How completely day. 3

 Quelle journée!

 ミシェルは笑い転げながらトタントの石畳を歩いていた。来た道には点々と赤い苺色の水玉模様が続いて、革靴の踵で踏んだそれが、でたらめに絵の具を指で擦ったように引き伸ばされる。道に非定型の芸術ラール・アンフォルメル、驚いて振り返った街の人々だって笑ってる。なんて言ったって、空からジャム壜が降ってきた! 今日はなんでも可笑しいが、自分の身に起きたこととしてはこれがいちばん可笑しいだろう──朝方おろしたての、蝋引きのグリーンのジャケットの襟にぱたぱたと、割れた額から赤が滴り落ちて、道とおんなじ水玉をつくっていく。ひやりと忍びよる宵の暗闇が傷を撫でて、こぼれる血が皮膚を伝い、笑うたびに口に入る。舌に広がる錆の味──かつて恋人といた頃のなじみ深い味、愛しい匂い──最後に自分の頭にゴルフクラブを振り下ろした恋人の、深く記憶に刻まれた血の味──

「───あ、れぇ……?」

 不意に異変に気づいて、ととと、と装飾音符的に靴先を止める。血が瞼に垂れてよく見えていなかったが、よぅく見ると、青っぽい夜のなかに人が倒れていた。他の通行人も気づいたようで、おやおやと笑い声と一緒に集まってくる。

「Oh là là!──レベッカ?」

 そばかすのある顔立ち、痩せたジーンズの脚、大きめのスニーカー、足首がぐんにゃりとしていて、ああ殴りすぎたときに人はこうなるなあと思いながら、傍らに座り込んで、声をかけた。「あはは、レベッカ、元気そうには見えないけど、ふふ、Howdy?」

 返事がない。もう一度オーララと呟き、ミシェルは立ち上がって公衆電話を(スマートフォンはどこかに落としてきた)探……そうとして、自分も後ろにひっくり返った。薄目をあけると、赤や緑の星が散っている。トタントの夜空はこんなにカラフルだったろうか。

「もしもし─あはは─人が─倒れて─るんですけれど。場所は……通りの──えへ、やっぱり皆電話してるんだ──あははは」


「……え? 俺ですか? ─あはは、確かにさっきジャムの壜が降ってきて──そう、はは、可笑しいでしょう? ──え? 呂律が変、──」


 ──暗転。


5/31 Michel


 Shock!


 ・・・Lucid interval・・・


 Syncope! ⏪NOW…

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