たった3分のメッセージ

私誰 待文

たった3分のメッセージ

『どうも! HIROTOひろとです!

 突然ですが皆さんは、“3分間”って聞いたら、何を思い出します?

 多分一番多いのは、やっぱカップラーメンが出来上がるまでの時間だとおもうんですよ。んで、次に多いと思うのが、あの怪獣と戦う某ヒーローが、地球上で活動できる時間とかかなー。

  

 3分って絶妙ですよねー。なんにもしないで居ると長く感じるけど、かといってなんかして時間潰そうとするには短すぎるし。

  

 というわけで今回は、3分で何ができるのかっていうのを調べてきました! まぁさっき言った通りカップ麺とか、某ヒーローとか。

 ……あっ、あと有名なアニメ映画のセリフにもありましたね。「3分だけなら待ってやろう」だっけ。あれ、なんか違うな? 


 手始めに3分で検索してみると、〈3分で分かる○○〉ていう検索結果が多くでてきました。主に解説動画とか、あとは歴史上の事件とか名著なんかを3分で知ろう!みたいな書籍がですね。

 このときに僕、あ~なるほど、って思いましたね。確かに、書店とかにいくと、あっ、僕こう見えて書店とか行くんですけど、確かに教科書とか、あと参考書ブースとか、あとは自己啓発本のコーナーなんかにも〈3分でしっかり伝えるスピーチ術〉みたいな厚い本が山積みになってるんですよ。

 そういう本がたくさん発刊されるということは、3分って絶妙な時間だけど、有効に過ごそうと思えばできる時間なんですねー。

  

 有効に関連づけると〈3分でできる○○〉、というタイトルの動画がたくさんでてきたんですよ。こうばーっと眺めてみたら、筋トレとか、メイク術とかに関係する動画が多かったですね。

 メイク術の動画で言えば、〈3分でメイクチャレンジ〉みたいな動画も多かったですね。他にも3分で何かにチャレンジする動画はたくさんありました。これらからするに、3分は短い時間、として一般的には意識されてるんですね。


 次に、3分でできること、で調べてみました。結果として、色々でてきたんですけど、分かりやすいものでいえば、ギネス記録がありました。

 〈3分で134人と自撮りをしギネス更新〉であったり、〈3分間で100人が手巻き寿司を694本作りあげギネス記録〉などがありました。

 すごいよねー。特にこの3分で134人と自撮りって、すごくないですか? 僕なんて動画はたくさん撮ってきたけど、自撮りは、あんまりしないからなー。


 ちょっと変わった視点から考えていくと、人間って普通に歩くと1分でおよそ80メートル移動できるんですって。つまり人間は3分で、大体240メートルぐらいは歩いて進めるということなんですよ。

 240メートルってどんなものが当てはまるのかな、と思って調べてみました。

何個かでてきたけど、一番皆さんに分かりやすいのは、国会議事堂の南北幅ですかねー。あの、普段皆さんが想像する国会議事堂の形ですね。横に長いあの形。国会議事堂の南北幅が206メートルらしいので、あの建物の端っこから端っこまでは、3分あれば余裕で渡りきれるってことなんですねー。

 カップ麺にお湯いれて、国会議事堂の端っこから歩き始めると、歩き終わったときにはカップ麺がお美味しく出来上がってる、ということになりますね。

 ……カップ麺を手にもって国会議事堂を横切るって、傍からみたらめっちゃ変な人だな……。



 まぁ、ここまで3分に関するいろんなことを紹介してきましたけれど、最後は、ちょっとクサいことを語って、〆ようと思います。


 僕が高校生の頃に、シャイな友達がいて、そいつには片思い中の好きな人がいたんですよ。んで、高校生活最後の卒業式の日、僕はその友人に「最後なんだし思い切って告白しちゃえよ!」って薦めたんですよ。

 それでね、卒業式も終わって、14:50ぐらいに教室に生徒たちが戻ってきて。チャイムが15時に鳴ったらもうほんとに卒業。高校生として過ごす最後の十分間になったわけですよ。

 僕は友達のクラスにいって、前いったように僕の友人に、想い人に告白するように言いにいったんですよ。でもそいつはいつもみたいに引っ込み思案で、「やっぱいいよ……。今まで一度も話したことないし……」って言うんですよ。

 そうやって刻一刻と時間は過ぎていって、15時のチャイムまであと3分しかなくなっちゃったんですよ。

 そしたら、なんか吹っ切れたんだろうね。そいつは急にその好きな人のところにいって、顔を真っ赤にしながら話し始めたんですよ! そこからその3分間、その友人と友人の想い人は意外にも趣味が合うことが分かって、さらにそこから後日、その人と会う約束を取り付けることができたんですよ! 

