オカルト研究部
やがて掃除に行っていた人達も帰って来て全員が戻ると、SHRが始まった。と言っても特に連絡事項もなくプリントを配ると即解散となった。
「ふぃー、今日も疲れたー。」
「一日中寝てただけじゃん……。それにまだ1日目なのに『今日も』はおかしいだろ。」
「はっ!確かに!」
「お前なぁ……。んじゃまぁ、校内探検にでも行きますか。」
「いいね。鞄はどうする?」
「置いてけばいいだろ。流石に貴重品は持って行くけど。……まぁ万が一取られても取り返せるし犯人ボコボコにできるけどさ。」
「物騒だねぇ。じゃあ行こっか。」
流石に新学期早々なのもありクラスメイトの大半は解散後即教室を出て行っており、既に閑散としている。斜陽が窓から入り込み赤く染め上がった教室は、一抹の寂しさすら感じる。
教室を出た私達は、まずは科目棟へと向かう事にした。科目棟は文科棟の更に奥にあり、一番遠いためだ。途中で図書室の前を通り渡り廊下を歩いて行くと、担任の桜城先生が向こうから歩いてくる。
「あら、2人とも。どうしたの。」
「あ、先生。今、校内を散策しているんです。各特殊教室の位置とかを把握したくて。」
「なるほど、いい心がけね。でも、暗くなると危ないし、あまり遅くまでは残らないようにね。」
「はい、わかりました!」
「うん、それじゃあまた明日ね。」
「先生、さようならー!」
「バイバイ。」
桜城先生の担当科目は生物らしい。だから、生物教室がある科目棟から来たのだろうか。なんてことを考えていると科目棟に到着した。私達が今居るのは2階で、2階には音楽室と視聴覚室があるようだ。3階には情報室と美術室、1階には理科室が2つと家庭科室がある。順番に見て回ったが、特に今は部活動等で使っているような様子はなかった。
「そういえばさ、お前は部活とか入るのか?」
「別に考えてないかな。そういうあなたは?」
「私も特に。中学でも帰宅部だったしな。」
「そっか。でも、せっかく普通の高校生になったんだし、何かやってみたい気もする。ほら、今まで魔法少女の学校だったから、適正者はそもそも部活動なんて出来なくて。」
「なるほどな。じゃあ運動部とかは?」
「うーん、私運動苦手だし、そもそも殆どのスポーツで初心者だし、足引っ張っちゃいそうで……。」
「ここ別に運動部強いわけじゃないし楽しむ程度でいいと思うけどなぁ。となると何か文科系でやりたいのは?」
「あ、オカルト研究会!オカルトやりたい!」
「えぇ……。本物の魔法少女がオカルト研究ってなんだよ……。」
「でもさ、幽霊とかUMAとか、超常現象とか、世の中の不思議を解明したくない?」
「言いたい事はわからんでもないが、私そういうのは信じてないからな……。」
この世界に面白い事は何もない、あるのはつまらない平凡な日常だけだと思っている。だからこそ私自身がイレギュラーで、この世界には素の私は馴染まないし、私が合わせていくしかない。そう思っていた。……この魔法少女に会うまでは、な。
「……でも確かに、この世界には私が知らないだけで不思議なものが存在しているのかもしれないな。お前とか。」
2本ある渡り廊下の先程とは違う方を通って文科棟に戻ってきた。いくつかの部室が並んでいるが、勧誘で出払っているのだろうか、人の気配はまるでない。陽もだいぶ傾き夜の気配が忍び寄る薄暗い校舎は、怪しい雰囲気を醸し出している。
「とりあえず、どういう部活があるのか見てみるか。」
文科棟の出入り口には、簡易的な地図が貼られている。そこには各階の間取りが示されており、そこでどういう部活があるのかも見ることができる。
「あ、オカルト研究部ってある。」
「マジか……。研究会じゃなくて部なのか。」
普通はこんなのは部活未満の研究会とかじゃないのか。
「とりあえず、見に行ってみない?」
