転校生
そしてGW明け。ゲームに没頭しすぎたせいでいつもの通学路が新しいダンジョンに思えてしまう中、待ち合わせ場所に魔法少女に加えて狐娘が立っていた。
いや、今は耳と尻尾を隠しているようで普通の人間にしか見えないが。とは言っても柏台と同じぐらいの大きさなので高校生には見えないし、制服を着ていなかったら誰も信じないだろう。……ん?制服?
「あれ、どうしたんだよ。うちの制服なんか着て。」
「ふっふっふ、わしも今日から学校に通うことにしたのじゃ!」
「え……大丈夫かよ。」
「大丈夫でしょ。私もいるし。」
「お前がいるから余計に不安なんだが。頼むから目立つ真似はしてくれるなよ。」
「わかっておる。泥舟に乗ったつもりで震えて眠るが良い。」
「どこから突っ込めばいいのか……。んで、なんでまた?」
「サブカルだとよく学校が舞台になっているもんでの。興味があったんじゃよ。封印が解けたら忍び込もうと思ってたぐらいじゃ。」
「積年の夢ってことか。言うほどいいもんじゃないぞ?アニメじゃあるまいし。」
「それならばそのようにしてくれるまでよ。」
「全力で止めるから覚悟しとけ……。」
狐娘が学校に行くなんて大丈夫なのか、と思ったが穂萌さんの話を思い出した。あの人も幽霊なのに普通の学生として潜入してオカ研作ったんだっけか……。
案外あの学校ならこいつみたいな奴が似合うのかもしれない。私はその似合う、の代表例に仲間入りしたくないが。
そもそもこれだけ特殊な奴が集まって部活とはいよいよ本格的にアニメっぽくなってきたな。あれか、私は一昔前に流行った難聴系主人公になればいいのか?
1人増えて3人の通学路。中学まで私は数人で登下校をした事が記憶になく、魔法少女と2人で投稿するのも不思議な感覚があったのだが、3人ともなるとどうすればいいのかわからない。
3人も横一列になると往来の邪魔になるし、かといって後ろに1人下がるのも仲間はずれみたいで寂しい。一人で登下校してたんだし仲間はずれみたいなものだったけど。それはそれとして。
「あ、そうか。おんぶすればいいのか。」
「へ?急に何?」
「……お主も中々変な奴じゃよな。」
思いついたことを口に出てしまったようだ。無意識だしこればっかりはいくら私が超能力者とはいえどうしようもない。
「失礼な。3人横に並ぶと周囲の迷惑だろ?車来たら危ないし。だからおんぶして横幅縮めればいいかなって思っただけだ。」
「……本気で言ってるの?」
「やっぱり変な奴じゃな。」
ナイスアイデアだと思ったんだけどな。魔法少女はともかく複雑な顔をしているこいつなんて軽そうだし。まぁ例え何キロでも何トンでも超能力で肩代わりすれば重さは感じないけど。
結局、狐娘が先行する感じで解決した。私達はそれぞれ10cm以上の身長差があるので、妹の登校を後ろから見守る姉みたいな立ち位置に見える。何も知らない人が私達を見て先行するロリっ子が一番の年長者とは絶対思わないだろう。試しに通り過ぎる人全員の脳内覗いてやろうかな。やっぱやめた。めんどくさい。
登校してすぐに職員室に行く。諸々の裏工作……もとい手続きを済ませる為だ。本当は狐娘一人でいいのだが、どのような手口を使うのか気になるので見にいくことにした。
「今日から転校する狐禅寺まつりです。よろしくお願いします。」
……今初めて名前を知った。そういえば聞いてなかったな。偽名の可能性が高いけども。あとのじゃ口調じゃなくて違和感がすごい。
「ああ、君が。大変だね、GW中に一家離散なんて。」
「ええ、突然の事でどうすればよいか分からず……。この度はご便宜を図っていただき、ありがとうございました。」
「まぁ夕月さんの親戚となれば、此方としても協力させていただきたいのですよ。」
どうやら、魔法少女の親戚という設定で行くらしい。ベタだけど効果的ではある。
