ゲーム
根拠もない適当なモノローグを入れる事でなんとか現状を受け入れられたが、副次的に冷静になってみると現状に疑問を抱く。私はなんで今日出会ったばっかりの狐とカレーなんて作ってるんだろう、と。
これまでの私は、孤独……せめてもの言い訳とすれば孤高を貫いてきた。自分自身が異質な存在である事をひた隠しにし、隠しているものが露呈してしまわぬように日陰を忍んで生きてきた。
しかし、最近では魔法少女という異質である事を隠さない人間と出会ったことにより、自分自身を晒け出せる機会が増えた。初めてここまで心を許せるような友達もできた。
その結果、私が私らしく生きることができる快適さと安心感に、すっかり毒されてしまった。
私という人格はひとりぼっちを嫌うような性格だった。それなのに肉体は人間とは相容れない化け物で、人間のふりをすることでどうにか生きていけるような存在だった。その代償が、隠匿の為の孤独。精神と肉体で矛盾が生じてしまっていたのだろう。
だから私は人ではない者が人として生きるためには、人よりも艱難辛苦を受け入れるしかない。そう思っていた。
そのはずなのに、眼前の彼女らは、自分自身を隠すことなく、堂々と、自由に生きている。間違っていたのは私の方なのだろうか。
彼女たちのなりふりにある種の憧憬があるからこそ、私は彼女たちをすんなり受け入れているのかもしれない。
長いようで一瞬の自問自答の果てに導き出した答えがこれだ。結局、私は彼女らが羨ましいんだろう。
狐娘は狐娘で気分を変えたかったのか、こんな提案をしてきた。
「ちょっと食事には早いかの。どうじゃ、ゲームでもせんか?」
「ゲーム?別にいいけど。」
「いいね!どんなの?」
「そうじゃな、対戦ゲームがいいと思うんじゃが……。」
「私はゲームなんてあまりやったことがないぞ。」
「ふむ。それでは、初心者でもやりやすいゲームにするかの。となると対戦はやめておいて協力系にするかの……。縮地。」
少し悩んだ後、縮地でゲーム機を転移させてくる狐娘。
持ってきたのは最近のゲームのようだ。以前は両手もちのコントローラーが周流だったようだが、現在はHMDと握り込むような形状のハンディコントローラーが周流となった。その分値段も上がったのだが、圧倒的没入感が話題となり結構売れている。
狐娘がチョイスしたのはRPG。キャラメイクがかなり自由なゲームらしく、キャラメイクするだけで結構いい時間になってしまった。
キャラメイクを一通り終えた段階で作ったカレーを食べる。能力で作ったので手作りと呼べるのかは微妙だが、とにかく自分も手伝ったものなのでなかなかに美味く感じる。
どこにそんな量を入れているのか、胃が異次元に通じているのかと本気で思わせるような量を平らげてなお平然としている魔法少女に急かされて再びゲームの世界へダイブする。
HMDを装着して暗転した視界が明るくなるとそこはゲームの世界であった。いや、現実の肉体は魔法少女の家のソファーに座っているんだけども、視界は如何にもファンタジーにありがちな中世ヨーロッパ風の景色が広がっている。想像以上に現実感がすごい。
横を見るとまさに魔女といった格好の狐娘と、肌色の割合が高く防具が防具の意味をなしていないんじゃないかと思ってしまうような格好の戦士装束に身を包んだ魔法少女がいる。ちなみに私は修道服を着た僧侶だ。
「さて、では出発するかの。」
「おう。このゲーム、どんぐらいかかるんだ?」
「うーむ。やったのは結構前じゃから、そんなに覚えてないが……比較的すぐ終わると思うぞ。」
「オッケー。じゃ、始めますか。」
「おー!」
私たちの冒険はこれからだ。
……まさか、この後GWが丸々潰れ、結局一度も家に帰れないとは思ってもいなかった。風呂は魔法少女の家のを借りた。
私が借りてるアパートとは違って3人同時に入れるぐらいには広かったからみんなで入って時間の節約なんかもした。
食事もデリバリーサービスをフル活用した。
そこまでしても割とGWが終わるまでにエンディングを迎えるのはギリギリだった。
「はぁ……。やっと終わった……。」