「まぁ別にいいけど。暇だしな。」
と言うわけでオカルト研究部の部室前まで行くと、ドアに張り紙がされていた。
『オカルト研究部は人数不足のため廃部になりました。』
「あちゃー。」
「まぁ、そうなるよなぁ……こんな胡散臭そうな部活。」
「うーん、他の部活はあんまり興味がわかないんだよね。」
「ん、ちょっと待って、何か下に書いてある。えーっと、『もし入部希望者がいれば、教師の桜城に相談してください。』だってさ。」
「桜城ってあの?」
「まぁ担任の桜城先生だろうな。」
「じゃあさ、明日話してみようよ。」
「あー、もしかしてさ、私もオカ研入る感じで認識されてる?」
「え?違うの?入ってくれないの?」
「いや、私はそんな胡散臭い部活に入って目立ちたくないから……。」
「えー、いいじゃない別に。もし入ってくれないなら超能力使えるってみんなに言いふらす。」
「えげつねえし汚ねえぞお前。まぁみんな信じるとは思わないけどやめてくれ。……わかったよ、一応入ってやるよ。ただし、学内で目立つような活動はしない事。いいな?」
「うん、いいよ。」
「はぁ……。」
何故か魔法少女ともどもオカルト研究部に入る事になってしまったが、魔法少女と超能力者がオカルト研究ってなんだ、オカルト研究部じゃなくてオカルト退治部にでも改名したほうがいいんじゃないのか。
その後は図書館や食堂なんかを見て回った後普通に帰宅して終わった。
次の日の授業も、魔法少女は相変わらず寝ていた。こいつ、家で何してるんだ。
「おはよう。」
「もう放課後だぞ。」
2日連続で寝続けた魔法少女のおでこは、突っ伏して寝ていた時の跡がついて赤くなっている。移動教室もあったが、揺すっても起きなかったので私が担いで行った。しかしこいつの影響か、やはり誰からも怪訝な目で見られる事はなかった。
昨日もやったので流石に掃除はすぐ終わり、あっという間に放課後へ。さて先生を捕まえようか、って時に柏台が声をかけてきた。
「あの、例の件なんだけど……。」
「うん?どうかした?」
このやり取りの間に先生が行ってしまう。まぁ、職員室にでも行けば会えるだろう。
「えっとね、明日の午後でいいかな?」
「別に構わないわよ。」
「そうだな。私も大丈夫。」
「え?あなたも来るの?」
お呼びでない事は分かってたけど、うん、なんというかさ……。あと多分、この魔法少女より私の方が役に立つぞ。多分。おそらく。めいびー。
「あぁ、お邪魔だったか?」
「いや、全然!むしろ来てくれるだけでも嬉しい!」
作り笑いなのが心を読まずともわかるぞ、柏台。隠し事が下手なようだ。
「まぁまぁ、私も行くよ。魔法少女よりかは頼りないけど、私もお姉さんが心配だし。」
嘘だ。本当はどんな感じなのか気になるという下世話な好奇心だ。
「それじゃ、明日は私達でお邪魔するね。お昼は食べてからいくから、1時以降かな。それで……。」
「あ、ごめんね、まだ住所送ってなかったね。ここ。」
柏台が見せてきたのは、高校の最寄駅からは数駅先の、この辺りでは一番大きい駅の目の前のタワマンの一室だった。
「わかった、時間になったらチャイム鳴らすね。」
「ありがとう、明日はよろしくお願いします。じゃあ私は帰るね。2人は?」
「私達はちょっと先生に用があるから残るよ。」
「そっか。じゃあ、バイバイ。」
小さい身体を大きく動かして去っていく柏台。
「……さて、私達も桜城先生の所へ行くか。」
「そうだね、行こっか。」
職員室に行ったが、そこに先生の姿は無かった。そこら辺にいた教師に話を聞くと、桜城先生は生物担当だから理科室の近くの生物準備室に良くいるらしい。
「だから昨日向こうから歩いてきたのかな。」
「かもな。教室から遠くて行き来するの大変そうだ。」
昨日も通った渡り廊下を進みながら、そんな会話をする。
言われた生物準備室の前に行くと、ノックをする。「はーい。」と、先生の声が返ってくる。
「失礼します。」
「あれ、2人とも。どうしたの?」
私達の訪問は予想外だったのだろう、驚いた顔をして出迎えてくれる先生。
「実は、あの、文科棟のオカ研の貼り紙を見て。」
「先生まで、と書いてあったので。」
「あぁー!あれね!え、って事はもしかして入部したいの?」
「どんな部活なのかはわからないのでなんとも言えませんが、まぁ興味はあります。」
「私は入りたいです。」
「うぅーん、顧問の私が言うのもなんだけど、あの部活って部室を使うためだけにあるようなものなのよ。だから活動内容は……そうね、集まって遊んでたりとかそんな感じじゃないかな。」
「部室というよりは、秘密基地みたいな感じですか。」
「それじゃあ、なんで今は廃部になっちゃったんですか?」
「名前のイメージがアレでしょ?だから、去年の3年生……、私が新卒だった時に1年生だった子達が作った部活で、そのまま卒業と同時に消滅しちゃった感じかな。」
「なるほど。」
「この学校ね、結構広いでしょ?実は各部活用の部室も、数が余っちゃってて。それで廃部になっても部室はそのまま残ってるわけ。使いたいなら使ってもいいよ?」
「いいんですか?」
「うん、別に大丈夫。一応オカルト研究部には入部してもらう事になるけど。新しい部活を作るには5人以上必要だけど、一度できた部活なら1人でも入れば復活されるから。」
「入るのは別に構わないんですけど、一つ質問いいですか?」
「いいよ。」
「先生はなんで顧問になったんですか?」
「それはね、私がオカルトに詳しいからよ。新卒でどの部活の顧問でもなかったから、当時持ってたクラスの子に頼まれたっていうのが一番の理由だけど。」
「へぇ、オカルトに造詣があるなんて意外ですね。」
「ふふ、色々あるのよ、色々。あなた達と同じように、ね。」
後半は殆ど音にならない小声だったので聞き取れなかったが、何かつぶやいたようだ。
「とりあえず、部室でも見てくる?鍵なら持ってるけど。」
「あ、じゃあそうします。」
先生は机の引き出しから鍵を取り出すと、魔法少女に手渡した。
「鍵は帰るときに掛けてくれればそれでいいから、持っといたままでいいよ。あと、週明けの朝のHRの時にでも入部届渡すから取りに来てね。」
「はい、分かりました。色々とありがとうございます!」
「では、失礼します。お忙しいところありがとうございました。」
「そんなに畏まらなくても……じゃあ、気をつけて帰ってね。」
扉を閉めるまでこちらに軽く手を振ってた先生と別れ、オカ研の部室前までやってきた。と言っても直接来たわけではなく、一度教室に戻り荷物を取ってからだ。
「ん、これで開くかな」
ガチャ、と小気味良い音を立てて鍵が開く。誰も居ないのはわかっているだろうに失礼します、とわざわざ口にして扉を開ける魔法少女。
「わぁ……。」
「どれどれ。」
一方踏み入ったところで立ち止まった魔法少女の傍から部屋の中を窺う。広さは結構あるようで、両側の壁に本棚がある。窓にはカーテンがかかってて、夕暮れ時で元々暗いだろう室内を更に暗くしており、詳しく中の様子を確かめることはできない。
「あ、スイッチあった。」
魔法少女が扉付近にあった電気のスイッチを入れると、遂にオカ研部室はその全容を露わにした。
部室は1ヶ月前まで使用されてただけあって埃を被ってるようなこともなく、小綺麗に片付いている。ぼんやりと見えていた通り壁側にはそれぞれ本棚があり、部屋の中央には長テーブルが2つある。窓際にはどうやって持ち込んだのだろうかソファーが鎮座している。長テーブルの上に何やら紙片が置いてあるようだ。魔法少女もそれに気づいたようで、拾い上げた。彼女がそれを確認している間本棚に目をやると、片方の本棚はびっしりと本で埋め尽くされている。とはいってもそのほとんどは漫画やライトノベルのようだ。もう片方を見ると、そこにはボードゲームやバトルド◯ムといったアナログな遊び道具が置かれていた。今のところ、オカルト要素は1つもない。
「なぁ、それなんなんだ?」
「先輩からの置手紙かな。」
「ほう?何て?」
「要約すると『ようこそオカルト研究部へ、この部室にあるものは自由に使っていいから楽しい高校生活を送ってくれよな!』だって。」
「この部室にあるの、娯楽ばっかだぞ……。」
「オカルト研究を本当にしてたのか疑問が残るね……。」
オカルト研究部というからもっとこうロウソクがやたらと置いてあるとか、床に謎の魔法陣が書いてあるとか、水晶ドクロが置いてあるとか、胡散臭い雑誌の切り抜きを集めたクリアファイルが大量にあるとか、ラベルから中身が推測できない謎のビデオがダンボール一杯に入ってるとか、そういうのを想像していたが、これだとアニメ研究部やサブカル研究部とした方が正しいのではと思ってしまう。オカルト研究がしたい、と言っていた魔法少女はこれでいいのだろうか。内心、がっかりしてたりしないのか。
「そういえば先輩ってどんな人だったんかな?」
「文字を見た感じだと、これ書いた人は女性だと思う。部長、って最後に書いてあるから創部者じゃないかな。」
「確か部の発足条件は5人以上だったよな、ということは最低でもあと4人はいたわけだ。」
「一体どんな人達だったんだろうね。今度、楓ちゃんに聞いてみようか。」
「楓ちゃんって誰……ああ、桜城先生か。」
「あぁー!先生のことかー!ここに楓ちゃんって書いてあるから誰かと思ったんだ。」
「わかってなかったんかい……。」
「うん、楓ちゃんなる人物を探して聞いてみようと思ってたの。」
「行動力の化身かよ……。まぁとりあえず入部届け貰う時にでも軽く聞いてみるか。」
「そうだね。とりあえず今日はもう帰っちゃう?」
「特にすることもないしなぁ……。これからいくらでもここ使えるわけだし、帰るか。」
というわけで私達は家路につく。まぁ、オカルト研究がしたいなら、これからどうすればいいかを考えていけばいいわけだし。……なんで私がオカルト研究について考えているんだろうか。お人好しだな、私も。
「そういえば、明日はどうする?」
「柏台の家に行く前か?そうだな、お互い一人暮らしだし外食でもするか。」
「いいね、10時に駅前でどう?」
「いや、私達ならいつもの曲がり角の方が早いだろ。」
「あー、じゃあ、起こしにきてくれない?休日だと私午前中に起きれるか不安だから…。」
「おいおい……。」
「多分家近いから、お願い!」
「まぁいいけどさ。チャイムでも鳴らせばいいのか?」
「いや、多分それじゃ起きないから、鍵開けて中入って来て。」
「鍵どうすんだよ。」
「開けられるでしょ?」
「開けられるけどさ。お前はそれでいいのか。」
「いいよ。起こす時も超能力で浮かしてベッドに落とすみたいな感じだとありがたいかな。」
「お前はそれでいいのか……。」
そんなやりとりをしているうちにいつもの曲がり角まで来た。どうせなので魔法少女の家の位置を確認しようって事で私も一緒に行っている。
ここだよ、と彼女が指し示したのは普通の一軒家だった。この辺りは住宅街だし、周りに全く同じ外見の家が並んでいるからぼんやりしていると家を間違えそうだ。
「じゃあ明日、起こしに来るからな。9時半でいいか?」
「いいよー。じゃあまた明日ね。」
「おう。」
バイバーイ、と手を振る彼女に彼女に軽く手を振り返し別れると、家に帰る途中にコンビニに寄る。今日も今日とて適当にコンビニ飯で夕食を済ませ、家事と軽く仕事をして寝た。
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