二人とも。やっときたー。 遅いよー。」
私達が職員室に行っている間先に教室に行っていた魔法少女が待ちくたびれたように口を尖らせる。
「挨拶とかあったし仕方ないじゃろう。」
「とか、の部分がほぼ全てだけどな……。」
ちなみにとかの部分に入るのは主に偽装工作(洗脳)である。物騒すぎる。
なお既に周りでは昨日まで居なかった狐娘に気づいたクラスメイトがざわざわしている。
誰も話しかけてこないのは魔法少女と一緒にいるからだろうか。それとも私がいるからだろうか。……考えるのはやめよう。悲しくなる。
聞こえてくる音を物理的に反射してシャットアウトする。精神衛生上の問題だ。
それにしてもますます目立つ連中に囲まれてしまった気もする。衆目に晒されるのが辛い。
「……なぁ、ステルスってできないかな。」
口に出すのもあれなのでテレパスで狐娘に相談してみる。
「なんじゃ藪から棒に。……そうじゃな、姿を認識させたくないのであればいくつか方法はあるぞ。」
「ほう、例えば?」
「自分に当たる光を反対側から出す、とかじゃな。転移でも狐火……発光の応用でも良い。或いは周囲の人間の認識を歪めるともあるの。」
「確かにそれなら出来そうだ。今度試してみるか。」
「前者じゃと赤外線センサーも無効化できるぞ。まぁ、転移できるならそれすら必要ないがの。」
「そんな事に使う予定もつもりもねえよ……。にしてもやけに詳しいな。」
「そりゃまあ、人間の目から隠れる事は妖怪にとって重要技術じゃからの。」
「妖怪かぁ……。」
「最近生まれた連中はともかく、昔からいる連中は殆ど隠れておるの。天狗とか河童とかは最近どうしておるか……。昔は夜は暗かったし森林も多く隠れるところあったからわざわざ姿自体を見えなくする必要はなかったのじゃが、今はそういうわけにもいかぬでの。」
「まぁ確かに、人間社会は随分発展したが……。何年されていたかは知らないが、封印されていたにしては随分詳しいな。」
「封印されていたとはいえ意識がなかったわけでも指一本動かせぬわけでもなかったのでの。情報だけは届けてくれる奴がおったのである程度は把握しているつもりじゃ。」
「へぇ。どんな奴だ?妖怪?」
「……強いて言うなら、神、なのかの……。」
「えぇ……。」
とうとう神様まで出てきてしまった。私は神なんて信じていないのに。あと神の知り合いって、やっぱりこいつ実はとんでもない存在なのでは。とてもそうは見えないけど。
「はぁ、魔法少女に幽霊に妖怪ときて遂に神か。なんでも居たんだなこの世界。」
「まぁお主が知らないのも無理はなかろうて。大体のそういった類はお主を見るや否や裸足で逃げ出すじゃろうからの。お主こそある意味触らぬ神じゃぞ。」
「たかが一人の人間に大げさな……。」
ここまで化け物扱いされると自称化け物の私も流石に傷つくぞ。ちょっとだけ。結構ナイーブなんだよ、これでも。
「すまんすまん、冗談じゃ。閑話休題、あとは死んで幽霊になると霊感を持たない人間からは見えなくなるぞい。もっともお主が幽霊になったところで強力すぎて普通の人間にも見えそうじゃが、そこは見せなくすることも可能なのでの。」
「その方法は死んでもごめんだな……。」
そういえば穂萌さんは幽霊だけどわたしにも見えたなと。強力すぎると見えるのか、なるほど。
一応二人とも口では魔法少女とたわいもない話をしている。こいつと会話するときは9割考えなくてもいい話題なのでこんな芸当ができるので助かる。
やがてHRのチャイムが鳴り、外で楓先生はまた柏台と話していたのか二人が教室に入ってくる。
楓先生に手招きされて狐娘が壇上へ。
「えー、HRの前に、皆さんに紹介しないといけません。今日からクラスの仲間が一人増えます。じゃあ自己紹介、お願いね。」
「はい。」
こちらに向かってぺこりと1礼すると黒板にカッカッと名前を書いていく。身長のせいで低い位置に書かれているので一番後ろの私の席からはあまり見えないが、かなりの達筆に見える。なんでこいつチョークで字を書くの上手いんだよ。
「狐禅寺まつりです。よろしくお願いします。最近まで外国にいたので、世俗には疎いですが興味はあります。色々教えていただけると幸いです。」
こちらに向き直り上記の自己紹介をすると再度礼をする狐娘。日本に居なかったとはまぁまぁ上手い言い訳だが、どこの国に設定するつもりだ。
「狐禅寺さんの席はとりあえず一番後ろに用意したけど、もし黒板が見えないとかだったら誰かと替わってね。」
ちなみに一番後ろの席は現在私と魔法少女のものしかなく、その横に新しく机が置かれている。教室に入った時に気づいていたのでそこに来るんだろうなとは思っていた。
狐娘は見ての通り背が低い。一番後ろの席だと前の人に隠れて見えない事も多いだろう。黒板を見るためには席を変わって貰う必要があるが、転校生にそれはハードル高すぎないか?楓先生もなかなか酷な事を言う。
多分こいつだからそう言ってるんだろうけど。すごいいい笑顔だし。ある程度事情を把握してる私はいいけど、他の生徒はちょっと引くんじゃないかこれ。
……いや、コミュ障の発想かもしれないな。もしかしたら「席替えをきっかけにクラスメイトと話すようになる」という意図があるように伝わるかもしれない。多分前者だけど。あの顔は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます