地球滅亡、最後の三分間

幻典 尋貴

地球滅亡、最後の三分間

 神様がいるとするならば、そいつは相当信用出来ないヤツだ。


 私は昨日、神様にお願いをした。

「彼に会いたいです。どうかよろしくお願いします!」

 交際期間一年半となる彼氏は、最近は特に部活が忙しく、あまり二人で会えなくなっていた。

 会えない日々をひいふうみいと指折り数えていく度に、彼に会いたい気持ちが高まってしまい、どうしようもない気持ちになってしまった。

 だから私は、両手をぎゅっと握って何度も神様にお願いをした。

 流石に神様にしたら下らないと思うだろうが、仕方がない。一大事なのだ。

「お願いします、お願いします!」

 その直後スマホが鳴る。LINEだ。

『明日、会えないかな』

 私は天に対して何度も「ありがとうございます」と言い、メールの返事には『私も会いたかった』と答えた。

 その晩私は部屋中を飛び回り、隣の部屋にいる姉から何度も壁を叩かれたのだった。

 翌日の朝、あったはずの学校が休みになった。

 制服を着てリビングに行くと姉が、「今日は学校休みって聞いたけど」と言ってきた。

 原因はきっと、そう。

 淡白なニュースの声が伝えているあれだ。

『本日、十二時三十分頃に隕石は衝突するでしょう』

 画面の左上には緊急速報と赤い字で書いてあり、右上には「巨大隕石 地球への影響は」と書かれている。

 スーツを着た偉そうな人は、腕を組み、言う。

『この隕石は六千五百万年前に恐竜を滅ぼしたと言われるものと同程度、又はそれ以上の大きさです。地球に住んでいる種の滅亡は免れないでしょう』

 巨大隕石、地球滅亡、色々と出てきた絶滅的な言葉の中で、一番頭に残っているのは“十二時三十分”。

 私達が昨日、約束した時間も十二時三十分だった。

 映画を観に行こう、その後は時間が許すまで二人で話でもしよう、そう約束したのだ。

 それなのに、何故。

 多分、都合のいい時だけ神様を信じる日本人に嫌気がさしたのだろう。隕石の落下地点は日本の真ん中辺りを指していた。

 どうしようもない。けれど、彼には会いたかった。

 電話をかける。だが、電話回線が混み合っているらしく、通じない。

 ダメ元でLINEを送るが、既読すらつかない。

 どんなに技術が発達したって、混乱した人間には勝てない。

 仕方がなく、私は服を着替え家を出た。

 背後で姉の声がしたが、そんなものは聞こえてないのと同義だ。

 約束の場所まで走る。

 たとえ彼がまだ来ていなくてもいい。私は彼が来るまでずっと待つだろう。


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 神様がいるとするならば、いつかそいつと酒でも飲みたい。まだ、酒は飲めないが。


 僕は昨日、神様にお願いをした。

「最近彼女と会えていません!どうか会わせてください!」

 ずっと部活で休みも取られ、明日も部活が有った。

 会えない日々をひいふうみいと指折り数えていく度に、彼女に会いたい気持ちが高まってしまい、どうしようもない気持ちになってしまった。

 だから僕は、両手をぎゅっと握って何度も神様にお願いをした。

 流石に神様にしたら下らないと思うだろうが、仕方がない。一大事なのだ。

「お願いします、お願いします!」

 その直後スマホが鳴る。LINEだ。

『明日の部活は先生が仕事があるため休みです』

 僕は天に対して何度も「ありがとうございます」と言い、彼女にLINEを送った。

『明日、会えないかな』と送ったLINEに対して、『私も会いたかった』と帰ってきた事に絵も言われぬ幸福感を覚え、ベッドの上でジタバタした。

 その後、場所や行く所を決め、いつもより早めに眠った。

 翌日の朝、着ていく服を悩みに悩み、約束の時間より早く家を出た。


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 約束の場所で待つ。彼此かれこれ三時間が経とうとした時、彼が来た。

 時刻は十二時二十七分、地球滅亡三分前。

 彼と最後の時間を過ごせるなんて、なんて幸せなのだろう。


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 彼女は僕に会うなり、抱き着いてきた。

 なんだか気恥ずかしいが、幸福であった。

「なんで、LINEに返信してくれないの」

 そう言われ、LINEを確認する。ただ、彼女からのLINEは無かった。

「どう言う事?」と言って彼女が自身のLINEを確認するので、僕も覗き込むと、

「これ、俺じゃない」

 彼女がLINEをしていた相手は父親だった。僕はそこで、彼女の父親と僕がどうやら同じ名前らしいことを知った。

 アイコンも色味が一緒であり、見間違えても仕方ない物であった。

「あ、後二分しかない!」

 と彼女が言うのでどう言うことかを聞くと、地球の滅亡がどうのこうのと言っている。

 朝のニュースは見ていないので、ネットニュースを確認するとそんな事は載っていなかった。

「騙されたんじゃないか?」

 と僕が言うと彼女は姉に電話をかけ始めた。


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「お姉ちゃん、地球滅亡はどうなったの」

 焦りながらそう聞く。

「何言ってるの、ドラマだよ」と笑い声。

 私は元々赤くなっていた顔をさらに真っ赤に染めて、彼に謝る。

 学校は元々休みだった。

 電話が通じなかった理由は、番号が間違っていた。

 LINEは父親に送っていたし、割と恥ずかしいことを書いたので、読まれる前に消せた事は幸運だったと言える。

 なんて日だろう。

 私は勝手に最後の三分間を作り出していたわけだ。恥ずかしい事この上ない。

 それでも彼は柔らかな笑みで許してくれて、その後は先程までの危機感のお陰でいつも以上に幸福感に包まれたデートをした。

 きっとこの愛は滅亡しない。そう思えた一日であった。

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