変身時間は3分

新座遊

そこは20世紀中盤の文明レベルだった

「怪獣がまた出現した。場所は鎌倉。我が星の興廃はこの一戦にあり。各員一層奮励努力せよ。いざ鎌倉へ」

対怪獣攻撃隊の隊長がタコの姿で胸をそらせながら、訓令とともに命令を下した。誰が怪獣だかわからん姿である。

彼らと同じ姿に変装した俺も隊員の一人として出動する。

この姿には違和感を覚えるが、仕方がない。異星人が必ずしも人間型とは限らないのだから。

鎌倉というのが俺の脳内に埋め込まれたAIチップの誤訳じゃないとすれば、タコの姿の割には、日本の文化に近い文明社会なのかもしれない。


少しだけ前のこと。

カルダシェフ星にタイプ1レベルの文明が栄えているという敵方の発見報告を傍受し、我が探査部隊の中では一番近い星域を探査していた俺は、早速、カルダシェフ星へと向かった。

早く行かなければ、我が東地球連邦が、敵である西地球帝国に後れを取ってしまう。


地球文明は、東地域と西地域との競争により、幾何級数的勢いで文明レベルを向上させており、今や超光速度移動も可能な技術を手にしていた。

直接の国家間戦争はしないが、見つけた星の取り合いは幾度となく行っている。その原住民には申し訳ないが、競争ってそんなもんだろ。


俺がその星に到着したとき、すでに西地球帝国の先兵が、侵略行為を始めていた。

自分の勢力圏内にあるフランクリン星系団に生息する頭の悪い肉食動物をカルダシェフに解き放ったのである。

雷を操るこの怪獣は、原住民の生活を脅かすことになる。

なんとまあ、杜撰なやり方であろうか。だから西の連中はダメなのだ。

原住民の反感をものともせずに、すぐに成果を上げようとしやがる。バカめ。

俺は東地球連邦の法律に従って、まずは原住民に化けて、この社会の治安維持部隊に潜り込むことにした。

怪獣討伐の現場に行き、原住民がやられそうになった時を狙って、変身を解き、正義の味方として怪獣退治をする。

それにより、原住民の信頼を得るという真っ当な手段である。このやり方で何度も西地球帝国に煮え湯を飲ませてきた実績ある方法なのである。


鎌倉海岸に、フランクリン星系団の怪獣が今まさに上陸しようとしていた。

タコの姿をした一般市民は逃げまどい、タコの形をした大仏風の宗教シンボルが設置された広場に避難しつつあった。

彼らを被害に遭わせるわけにはいかない。俺は正義感をかき集めてそんなことを思う。いつ元の人間の姿に戻り、怪獣を倒すのが効果的か。タイミングを計るのである。

化石燃料を使った飛行物体で怪獣の周りをウロチョロする軍隊が、怪獣の雷撃により次々と撃ち落されていく。

対怪獣攻撃隊は満を持して、秘密兵器を使って怪獣を足止めし出す。

秘密兵器は、この時代の文明に相応しからず、文明レベルが一つ上を行くものだった。

重力制御をしないと扱えないはずの小型反物質榴弾などは、軍隊にこそ持たせるべき兵器であるはずだが、この少数精鋭の対怪獣攻撃隊だけが所持できるのだ。

さすがの怪獣も、その攻撃には苦しみ始めた。

まずい。これで倒してしまったら、俺の出番がないではないか。

俺は「時期尚早です」というAIの忠告を聞き流し、タコの姿から元の姿に変身することにした。


AIが慌てた調子で俺に訴えかける。「ダメです、この変身は、この地上では3分しか持ちません。どうやら西側の妨害粒子が散布されている模様です」


しまった、ついに妨害粒子が実用化に漕ぎつけていたのか。とするとこれは罠か。

とにかく3分で怪獣を倒せば目的は達成するはずだ。苦戦したのちにようやく倒すというシナリオはこの際、諦めよう。

人間の姿を見上げるタコの面々が、指というか足で俺を指さして、何やら言い合っているが、この雄姿に期待している風でもないのが気にかかる。

ええい、ままよ。すぐさま必殺技を繰り出す。両手をクロスさせて、あらゆる生命体を無機物に変化させるビームを出した。

怪獣は無機物に変化した。これで解決。

と思ったが、無機物のくせにまだ動いている。それどころか、有機物の不安定さを失ったこいつは、あらゆる物理的攻撃を反射するようになってしまった。

あとはもうプロレスである。いくら殴りつけても蹴っても、怪獣は平然としている。ダメだ、もう時間がない。一時転進するしかない。俺は空を飛び、山奥まで逃げてからタコの姿に戻った。


対怪獣攻撃隊の基地に戻った俺は、隊長の前で事の経緯を説明した。

「というわけで、私は地球という星から来た正義の味方なんです。今回は残念な結果になりましたが、これからも敵からこの星を守りたいと思います」


俺は即座に逮捕された。

隊長がニヤニヤしながら俺に言った。

「今回は我々の勝ちだな。いつまでも同じ手で負けるわけはなかろう。そもそも変だと思わなかったのか。なぜこの星の文明レベルで重力制御兵器があると思ったんだ」


そうか、すでに侵略済の星で、俺を嵌めようとしていたのか。

「計ったな、西!」











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