超能力者と魔法少女と幽霊と

 というわけで急遽楓先生と食事に行く事になった。ラーメンの気分だったけど、奢ってくれるらしいからなんでもいい。

 ちなみにだが、

「本当に奢ってくれるんですか?」

「まぁ私も大人だしね。流石にこれぐらいは。」

「一応こいつ、めちゃくちゃ食いますよ。大丈夫ですか?」

「食べ放題に連れてくから大丈夫。」

「あともう一つ。私、一応ピー(一般的な日本人の生涯年収レベル)円収入あるんですけど……。いいんですか?」

「ふ、ふふふ、大丈夫大丈夫。大人の意地ってものを見せてあげるわ。ふふふ。」

「え、そんなに稼いでるんだ。すごい。私なんて貰えるのピー(一般的な日本人の年収の10倍レベル)円ぐらいだよ。」

「ぐふっ……。」

「せ、先生!?」

なんてやりとりが道中、先生の車中であった。先生には申し訳ない。

 私はともかく、魔法少女やるだけでそんなに貰えるのか。やろうかな、私も。……まぁ、やる必要全くないけど。

「結構貰ってる方だと思ってたんだけどなー……。」

先生のぼやきには何も答えられなかった。

 食べ放題のビュッフェに来た私たちは、一通りの食事を済ませて一息ついていた。

ちなみに、魔法少女は山盛りの皿を3皿食べてなお新たに山を作って食べている。

「……さて。そろそろ本題に入りましょうか。」

「あ、やっぱり何か話したいことがあったんですね。」

「うん。部室でもいいんだけど、お腹空かせるのも可哀想だし。まぁこれは経費で落ちるから。」

 経費で落とせるとは、余程大事な話らしい。

 魔法少女は食べるのに夢中で全く聞いていないが。食べ方がやけに上品なのが異様さを際立たせている。

「この学校はね、そもそも貴方達のようにワケありの生徒が殆どなの。」

魔法少女を最早無視して、楓先生は続ける。

「……どういうことですか?」

「そのまんまの意味よ。哲学的な話は置いといて、貴方達みたいな能力者や怪異に脅かされるだけの人など、普通の人間とは違う運命を辿る生徒が殆どなの。先天的に運命の流れを操れる人物が居てね、その人がそういった特殊な運命を辿る人達を一箇所に集まるように仕向けて、集めた先がこの学校なのよ。」

「えっ、なんでまたどうして集める必要が……?」

「1つは純粋に一箇所に集めた方が対処がしやすくなるからね。貴方達のような存在も同時に集めてしまえば、言っちゃなんだけど生徒同士で問題解決してくれる場合もあるし。まぁ、大体は教師が対応するんだけど。あとは異常な存在を一般人から隔離する為。」

どうりで私が今まで私以外の異常存在を認知できていなかったわけだ。

「なるほど……。となると、普通の学生にしか見えないクラスメイトも殆どが特殊な事情の人間って事ですか?」

「そうなるかな。まぁ、全員が全員そうって訳じゃないんだけど。あと一応、私だってそうだしね。厳密には違うんだけど、簡単に言うと幽霊に取り憑かれているって感じだし。」

「それだと、なんというかこう……漫画やアニメで見るような異能力バトルが学校のあちこちで起きてもおかしくないような気もしますけど。」

「あぁ、確かに。んぐっ、私もそう思った。」

ずっと食べていた魔法少女もここで口を挟んでくる。口の中のものを飲み込んでから言え。

「うーん、流石にそれはないかなぁ。ワケありとは言っても大体は『奇怪な存在に巻き込まれる、巻き込まれた』生徒が殆どで、貴方達のように自らが能力を持っているような場合はとても珍しいのよ。柏台さんも巻き込まれたパターンだしね。しかも本人ではなく、姉が、だし。彼女はただの普通の、まぁ少し発育が遅れているだけの女の子よ。」

「飛び級というわけではないんですね。少し残念です。……柏台のことはさておき、なんでこんな機密そうな事を私達に?」

「それは貴方達がもう既に行動しちゃっているからね。柏台さんの依頼はこちらとしても想定外で、そのうち教師が対処するつもりだったんだけど……まぁ、時間外労働が減ったし何の問題もないわ。ただ今回はしぶといだけで悪意は低い霊だったから良かったけど、危険な霊や妖怪の類だったら最悪死ぬからね。今後そういった依頼を受けたら私達教師の方に伝えて欲しいの。」