ちなみに狐娘が話している相手は校長だが、別に校長と魔法少女家の間に何かあるわけではない。精神汚染の類で無理やり自身の存在をねじ込んでいる感じだ。流石に妖術と書くだけあって妖しすぎる。おおこわ。
「お主らには効かぬようじゃからそこは安心してよいぞ。お主らに害を加える気もないしの。」
自称大妖狐の片鱗を見せつけた後、私達のクラスに続く廊下の途中で狐娘が言うにはこうであるらしい。
「魔法少女の『行動全てを普通のものと認識させる魔法』も効かなかったしな。私にはそういったものは通用しなさそうだ。」
「わしもそれは通用せぬの。一定以上の特殊な力があると影響を受けないようじゃな。」
「認識改変だからなぁ。改変されないぐらいの抵抗力があればいいのか。」
「そうじゃな。もっとも、この場所ではわしら以外に影響を受けない人物は他に数人しかおらぬようじゃがの。」
「なんでそんなことわかるんだ?」
「まぁ、わしはある程度そういう力が感じ取れるのでの。お主が規格外すぎてかなり感じ取りにくくなっておるが。」
「街灯が明るすぎて星が見えない的な。」
「そう、そんな感じじゃ。」
そんな人を100万ドルの夜景みたいに。例えたの私だけど。何ってんだろう私。GWぶっ続けでゲームしてたし疲れてるのかもしれない。
「……それで、他の数人に考えられるのは楓先生か。あの人は受けなさそうだな。」
「担任とやらだったかのう。アニメとかでよく主人公たちに絡んでくる役じゃな。」
「二次元と三次元の区別をつけろよ……。担任はなんというかこう、まとめ役、だな。といっても記憶だと魔法少女と自称した時楓先生も別に驚いたりはしてなかったんだよな。驚いてないってことは影響受けてるんじゃないか?」
「事前に知っていたとかではないかの?」
「あーそうかもな。知ってそうだ。」
あの様子だと楓先生はこちらの事情もかなり把握しているだろう。どのように把握しているのかはわからないが。
「うむ。その楓とやらはあそこにいる輩じゃろ?あの規模ならまず受けないじゃろう。」
教室の前にはちょうど楓先生がいて柏台と話していた。ドンピシャだ。
「おう、彼女が楓先生だ。」
「なるほどのう……1つの体に二人分。そういうことかの。」
「どうした?」
「いや、何でもない。担任に挨拶せねばの。……先生!」
てとてとてー、と楓先生のところへ走っていく狐娘。側にいる柏台と相まって、精々中学1年生ぐらいにしか見えない。
「ああ、まつりさんね。話は聞いているわ。色々と大変でしょうけど、困った事があったらなんでも言ってくださいね。これからよろしくね。」
「ええ、よろしくお願いします。転校で不安だったんですが優しそうな先生で良かったです。」
こちらからは二人の表情は見えないが、口調に反して雰囲気はなにやら一瞬触発である。きっと引きつった笑顔をしているのだろう。
その間、柏台とおはよう、と挨拶を交わす。
「あやつ、酉家の匂いがするのじゃが……。」
戻ってきた狐娘が小声で言う。
「なんじゃそりゃ。」
「いやなに、人より鼻はいいのでの。酉家の匂いが物理的に楓から匂ったのじゃ。」
「酉家、ねえ……。楓先生は桜城って名字だけど。」
「いや、あやつ自身が酉家って事は無さそうじゃ。それには匂いが薄すぎる。ただ、身近に酉家がおる。おそらく友人とかそういう。」
「匂いでそこまで分かるとは気持ち悪いなお前。」
「なんじゃと!?」
率直な感想だから仕方がない。
「酉家の事嫌いなのか?」
「敵じゃからの。」
何十年も封印されていたようだし無理もないか。自称悠久を生きる大妖狐でも、数十年…下手すると3桁年封印されていたとなれば流石に人間感覚で10年とかそこらへんに相当しそうだ。
「そうか。それにしてはお前、すごく楽しそうだけどな。」
そう。狐娘の顔は、遠足の前日の小学生のように顔を綻ばせている。
「長い付き合いじゃ。複雑にもなろうて。」
「そうかい。」
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