柏台宅へ

「電車までちょっと時間あるね。どうする?」

「食事にしてもいいんだけど、ここら辺良い店ないからなぁ……。」

「向こうなら色々あるだろうし向こうにしよっか。じゃあもう改札くぐっちゃおう。」

「よし、行くか。」

 駅のホームに上がると丁度快速電車が走り去っていった。この駅には停まらないので関係ないが、あれに乗れたら楽なのにと思わなくもない。いやまぁその気になれば超能力で乗れるけど。そういう意味ではなく。

 後発の電車に乗っておよそ15分。この辺りでは一番大きいターミナル駅に着く。流石にダンジョンと揶揄されるような大都会の中心部にある駅には敵わないだろうが、かなり混み合っている。もちろん乗降する客も多く、降りるとき人波に押しつぶされそうになった。

「ふぅ、到着。柏台さんいつもこんな感じで通学してるのかな……。」

「今は昼だけど、朝の通勤通学ラッシュ時はもっと混むだろうからな。偉いと思う。」

「私なら3日でギブアップ。人類滅ぼしたくなっちゃう。」

「お前が言うと洒落になんねぇ……。」

 駅を出てすぐに目的地のタワマンが見える。まだまだ約束の時間には早いため、どうするか迷う。

 その旨を伝えると、魔法少女がこう言ってきた。

「あ、じゃあ服買っていい?こっちに越してきたばかりであまりなくて……。」

「いいよ。私も春物買おうかな。」

 というわけで2人でショッピングモールへ。衣服は基本的に通販だったから、誰かと一緒に選ぶのに若干の恥ずかしさがあって新鮮だった。

「そろそろ食事にするか。何か食べたいのある?」

「あ、じゃあここがいい。一度行ってみたかったんだ。」

 これから人の家に行くのにどうするんだろうと思う量の紙袋を携えた2人で近くのレストランへ。ちなみに見かねて持ってあげてるだけで私が持ってるものも8割は彼女のだ。

 店員が2回聞き直すレベルの量を注文し、普通に平らげてしまった魔法少女と、食が細く昼でもあまり食べられない私の顔は食べた量が逆なんじゃないかという様相だった。正直、しばらく動きたくない。

 その細い体のどこに入るのかあれだけの量を食べたのにケロリとしている彼女と、平凡な量だったのに若干食べ過ぎで青ざめた顔をしている私。机の上に山積みされた皿が無ければ、他人は明らかに私が食べすぎたと思うだろう。

 時間もそろそろ待ち合わせの時刻となりそうで、若干急いだ方がいいレベルだ。……仕方がない、ちょっと楽になるか。

 とても女子高生がやってはいけないような方法で満腹を解消した私もすっかり動けるようになり、足早に目的地のタワマンへ向かう。大量の荷物に関しては私が家に送っておいた。こういう時、超能力は便利だと思う。

 結局13時ちょっと前に着き、少し早いが入り口で教えられた部屋のチャイムを鳴らす。

「はーい。あ、ちょっといらっしゃい!ちょっとまってね、今開くから。」

 繋がった瞬間モニターフォン越しに柏台の声。続いて自動ドアが開く。

 柏台家は結構な高層に位置し、建物に着いてから部屋に行くまでに結構な時間がかかった。朝急いでいる時に忘れ物でもしたら最悪だな、と思いつつ到着。

 改めてチャイムを鳴らすと、当たり前だけど私服姿の柏台が出てくる。私服だと尚更小学生に見える。中学生に見える私に言われたくないだろうが。大人びて見える魔法少女と並ぶと、3姉妹に見えるだろう。同い年だけど。

「両親は出かけてるから、今は私とお姉ちゃんだけなの。ごめんね、お姉ちゃんのことお願いします。」

「任せといて!泥舟に乗ったつもりで安心していてね!」

「うん!」

 これが入試1位と2位(おそらく)の会話である。誰がツッコんでやるものか。

「とりあえずお姉ちゃんの部屋に案内するね。」

と、家の奥へつれられていく。

 キョロキョロするのも失礼かなと思い端目で見た室内は、整理整頓が行き届き清潔感があった。決して物が無いわけではないが、それらがきちんと管理されている為、乱雑さを感じさせない。

 オブラートに包まずにいうとまさに金持ちの家って感じだ。マンションだけど。

「ここだよ。」

 柏崎姉の部屋の前に到着。なにやら言いようのない陰湿な空気がドアの隙間から漏れ出している。そんな気がする。

「お姉ちゃん、助けてくれる友達連れてきたから。ドアを開けて。」

 ノックをしながら部屋の中に呼びかける柏台。しかし、反応はない。ガチャガチャとノブを回すも、当然のように鍵がかかっていて開かない。

「仕方ない、無理やり入るしか……。」

「私の出番か。任せろ。」

「え?」

「まぁ見とけって。」

 ちょっと何言ってるかわかんないと言った怪訝な顔をしている柏台を横目に、ドアの前で何かするふりをして普通に超能力で鍵を開ける。

「開いたぞ。」

「え?」

かちゃり、と小気味良い音を立てて鍵が解除される。

「よっしゃ!お姉さん!年貢の納め時ですよ!」

 叫びながらドアをバアン!と開く魔法少女。わけがわからないと言った顔を部屋の内外でする柏台姉妹。姉の方は、妹とは違って普通に年齢相応の容姿をしている。柏台が成長したらこんな感じなんだろうなといった感じの、美少女というよりは美女と呼ぶべきだろうか。そんな女性が、驚きで目を丸くしている。

「う、うひゃあああああああああああ!?」

 一瞬遅れて叫ぶ柏台姉。まぁ、そうなるよな。

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