「危ない事に首を突っ込むな、って事ですね?」

「察しが良くて助かるわ。」

「分かりました。もしかして、オカルト研究部って……。」

「大体思ってる通りだと思うわ。そういった対処の効率化の為に私が打診したの。これまで個人が教師に相談するのを待つしかなかったけど、こんな怪しい部活があれば相談しにくる生徒も一定数いると思ってね。教師よりは同じ学生の方が相談しやすいだろうし。」

「一理あります。」

「それで実際効果はあったんだけど、まぁいかんせん依頼が来るまで暇でしょ。だからあの部屋にはあんなに暇つぶしの道具が有ったのよ。」

「そういうわけだったんですね。張り紙をしていたのも……?」

「うん、1つは後継者探しで、もう1つはオカ研を頼ってきた子を私のところに誘導するためね。」

「はい。」

 オカ研の創設にそんな秘密があったとは。あれ、でもそれじゃあ……。

「あれ、でも確か『1年生が作った部活』と仰ってましたよね。それだと、先生がけしかけたみたいに聞こえますけど。」

「良く覚えていたわね。実際、1年生が作ったものよ。まぁ、1年生じゃなかったんだけど。」

「どういう事ですか?」

「うーん、本人に説明してもらった方が早いかな。」

「え、それってどういう……。」

ことですか、と私が言い終わる前に急に目の前に人が現れる

 真っ先に受ける印象は、顔の正中線で左右の髪色と髪型と目の色が違う事。次に明らかに宙に浮いている事。良く見ると向こうの景色が透けて見える事。そんな存在が、私達と同じ制服を着ている。

 ……正直、初見の感想はツートンカラーの猫みたいだな、と思った。

「驚かせてしまったかな?私は朝霧穂萌。職業は幽霊だ。享年は10歳。」

「ええ、食べたもの吐くかと思ったぐらいには驚きました。」

こんな状況でも魔法少女は再び食事に没頭していて気づいていない。なんだこいつ。

「まぁさっきハルアキ……楓が言ったことは、私が生徒として潜入して、1年生の時に部活を作っただけの事なんだ。」

「オカルト研究部を作ったのが幽霊だったって事ですか?なんだか可笑しいですね。」

「ああ、自分でもそう思う。」

「穂萌は一応幽霊なんだけどこの世界に干渉する力が強くてね。実体化して生きた人間のように振る舞うこともできるのよ。」

「流石にこの見た目だと目立つから、見た目はちょっと変えていたけどな。髪と目の色を。」

「幽霊ってなんでもありなんですね……。」

「そういえば別の幽霊に何人か会ったことあるけど、美少女の姿しているのは大体生前おっさんだったよ。」

「その情報は知りたくなかったです。」

 こっそり彼女の心を読もうとしても全く読めない。どうやら本当に幽霊のようだ。

 今や彼女は完全に実体化しており、触れる事もできるだろう。普通の人間が見たら、彼女が人ではないと思う事はありえない。しかし、私は彼女の心が読めない事で彼女が人ではないことを知り、同時に得体の知れない何かへの恐怖を感じざるを得ない。本人が幽霊って言ってるんだし害意は感じないから恐怖もすぐに引っ込んだけど。

「あれ?どちら様ですか?」

やっと魔法少女が穂萌さんに気付く。遅すぎるだろ。

「私の幼馴染の朝霧穂萌。」

「よろしく。」

「はい、よろしくお願いします。」

 穂萌さんが握手を求め、魔法少女がそれに答える。幽霊と言うからには触ると冷たいのだろうかと思うが、魔法少女は別段そのような反応を見せてはいない。

学生として3年間高校に通い通したようだし、語弊はあるが完璧に人間に擬態できるのだろう。

「今後も度々会う事になるだろうけど、2人ともよろしくね。」

「はい、任せてください。」

 穂萌さんが私にも握手を認めてきた。先程の予想通り、彼女の手は暖かかった。

「え?何を?」

「本当にお前何も聞いてなかったんだな……。」

「ははは……それが彼女の良いところだから。」

 どこまでもマイペースな魔法少女に呆れつつも、その日の晩餐は幕を閉じた。

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