06 二つの事件

 今川瑛梨子の遺体が発見されてからすでに3週間ほどが経過していた。もう本年も数えるほどしかない。

 事件の進展を見出せないながらも銀河京朔ら捜査員は可能性をつぶして回った。

 捜査の手はついに最初に浮上した容疑者二名の身元周辺にまで及んだのだった。

 幸田伸作も川谷庸介も人付き合いがアクティブな方だから絞り込むのは相当苦労していた。まったくのシロと思えない限り捜査線上からその対象を下ろすわけにもいかない。

 京朔は遺族と再度面会し、情報提供を依頼した。捜査の進捗状況があまり進んでいないことを察した母親は不信感を募らせているようだった。

「時間はかかっていますが、確実に一歩ずつ進んでいます。ご家族の皆様にはご迷惑をおかけしていますが、必ず犯人逮捕に漕ぎつけます」

 このセリフを何度言ってきただろうか。毎度この言葉を繰り返し述べたところで自分たちの捜査状況が芳しくはないと言っているのと同じである。同じようなセリフを言うたびに嘘をついているような気がしてしまう。

『ムツバ製菓女史殺人事件』捜査本部と銘打たれた第三会議室のホワイトボードの前で、京朔は机上に座り事件の概要を整理していた。

 被害者が殺されたであろう死亡推定時刻に有力と思われた容疑者全員に決定的なアリバイがある。念のため裏取りに捜査員を遣わしてみるも完璧すぎるほどに証拠が揃っていた。

 香川が調べた幸田伸作の周辺は家族、会社の同僚を中心に調べ上げられていた。会社関係で言えば被害者の今川瑛梨子と重なる部分が多い。幸田には妻と小学五年生の息子がいるらしい。それは供述通りだった。

 海松が調べた川谷庸介の場合は広がる方向性は家族以外にバンドメンバーに向けられた。さらに川谷には付き合っている女性が複数人いたのだ。そのことに関して今更驚きはしない。だが、捜査上において厄介になることは簡単に想像がつく。

 それぞれに事件とは無関係ではない。どこに怨恨が宿っているかはその個人にしかわからない。

 だが、そんな中でも結華が探ったお金の流れについて、ある事実が浮上した。それは彼女が多額の借金を抱えていてもめげずに懸命に仕事に励んでこれた理由だと思われるものだった。見つかっている借金だけで800万円。そして返済に充てた金額はすでに1000万円にも及んでいた。普通の会社員がそれほどの金額を返すには何年と要するだろうが、彼女はそれを二年ほどで返済していたのだ。

 結華はある隠し口座を見つけた。それは彼女が会社以外にもどこかで働いていた確かな証拠だった。そして口座を探って見えた事実。今川瑛梨子は繁華街で水商売を副業としていたというものである。お店のオーナーによると今川が働き始めたのは二年前。それは時期的に借金が先であることは明らかだった。彼女の容姿と気立ての利く姿に多くのお客さんが付いていたそうだ。

 京朔は集められた資料を机の隅に重ね大きなあくびを漏らした。

 気づけば時刻はすでに深夜一時を回っており、会議室は京朔がいるあたりだけ蛍光灯が点いており、辺りはすでに真っ暗だった。

 もう遅いから帰ろうかと思い、コートに手をかけた時だった。机の上に開いてあった携帯電話が鳴った。こんな真夜中にだれが何の用で電話したのか興味をもって画面を覗き込んだ。

 見ず知らずの電話番号は十一桁だった。誰かのいたずら電話ではないかとも思ったが、どうも気になり相手を確かめることとした。

『……もしもし……』と不安げな女性の声が聞こえてきた。どこか聞き覚えのある声だとは思ってもなかなか思い出せない。

「はい。銀河ですが、どなたですか?」

 もしかしたら何かの事件の関係者かもしれない。それにしても消え入りそうな声だ。

『香川省三の妻です』

「え?ああ、お世話になっています」

 京朔の中でひとりの女性が浮かんだ。彼女とは数年前の結婚式披露宴で会っている。体育会系の省三に似つかわしくないほどに華奢で小動物を思わせる女性だったはずだ。それ以来会ったことはないはずだ。そんな距離感のある部下の妻からの連絡となれば事態はそれなりに深刻に違いない。

