最後の3分間

けんざぶろう

男の最後の3分間

 人間は文明を飛躍的に進歩させた。 俺が生まれた時には宇宙は、無限に広がるものだと信じられていたし、光の速度より早く移動する物体は無いとも言われていたっけ。


 そんな漠然としたことを考えながら、6畳1間にある一室で俺は寝ころびながら何となく呟く。


「さて、俺の命もあと3分か」


 この俺のつぶやきは事実である。 あと3分後に俺は確実に、この世からおさらばするのだ。


「俺がガキだった頃には考えられない制度だよな」


 寿命制度。 国によって生まれた瞬間から死ぬ時間が管理されるこの制度は現在では当たり前となっている。


 何故、このような制度が導入されたのか、それは簡単に言うと人間が文明を発達させすぎたためである。


 文明が発達してしまったために人は寿命という概念を乗り越えることができる可能性を帯びてきた。 一般的に不老不死という概念が現実になるのではと囁かれるほどに。


 もちろん、ここで言う不老不死とは言葉通りではない、ただ、老いなくなり、病気で死ななくなるだけである。 人間自体の強度は変わらないが、それでも当時はこの可能性に多くの人間が興味を示した。


 誰しもが老いたくないと考え、同時に死にたくないと考えていた当時、全ての人類がこの方法を求めた。 そして1人の科学者がコレを現実にした。 いや、してしまったといったほうがいいのだろう。


 当時の人々は、この学者の考案した不老不死になる方法に魅了された。 世界が異常なまでに熱狂したといってもいい。 誰しもが、これから良くなるであろう世界を夢見て次々と不老不死になってしまった。


 しかし、当然ながらそれによって問題も起きる。 第一次人口爆発である。 数が減ることなく増え続けるため、食糧問題や、貧困層の加速。 経済の低下など様々な問題が起こった。


 当時の政府は、子供を作ることを禁止した。 しかし、考えてみてほしい、子供を作るなと言われたところで、はい分かりましたと、それに従うだろうか? 答えは否。 当然ながら国民はコレに猛反発、尊厳とか、考え方の自由とかよく分からない御託を述べながら愚かな国民は人口を増やしていった。


 不老不死が一般的になって5年後、各国で戦争が起こり始める。 何による戦争か? 俺の生まれたばかりの時代の戦争と言ったら、宗教戦争や、資源を得るための戦争だった。 しかしながら今回の戦争は違う。 人口を減らすために行われた戦争である。


 この戦争を後に、人口が増えすぎた悲劇と呼ぶ人もいるが、今はどうでもいい。 とにかく、この頃になると殺し合いが日常化したのだ。 当時の人の命は軽く、殺人鬼が町中を闊歩していた。 真偽は分からないが、人を殺して国から金をもらう者もいたという話も聞く。


 当然、そのような環境に置かれたら人間は理性を失う。 一時期は、国の秩序が乱れ、世紀末の世界を題材にした漫画に似た環境が出来上がる。


 そんな中、革命家がこの腐敗した世界をまとめ上げる法律を作った。 それが寿命制度である。 人間は生まれた瞬間から死ぬ時間が決まるというこの法律は。 非の打ち所がない画期的な法律だった。


 生まれたものは取り上げられた瞬間に、または既に生まれたものは定期的に、国から毒を撃ち込まれる。 毒といっても苦しむための独ではなく安楽死、しかも効果が表れる時間は表記されている毒である。


 この法律により、人間は一定の人口を保ちつつ、繁栄していくことができたのだ。 ……と。 そろそろ俺にも毒が体に回ってきたらしい。 激しい眠気に襲われて、俺は瞼を閉じた。


 願わくば、この国がもっと良い形で繁栄するようにと願いを込めて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の3分間 けんざぶろう @kenzaburou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