最後の一曲

紫月 真夜

三分なんて

 ――三分なんて一瞬だ。


 いつもよりもきちんと制服を着こなして、髪も後れ毛一つ無いように整えて、ひな壇の上に等間隔に並んだ。そう、今日は卒業式。それも、自分が卒業する卒業式だ。


 開式の辞から始まり国歌斉唱、卒業証書の授与。来賓や祝電の披露、在校生送辞と卒業生答辞。時が流れるのは想像より早く、退屈だと思っていた卒業証書の授与もあっという間だった。そして、残るは校歌斉唱。これが終わると同時に私の青春は終わってしまう。


 たった三年、されど三年。この校舎で仲間と一緒に過ごした時間はとても尊くて。入学したときは人見知りで誰とも喋れなくて、休み時間は図書室の片隅で読書をしていた。けれど、みんなが距離を縮めようとしてくれて、親友が出来て、毎日が楽しくなった。それが一年生の時の思い出。

 二年生になると、クラス替えで仲の良い友だちと離れてしまったけれど、親友とは一緒のクラスになれた。文化祭や体育祭、合唱コンクールなどで少しずつ優勝と賞を目指す。後輩達の見本に、お手本になることを目標に頑張った。また、二年では修学旅行があった。残り一年もあるから早いと思っていたけれど、今考えるとちょうど良かったのかもしれない。

 三年生。この学校で過ごせる最後の年だからと行事では優勝を目指した。結局、文化祭で最優秀賞と合唱コンクールで優秀賞しか取れなかったけれど、朝練や放課後連はいい思い出だ。受験勉強で忙しくてあまり友達と遊べなかったけれど、三年生のときが一番楽しかった。


 思い出を遡っていたら、いつの間にか校歌の伴奏が聞こえてきていた。いつもよりも柔らかくて哀しげな旋律。この曲を歌うのも最後だから、全力で歌おう。そう思うと苦しくて、切なくて。いつの間にか、視界がぼやけ、声も掠れていた。映像や写真にも残るから早く涙を止めないと、可愛い後輩達もいるのだから。そう堪えようとすればするほど涙は溢れ出す。満足に歌えないまま、曲は進んでいって。なんとなくだが歌えるようになったのは、間奏が終わり最後のサビに入る直前だった。


 *


「これで卒業式を終わります」


 結局、卒業式が終わってからも涙は止まらなくて。見送られながらの退場は、恥ずかしさと嬉しさが混じりあい、変な顔になってしまっていたと思う。

 最後に撮ったクラス写真では、みんな泣いているのに無理して笑っていて、離れたくない気持ちはみんな一緒なんだなと実感した。卒業証書や卒業アルバムは、この三年間を必死に生き抜いた証。みんなとのお揃いのものだから、みんなを思い出せる。連絡先も交換してあるし、同窓会の話も既に出ている。それなのに、何を悲しがっているのか。もう会えなくなるわけでは無いのに。


 みんなが悲しい雰囲気になっているのなら、私がせめて明るくいよう。そう思い、ハンカチで涙を拭き、桜の木の前に立った。目の前を舞う花びらは薄紅色。その色を見ているだけで、幸せな気分になれる。


「みんなで一緒に歌おう。次逢う日までの約束の歌を」

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最後の一曲 紫月 真夜 @maya_Moon_

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