ペット
「あー、別に獲って食おうなんて思ってるわけじゃないから……。」
「うんうん、私達はただ探検に来ただけだし。」
「へ?お主ら、酉家の手先ではないのか?」
「いや全然。酉家ってなんだ?あの酉家か?」
「ふむ……確かに、逆にお主らが封印を破壊してくれたおかげでこれからわしも外に出られるようになったわけじゃけど……。」
ブツブツと独り言を言っている。こちらの質問は聞こえていないようだ。
「……というかあんた、このままここに引きこもっていたらもっと弱くなってそのうち消滅するんじゃないか?」
「ッ!?……確かに!!」
冗談のつもりだったのだが結構深刻なようだ。ぷるぷる震えている。
「このまま引きこもってニートしていたらまずいとは思っていたが……。」
それにしてもずいぶん俗物な自称大妖狐である。本人曰く封印されている間ずっとネットでもしていたからだろうか。
「でも、わしには今更外に出たところで行くあてもないしのう……。やはり封印された時からここで朽ちるが定めだったのじゃろう。」
「行くあてないならうちに住む?」
魔法少女があっけらかんと言ってのける。
「お前こんな得体の知れない自称妖怪飼うつもりかよ?」
我ながらずいぶん失礼な台詞である。
「え、だって可愛いもん。」
こいつもこいつでペット感覚だ。つくづく失礼な人間どもである。
「是非行かせていただきます!大丈夫です!エキノコックスは持ってません!」
そして当の本人?本狐?……が乗り気だ。お前にはプライドはないのか。
「決まりね。それじゃ、帰りましょうか。」
「そうだな。どうする?歩く?」
来た時はズルしたんだし帰りぐらいはハイキングでも良さそうだが……。
「疲れたしまた送ってほしいな。」
とのことだ。仕方がない。確かに疲れた。
「はいはい。」
「なんのことじゃ?」
「とりあえず、私の手を握ってくれ。」
「んん?まあ、はい。」
「はい。到着。」
来た時と同様一瞬でテレポートする。今度は魔法少女の家だ。
「お、おお!?ほう、お主縮地が使えるのか!……本当に人間か?」
「失礼な。」
「いやでも先ほどの力といい、とても人間とは思えん……。」
「失礼な。」
「ところでその指はなんじゃ?」
「仏の顔カウンター。あと1回でお仕置きな。」
「ひっ……!」
「冗談だよ。とりあえず、これからどうするんだ?」
魔法少女の方に向き直り質問してみる。まさか本当に飼う(便宜上)つもりなのだろうか。
「そうねえ、特に何も考えてないんだけど。」
「わしはネットとパソコンさえあれば犬小屋でもなんでも良いぞ!」
いくらイヌ科でもそれはないだろう。お前は本当にそれでいいのか。
「うーん、それじゃあ空き部屋あるしそこ好きにしていいわよ。」
「いいのか!?」
「いいのかよ?」
「うん、一軒家だから持て余してるし。」
「お主、いいやつじゃな!」
「こんな得体の知れない出会ったばかりにやつを家に住まわせる奴は逆に裏がありそうで怖いもんだけどな……。」
どっちも能天気なのだろう。相性がいいのかもしれない。
「とりあえず部屋に案内するわ。色々と用意しないとね。」
「うむ、よきにはからえ!」
「偉そうだなこの居候……。」
2人が階段を上っていく。置いてけぼりは寂しいのでついていく。
空き部屋の1つを好きにしていい、と言われて浮かれているのか狐娘は部屋のレイアウトを考えているようだ。
気づいたら廃墟にあったものがいくつか既に置いてある。なるほど、縮地か。
「そういえば、なんでお前はあんなところに居たんだ?」
「ああそれなぁ、それは封印されてたからじゃな。」
「うん?封印?」
「うむ、あそこには元々わしが悪さをしたので封じ込められていた神社があったのじゃ。わしを封印した連中……。酉家の奴らはわしを封印結界から出たくなくなるように仕向けてきての、徐々に力を削いで完全に無力化するつもりだったのじゃ。」
「何やら物騒な話だな。」
「わしも最初の頃は抵抗していたもんじゃが、ここ100年ぐらいはエンターテインメントも増えて退屈せずに楽しめたんで抵抗をやめておったのじゃ。」
「ふむ。神社はどうなったんだ?」
「元々神社は酉家の土地だったんじゃが……。バカなやつがあんなところにホテルを作ろうとしての、無理やり土地接収したんじゃよ。まぁ結果はあの有様じゃが。その時に神社も破壊され、わしは地下に幽閉というわけじゃな。」
ちなみにこの会話中にもどんどん部屋に物が増えていっている。あの廃墟の地下にどれだけ物溜め込んでたんだ。
「よくその酉家が許したなそれ。強引にでも止めるもんじゃないのか。」
「まぁのう、神社の形態だとどうしても信仰を得てしまうからの。それがそのままわしの妖力になってしまうわけじゃから、酉家としてもホテルにするのは好都合だったんじゃろう。」
「なるほどねぇ。妖力っていうのは信仰心がエネルギー源なのか?」
「いや、信仰だけではない。恋慕、嫉妬、畏敬、応援などのわしに向けられた感情ならなんでもいいのじゃ。」
「となると有名になればなるほど力が増す、といったところか……。それで力を得て余計に有名になれば更に強力になる、そういうスパイラルだと。」
「うむうむ、そういうことじゃな。だからこそ封印されたのじゃろうが。」
「それだと仕方がない気もするな。でもよく封印できたな?」
「酉家のやつらも半分人間やめてるようなもんじゃからのう……。」
「私みたいに?」
「かっかっか、お主ほど人間やめてはおらんな。」
「そうか。」
「……その握りこぶしはまさか。」
「仏の顔も三度までだ。罰ゲームを執行する。」
「ぎゃーーーーー!」
ガバッ、と狐娘に襲いかかる。抵抗するので超能力で動きを止める。
「大人しくしろ!尻尾をもふもふさせろ!!!」
「嫌じゃーーーー!」
「いいじゃんか減るもんでもないし!」
「あなたたち、何してるのよ……。」
いつのまにか居なくなってた魔法少女が帰ってきた。エプロンをつけている事から察するに、お昼の用意をしていたようだ。
なお私は今傍から見ると幼い少女のお尻を露出させようとしているド変態に見える。
「見りゃわかるだろ。尻尾だ。モフモフだ。人はこの衝動からは逃れられない。」
出来るだけ平静を装って答える。ただ尻尾をモフモフしたいだけなので嘘偽りはないが。
「あ、それはわかる。あとで私もやらせてね。それはさておき、お昼できたけど食べる?」
「「食べる。」」
ハモった。私達も相性がいいのかもしれない。
「食事の後は存分にモフってやるから覚悟しとけよ。」
「うう……あまり触られて心地よいものじゃないのじゃが……。」
「いいなー、私も私も。」
「仕方ないのう……。」
モフモフする権利を得たところで食卓に向かうと、そこには3人分の料理が置かれていた。
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