 今でもその友達とはたまに会うんですけど、現在その二人は結婚も秒読かってぐらいに長いこと付き合っています。


   

 まぁ、なにが言いたいかって言うと、3分もあれば想いは伝わるもんだってことですよ。ねっ、皆も頑張ってね!


 ……そろそろいいかな。

 というわけで、今日の動画は以上です! 

 ここまで観てくれてありがとう!

 チャンネル登録、高評価、よろしくお願いしまーす! バイバーイ!』



     ~     ~     ~     ~     ~



 動画のシークバーは、ちょうど三分で再生を終了した。

 動画の真下には、

 『【ラーメンタイマー】3分でできることを3分で紹介してみた!』

というタイトルが書かれている。

 

 「それが、河坂浩人こうさかひろとさんが投稿した最後の動画?」

 動画を観ていた若い警察官が訪ねる。

 「はい。この動画が、浩人が投稿した最後の動画です……」

 スマートフォンを手に取ったまま、若い女性が答える。


   -   -   -


 三日前、動画クリエイターのHIROTO(本名:河坂浩人)が路上で自動車に撥ねられ、死亡する事故が起こった。

 当時、HIROTOは動画投稿歴三年という界隈では若手の動画クリエイターだったが、その人柄と動画の妙味さが徐々に受け、あと数ヶ月もすれば次代を担うクリエイターとして注目されるだろうと、期待をされていた。

 それだけに、この死亡事故はHIROTOのファンを筆頭に界隈中に衝撃を与えた。

 そして、HIROTOが生前最後に投稿した動画が

 『【ラーメンタイマー】3分でできることを3分で紹介してみた!』

という三分間の動画だった。その再生数は現在230万を上回る勢いで伸びていた。


   -   -   -


 「犯人は、捕まったんですよね?」

 女性が警察官に問いかける。この女性と河坂浩人は高校時代に知り合い、以後五年間に渡る三日前まで付き合っていた。

 「ええ。現在、取調べ室で事件の詳細を調査中です」

 警察官がそう返答すると、女性は安堵したようにふぅと一息吐き、再びHIROTOの動画を再生した。動画内で楽し気に話すHIROTOを観ながら、彼女も楽し気に微笑んでいる。

 

 「私、最初は彼が動画を投稿してるなんて知らなかったんです」

 動画を観ながら、女性が呟く。

 「知らなかったんですか?」

 「はい。でも、一年前に偶然彼の投稿している動画を発見して。そのことを彼に話したら、彼は顔を真っ赤にしながら一言、『前から、やってみたかったんだ』って。そのときから決めたんです。彼のやりたいことは、私が一番応援してあげようって……」

 「……お悔やみ申し上げます」



 『――僕が高校生の頃に、シャイな友達がいて、そいつには片思い中の好きな人がいたんですよ――』



 動画から音声が流れる。

 「人情味ある人だったんですね」

 警察官が口を開く。

 「いいえ、彼は出会った頃からシャイでしたよ」

 「えっ?」

 「この話も、彼なりの照れ隠しだと思います。本当は卒業の日、彼は一人真っ赤な顔で私に話しかけてくれて」



 『――その二人は結婚も秒読みかってぐらいに長いこと付き合っています――』



 「あの日はたった3分しか話せなかったけど、あの日から始まった彼の想いは全部、私の大切な時間おもいでとして伝わっていますから」

 警察官は微笑む彼女を見る。

 スマートフォンを持つ彼女の左手薬指には、永遠を約束するように煌めくダイヤモンドが、結婚指輪の中で輝いていた。


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