高嶺の花でもいいじゃない

きゃろん

第1話 一目惚れ

 千夜はね一目惚れをしたの。相手は同じ学校でもなく地域の人でもなく周囲の人でもなく芸能人。イケメン俳優として名を轟かす山本 竜哉。画面越しにいる彼の笑顔は私の胸を鳴らしたんだ。

 切れ長の男らしい目に筋が通った立派な鼻、それに紅椿ような赤く濃厚な唇。今にもその唇に吸い付きたい。笑ったときに見える真っ白く輝いた歯。ストレートな黒髪。彼の全てが愛おしい。

 でも彼は意地悪だ。千夜とはね、画面越しでしか会ってくれないの。イベントなんて全然チケットが当たらない。こんなに好きなのにその気持ちを踏みにじるかのようにテレビをつけると熱愛報道。相手の女優さんに嫉妬心を抱いてしまうんだ。彼はいつになったら私の方を向いてくれるんだろう。

『千夜も芸能人になりたい!』そう思っても千夜には芸能人のなれるような特技も容姿もない。そんなことくらい千夜でも分かっているよ。芸能人の彼女になれるような自信もない。でも好き!という気持ちだけは誰にも負けない自信がある。千夜が1番彼のこと好き!これだけで恋って叶うもの。そう信じてる。


 ある日学校から帰ってくると、パパが久しぶりに家に帰ってきて


「千夜。今度パパの会社でパーティーがあるんだけど来ないか?結構盛大なパーティーでね。千夜にあって欲しい人もいるんだ」


と言った。実は私のパパは大手企業の社長。だから仕事が忙しくあまり家に帰ってこない。

 パーティーに行く機会なんてあまりないしとても憧れの世界。パーティーに行って運命の出会いを見つけて結婚なんてよくある少女漫画の話。密かにこの少女漫画みたいな恋を信じていた。


「パパ。ぜひ行きたい!千夜絶対行きたい!」


「そうか。じゃぁ来週の日曜日にパーティがあるからそれまでに準備しなさい。時間は19時からだから18時に家を出る。分かったな?」


「分かった!千夜とても楽しみ!」


 来週の日曜日が待ち遠しい。

(ドレス何着ていこっかなー。あっ、髪の毛。美容院予約しなきゃ。アクセサリーも買いに行かなくちゃ。)

 パーティーのことを考えて行くうちになんだかわくわくしてきた。


 ~パーティー前日~

 母ととある有名なアクセサリーショップに訪れた。

 そこには何百種類のアクセサリーが並んでおりテンションはMAX状態。

 でも1番は店内の真ん中のテーブルに並んでいた金色の丸い形をしたイヤリングとネックレスのセット。


「ねぇママ、千夜これが欲しい!」


「いいわよ」


と言ってママが店員さんを呼んで買ってくれた。


 〜パーティー当日〜

 午前中は予約していた美容院に行って髪をセットしてもらいに行く。

 店内に入ると、大きなシャンデリアが迎えてくれる。


「今日はどうされますか?」


と金髪のロングヘアのお姉さんが声をかけてくれた。


「髪をセットして欲しいです。これからパーティーなんですよ」


「わかりました。パーティー楽しんできてくださいね」


「はい」


「では、このソファに座ってしばらくお待ちください」


と言われふかふかの黒いソファの上に座り横の棚からティーン雑誌を手に取った。そこには大好きな山本 竜哉が載っており興奮した。


「準備が終わったのでこちらへどうぞ」


と言われ案内された。席につくとヘアカタログを渡されどんな髪型にしたいか選ぶように指示された。直ぐに選ぶと美容師さんが髪をセットしてくれた。

 髪の毛のセットが終わり家へ帰るともう出発の30分前、急いでドレスを装着しアクセサリーをみにつけ車庫へ向かった。

 車に乗り込むとパパが車の中でもう待っていた。パパは私が乗ったのを確認すると車をパーティー会場まで走らせた。


 パーティー会場に着くと門の前にはたくさんの警備員が立っていた。パパが警備員に挨拶をしていたので私もした。

 会場となる部屋の扉を開けると広い空間にたくさんの大きなシャンデリアがありとても輝いていた。入った瞬間大きなパーティーと分かるほど華麗で賑やかで人も沢山いた。机の上には美味しそうな食べ物がいっぱい。ワインを乾杯する姿も見られる。私はまだ未成年なのでワインなどのお酒は飲めない。オレンジジュースで乾杯することになった。


 しばらくしてパパが私に声をかけてくれた。


「千夜。この前あわせたい人がいるって言ったの覚えてる?その人と今から面会しに行きたいんだけど来てくれるかい?」


「いいよー」


 私はパパに舞台近くのテーブルに連れていかれた。そこは特等席でほかの椅子よりふかふかしていて飾りも豪華だった。


「千夜にぜひ会ってほしかったのはこちらの方」


とパパが私に言って相手の方を手招きした。私は驚きを隠せなかった。なぜならパパが会わせたい人って私が大好きな私が将来結婚したいあの山本竜哉なのだから。


「こんばんは。山本竜哉です。お会いできて光栄です」


と山本竜哉本人が挨拶をした。私は緊張と嬉しさを顔に出して


「私は藤堂 司とうどう つかさの娘の藤堂千夜です。こちらこそお会いできて光栄です」


と頬を赤らめながら挨拶をした。でも私は疑問に思った。なんでパパがあの山本竜哉と知り合いなのか。いくら大企業の社長でも芸能人と知り合いなんて漫画だけの世界だと思ってた。そんな私の疑問を解くかのように、


「実はね、千夜。竜哉とパパとの関係は10年前からなんだ。彼のお父さんは10年前パパの会社で働いていてね、とても優秀な人だったよ。でもある日予期せぬ事故が起こって、会社の3階にある新開発の機械が爆発して偶然目の前を通りかかった彼のお父さんがそこにいた女性社員を守ったんだ。新開発の機械はまだ完全に完成したわけではなかったんだ。しかもその事故は結構大きくてね、3階が丸焦げになったんだ。すぐに消防車を呼びその女性社員と彼のお父さんを救出したんだがね、女性社員は軽傷で済んだが竜哉のお父さんは下半身麻痺で意識不明の重体だった。すぐに病院に搬送されたが、未だに意識は不明。当時8歳だった彼はずっと泣いていた。お母さんは彼らを置いて出ていった。これは会社の責任でもあるから彼の家に家政婦を付け学費、生活費、彼のお父さんの入院費などその他もろもろ払い続けた。そして彼の父親代わりになった。夜帰りが遅いのも彼の家によっていたからかな。パパはいいって言ったんだが彼はお金を稼ぐために芸能人デビューを果たした。その頃たまたま竹下通りでスカウトされて芸能界の世界にも興味があったらしい。彼にとっては興味もあってやってみたかったしお金も稼げる彼にとって一石二鳥だったのかな。今では彼は売れっ子俳優。成功者だ。彼が無名の頃からパパはずっと応援してきた」


「その節は本当に長い間ありがとうございます。藤堂 司社長には本当に感謝しています」


 パパと山本竜哉がこんな関係だったことにびっくりだ。


「それでね、娘がいるって言う話をしたらどんな素敵な娘か会ってみたい。興味があるって言われてね」


「突然ごめんね。千夜ちゃん。ビックリしたでしょ。千夜ちゃんはパパに似て立派な人だね」


 憧れで大好きな人に千夜ちゃん呼び、しかも褒められた。すごくすごく嬉しかった。この瞬間がまさに人生最高の瞬間。







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高嶺の花でもいいじゃない きゃろん @can_m9916

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