How completely day. 2

「Howdy!」

 泣きたくなるような空気の温度だったので、なかば自棄になってミシェルは声をあげる。すれ違った町民が気さくに片手をあげて、同じ言葉を返すのを聞き流しながら、革靴に自分で通した紫の紐がほどけるのも構わず、駆け出した──ものさびしい。夏のバカンスが終わる砂浜ですら、これほどの寂寥はない。慰めに買った花束が残酷に放られ、空に散らばる。火が欲しかった。"恋は罰である。私たちはひとりきりでいることができなかったがゆえに罰せられる。"──気に入りの散文詩の一節が野火のように胸中を駆ける。感情の日。Je suis triste, Je suis malade. 心は嫌いだ、そんなものは肉屋の包丁にふさわしいものだ。孤独のさなかで肉体を選ぶ。彼がもういないなら、誰でもよかった。


(作中の詩はM.ユルスナール「火」多田智満子訳より)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る