能力
「とりあえず、今日の夕食からもう作ってしまって大丈夫かの?」
「うん、全然大丈夫。私かなりの健啖家だから量があると嬉しいな。」
「了解じゃ。お主もどうじゃ?」
「へ?私もか?」
突然の誘いに驚いているとテレパスを飛ばしてきた。
『頼む。料理手伝ってくれぬかの……。』
『あーそういうことね。暇だしいいよ。』
『すまぬ。恩に切る……。』
そういう事らしい。仕方がないな。
「それならせっかくだし私も相伴にあやかろうかな。」
「うん、いいね!ご飯はみんなで食べる方が楽しいし。あ、私はゴールデンウィークの宿題やらなきゃ……。二人とも、好きにしてていいからね。」
そう言うと自室へ戻っていく魔法少女。ちなみに私は既に終わらせてある。
「さて、どうする?献立とか。」
「正直アレを平気で食えるあやつなら量さえあれば何を出しても満足してくれそうな気もするがの。」
「それはわかる。あいつ、食えるかどうかの境界が著しく偏っているし、何より食えるものすべて『美味い』と認識するだけだからな。なんでも美味そうに食うぞ。正直羨ましい。」
美味いものを食べる幸せは私もある程度知っているつもりだが、あいつは人一倍知っているだろうし、世界で一番それを文字通り噛み締めているに違いない。本当に羨ましい。人生楽しそうで。実際楽しそうだが。
「とりあえずしばらくは食事は適当でいいかの……。」
「何かレシピ本でも用意してそれをローテーションでもいいんじゃないか。どうする、今から買いに行こうか?」
「おおー、いいのうそれ、2つの意味で。久々に外を歩きたいしの。」
「そういえばさっきまで封印されてたんだっけか……。久々が数百年ぶりだったりしそうで怖いな。タイムトラベラーみたいな反応になりそうだ。」
「まぁあながち間違いでもないが、ここ数年は暇な時は地図サイトなんかで街を擬似探索しておったしマスメディアが発達してからはニュースが貴重なエンターテイメントじゃったしある程度は世俗にも詳しいつもりじゃがの。やはり外をこの目で直に見たくなるのじゃよ。」
「これから幾らでも見れるだろうよ……。悪さしてまた封印されなければ。」
「それはもう懲りたから流石に悪さは起こす気ないぞ……。昔は若かったんじゃ、若気の至り……。」
「その姿で若気の至りとか言われても……。」
「ふふ、確かにのう。かつてはもっと大きな姿に化けられたのじゃが今ではこれが精一杯じゃ。」
遠い目をする狐娘。見た目は幼女だが、その立ち振る舞いは明らかにある種の悟りを開いてい年長者のそれだ。
「妖力が少なくなってるんだっけか。」
「そういうことじゃな、昔はわしを人々が恐れておったから凄い力で好き勝手しておったが、時とともに忘れ去られ、かつての貯蓄でなんとか維持している感じじゃな。実を言うとさっき最初にお主らの心を読んだ時に結構な量の妖力を使ってしまって今割とピンチなんじゃよ。」
「あー、だから2回目では心を読めなくてちぐはぐな解答だったのか。」
「察しがいいのう……。まさしくその通りじゃ。心を読むのは本来ものすごい力を使うんじゃよ。大概の超能力者はそれだけで力の全てを持っていかれてしまうのでそれしかできないものも非常に多いのじゃ。なんの気なしに行うお主がおそろしいわ。」
「うーん、そうなのか。なんか当たり前のように使えたからなぁ……実感なかったな。」
「あとお主、お主が超能力と呼ぶ能力以外にもう一つ力を持っておるぞ。」
「え、そうなのか?初耳だ。」
「そりゃそうじゃろ、お主の能力なんて分析できるやつがこの世界にどれだけおるか……。それでお主の能力じゃが、お主、『直感的に超能力を正しく使える』能力を持っておるぞ。」
「どういうことだ?」
「例えばなんじゃが、こう、念力で紙を浮かせようとするじゃろ。もし普通の念力使用者なら、紙の中心などのどこか一部分だけに力を与えて浮かせるんじゃ。しかし、それだと物によっては力の掛け方次第で壊してしまったり別の方向へ動かしてしまったり、思い通りには動かせなくなるんじゃよ。一方でお主の場合、紙全体を正しく認識して適切に全体に力をかけて浮かせるので、どんなものでも自由自在に動かせるんじゃ。そのやり方を本能的に知る能力、って事じゃな。これは念力に限らず、お主がやろうとした事全てにおいて適応されるし、お主はその方法を実践できる力も持っている、まさに無敵なんじゃよ。」
「なるほど、確かに私物理苦手だしな。物にどういう力を加えたらどういう動きになるかとか分からないのになんとなくで完璧に動かせるのはそういうことか。」
「それとこれは言った方がいいか迷うんじゃが……。」
「言いたくないなら言わなくていいぞ。私はお前の脳内を読めないし。」
そう。こいつは狐であって人間ではないので、思考を読むことができない。だから、こいつには秘密を許してしまうことになる。別にいいけど。
「うむ、そうじゃな……。もう少しお主の人となりが分かったら教えるかどうか決めることにするのじゃ。すまんの。」
「気にならないって言うと嘘になるけどまぁいいや。うし、じゃあ行くか。」
「そういえばそうじゃった。着替えてくるのでしばし待たれよ。」
狐娘が自室に戻って着替えている間、私も自宅に戻って朝用意した服に着替える。というかやっと着替えてくれるのか。今までTシャツとパンツだけだったから目のやり場に困っていたところだ。いやまぁ同性な上に人間じゃない相手ではあるが、なんだかこっぱずかしかった。
魔法少女宅に戻ってくると、いかにも準備万端と言った顔で張り切っている巫女服姿の狐娘がいた。
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