第2章 狐娘編
廃墟へ
穂萌さんと出会ってから特に事件のようなものは一切なく、将棋やチェスなどのベーシックな2人用ゲームに興じていると暦は世間で言うゴールデンウィークに突入しようとしていた。
魔法少女はそういったゲームがどれもやたらと強かったが、思考を読むイカサマを使う事で対戦成績はなんとか五分五分ぐらいにすることができた。あと私も素でなんだかすごく強くなった気がする。
「ゴールデンウィーク、どうしよっか?」
いつも通り将棋に興じていると、魔法少女がこんなことを言った。
「どうするって?」
「どこに遊びに行こうかなって話。」
「え、私と行く前提で話してる?」
「違うの?」
「いやまぁ、別に良いけど。どこに行こうか。」
どうせ暇だから誘いに乗る。あとちょっと照れる。会ってまだ1ヶ月も経ってないのにずいぶん仲良くなったな私達。
「うん、特になければ私が行きたいところがあるんだけど……。」
「ほう?」
どこだろう。テーマパークだろうか、お洒落なカフェだろうか。彼女の事だからスイーツかもしれない。などと思慮を走らせていると、とんでもない一言を言い放った。
「廃墟!近くの山の中にあるやつ!」
思わず将棋盤に向けていた顔を上げ、彼女の顔を真っ直ぐ見る。
絶望的なまでに目を輝かせている彼女の様相は、冗談でもなんでもない事を表していた。
「は?廃墟?なんで?」
「え!?廃墟だよ!?ゴールデンウィークと言ったら廃墟だよ!?」
「初耳だ……というかどこの常識だそれ……。」
確かに、噂には聞いた事がある。近くの山中には廃墟があり、オカルトチックな事が起きると話題の心霊スポットだと。そこの事だろうか。
「なんかね、この付近に心霊スポットがあるんだって。行ってみない?」
そこの事だった。
「いやさぁ、この前先生に言われたばっかりじゃないか。危ない事に首は突っ込むなって。」
「え?そんなこと言われたっけ?」
そういえば、こいつは食事に夢中で聞いてなかったな……。
「まぁ行くのは昼だし、大丈夫でしょ。多分。まぁ何かあっても私がいるし。」
「別に行くのは構わないけどさ……。お前にその台詞言われても安心できないな……。」
正直仮にオカルト的な存在がいた所で私の敵ではないだろうとは思ってる。慢心ではないはずだ、多分。
というわけで、流れで例の廃墟に探検に行く事になった。
当日。彼女の家に行くとジャージで出てきた。
「いやいや、お前それで華のゴールデンウィークの街中を闊歩するつもりか。」
「え?テレポートで連れてってくれるんじゃないの?」
「あ、その手があったか……。」
お恥ずかしい事に完全に失念していた。てっきりバスやタクシーで行くものかと。
今の私は完全にお出かけ用の格好だ。明らかに廃墟に行く服装ではないが、まぁ一瞬で着替えられるし別に良いかなんて思っていた。
その実演として家に用意していたジャージと瞬間的に衣服を入れ替える。ちゃんと下着は残しておいた。前に一度下着まで送ってしまった事があるからな……。すぐ戻したけど。
「ほい、じゃあ行こうか。」
そう言いつつ手を差し伸べる。別にこのままでもテレポートできるが、同時に2つのものを送ることはできないため、別々にする必要がある。ただ、手を握っていれば1つとみなせるので一度に飛ばす事ができるのだ。
「うん!楽しみ!」
笑顔で手を握り返してくる。その瞬間にテレポートしたので彼女が次に目を開くともう廃墟の前だ。
「え、あれ?」
案の定な反応をしている。手はまだ握ったままだ。
「着いたぞ。」
手を離し、辺りを見回す。
正面にはなかなか大掛かりな施設がある。旅館だったのだろうか。
後ろにはここに続く荒れはてた道がある。何回か人が来たのだろう、道に沿って草木が開いている。さながら獣道のようだ。
隣の魔法少女も同じようにキョロキョロ見回している。
「なんというかもっとこう、ブォン!みたいな…転移している感覚があるものだと思ってた。」
「実際にはほんと静かなもんだよ、私のテレポートはね。」
一度だけやってみた事があるが、壁の中に物を転移させたらどうなるか気になって実験してみた事がある。
わかりやすいように壁にボールを半分めり込ませるように転移させてみたのだ。
結果は、ボールは無傷で壁は綺麗にボールの形に、それこそ縫い目まで綺麗に抉られるように欠けていた。
私の仮説としては、転移先に物があった場合……もっとも、真空でなければ何かしらの物質は存在しているわけだが、その場合には元にあったものは消滅してしまうらしい。
怖くて実験していないが、これを悪用すれば楽に人間だって殺せるだろう。やらないけど。
まぁつまりだ、今現在、私達は若干地面にめり込んでいる。5cmほど。
ずぼっと足を引き抜き、いよいよ廃墟に突入する。
施設の前には蔦が巻きつき固く閉ざされた古びた鉄門があったが、超能力で強引に動かすと嫌な金属音を響かせながら開いた。
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