「うん……。疲れたね……。」
「なんじゃお主ら、若いのにだらしないのう。」
「こんなに長いとは思っていなかったからな!ラスボスと思ってたやつ倒したら第2部が始まって第2部が終わったと思ったら過去編に突入して最終的に宇宙編に行くなんて誰が思うか!!」
「長かったかの?せいぜい10日ぐらいぶっ続けでやれば終わる量じゃろ。」
「長いわ!!長生きしているお前の10日とまだ十余年しか生きていない私達の10日は重みが違うんじゃい!」
とても不思議そうな顔をしている狐娘。本気で思っているらしい。
はぁ、と溜息をついた後に
「まぁ楽しかったからいいけど。ゲームありがとな。」
と言っておいた。本心ではある。楽しかった。じゃなきゃGW潰さない。
「うあー。明日から学校かぁ。」
クッションに倒れこみながら大の字になって魔法少女がぼやく。最後の数日はずっと寝間着のままプレイしており、今の格好は全員そのままなのでまるでパジャマパーティーだ。さっきまで別の意味のパーティーは組んでいたけども。あとそのパジャマが倒れた拍子にはだけてめちゃくちゃ扇情的な格好になっている。くそう。巨乳め。
「お前はいつも寝てるんだしいいじゃん。」
「まぁねー。」
「お主ら、もしかして学生とやらかの?」
「もしかしても何も、高校生だよ。華の女子高生。」
「自分から華とか言うなよ……。」
確かにこいつは綺麗で明るいし向日葵のような女子高生だが、私は花は花でもラフレシアとかそういう感じだと思ってる。あれそもそも花だっけ?まぁいいや。華やかでは決してない。
「そうじゃったんじゃな。てっきりわしと同じひきこもりのニートかと。」
「一緒にすんな。引きこもりが廃墟なんか行くかよ。あと私は仕事もあるぞ。」
「ほぇ?最近の若いのにしては偉いのう。」
「私は魔法少女やってるよ!」
「あれって仕事でいいのか?」
「お金貰ってるし仕事でいいんじゃない?」
「あー。酉家のアレかの。話には聞いておったが実物を見るのは初めてじゃな。」
「またでたな酉家。どんだけ暗躍してるんだよ……。」
「そういえば確かに前までいた学校の理事長は酉家って苗字だったよ。」
「証拠が繋がってしまったか……。」
酉家が巨大グループなのは知っていたが、まさか魔法少女育成学校まで持っているとは思わなかった。というか普通は思わんよな。常識的に考えたらな。
「それにしてもよくそんなところから別の高校に進学できたな。」
「そうだね。妹は向こうにいるし。私が役立たずだからかな?」
「なんじゃお主、そう自分を卑下するでないぞ。素質は十分ありそうじゃが。」
「こいつ使える魔法が『太陽を消す』だけらしいんだよ。物理的に消滅させる類の。」
「想像以上に役立たずじゃった!」
「えへへ。」
「だから褒めてねえって。」
「太陽ほど巨大な物質を消滅させるには気が遠くなりそうなほどの力……魔力かの?が必要になると思うんじゃが……。いやはや……勿体ない……。」
「あー、やっぱりそう思うか。」
「それはそうじゃろ。」
「私は逆にこいつがそんな魔法しか使えなくて良かったとも思ってるけどな。いろんな魔法ポンポン使えたらこいつ後先考えずに乱発しそうだし。」
「えー?そんな事ないよー。」
「一理ある。こやつはこれでいいのかもしれんの……。」
「むー。」
実際に魔法少女はゲームでも後先考えずに大技を連発して後々ジリ貧になるケースが多かった。それとなく注意しても学習しないし。
「まぁ問題はこいつが太陽を消す魔法とやらも簡単に使いそうで怖いって事だな。」
「あっ……。確かに……。」
「もう。そんな事しないって。」
「おう、頼むからしないでくれ。お前一人で世界が滅ぶ。」
なんで魔法少女協会とやらはこんな核爆弾を野放しにしてるんだ。こいつこそ幽閉しとけよ。幽閉したらしたで魔法使いそうで怖いけど。どうすんだこいつ。
どうしてこんな奴を育ててしまったんだ魔法少女協会。今頃そいつらも頭抱えてんのかな。抱えてそうだな。
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