『夫が殺されかけました』

 奥さんの悲鳴にも似た声に京朔は気を失いかけた。

 駆け付けた救命センターの待合室には腰を丸めた奥さんの姿があった。彼女の膝に頭を乗せた男の子の姿も一緒だった。よく省三からは写真を見せられていたから彼のことはよく知っている。

「奥さん……」

 京朔は小さく声をかけた。

「来ていただきまして、ありがとうございます。夫がいつもお世話に……」

「いったい何があったのです?」

 周りを見ても自分たち以外に誰もいない。

「わかりません。あの人、一度うちに帰ってきた後、もう一度出かけて行きました。牛乳を買ってくるのを忘れたことを怒ったばかりに、あの人優しいから文句を言わずにスーパーに向かったんだと思います。でもいつになっても帰ってこないから心配していたんですけど、家を出て行ってから二時間後連絡を受けました。誰かに刺され救急車に運ばれたって」

 一通りの説明を終えた彼女は自分以外聞こえないほどの小さな声でブツブツと後悔を述べ始めた。夫婦喧嘩のことを後悔しているようだった。

「どうも」と何者かが奥さんの前で立ったままの京朔に背後から声をかけてきた。

 振り返ると京朔よりも一回り年下と思われる男が立っていた。その目は窪んでおり蛍光灯の陰影のせいかそれが際立って見える。

「え~。香川さんの事件を担当することとなりました、右野貴徳たかのりです」と低く抑揚のない声で自己紹介すると「よろしくお願いします」と握手を求めてきた。

「ああ、俺は」と求められた手を出して彼のように自己紹介をしようとしたのだが、男はその手を引っ込めて話し始めた。

「銀河京朔さんですよね。被害者の香川省三さんの上司と聞いております。確か今はムツバ製菓女史殺人事件を担当されている刑事さんですよね」

「そうだが、奥さんから聞いたのか?」

「いいえ、お話しはかねがねお聞きしていますとも。署内イチ部下に恵まれた上司だと」

「それはどうも。事実だからな」

 そんな話など聞いたことはないが、京朔は謙虚に受け入れることにした。

「それで、香川の事件の進捗具合は?担当警官が決まっているのだから初動はもう動いているのだろう?」

「ええ、まあ、そこそこに。後は被害者の話を聞くぐらいでしょうか」

 口調は一貫した抑揚のなさが気になった。まるで気力が奪われてしまったのではないかと疑ってしまうほどだった。それでも男の話では成果は揃っているということを仄めかしているものだった。

「犯人は捕まえたのですか⁉」

 奥さんが声を上げた。眠っていた子供が目を覚ますのではないかと思ったが、彼は大人たちのことなど気にすることなくスヤスヤと深い眠りに就いたまま起きる気配はない。

「犯人かは断定できないですが、それらしき人物は確保しています」

「あの人にいったい何があったのですか?」

「それがわかるのはご主人が回復された後のようです。被害者以外何があったかを知る者はいませんので」

 不思議な言い方をする右野が意味するところを京朔は悟った。

「被疑者に何があった?」

「残念ながら」とだけ述べた。その口調がなぜか不吉なもののように聞こえてしまう。

 まさかと悪い予感が胸に立ち込めた。それは奥さんも同じだっただろう。そんな空気に耐えられなくなったのだろう、右野は「また来ます」と残すと帰って行った。

 その背中を見て京朔は呟いた。

「大丈夫。あいつは刺されたケガ程度では死なない。妻と子供を残していくようなバカな男じゃない」

 彼女は小さく頷いた。

 それから間もなく、『手術中』の赤いランプが消えた。そして執刀医と看護師数名が現れた。

 根拠のない不吉が二人を包んだままだった。

「すぐにでも目を覚ますでしょう」

 医師の報告に二人は胸を撫でおろしたのは言うまでもない。目覚めた子供に奥さんは抱きついて喜んでいた。


「香川さんですかって、突然質問されたからそうだけど誰だって聞きました。そしたら彼は手にした出刃包丁を振り下ろしてきました」と語る香川の手が震えていた。

 香川は翌日のお昼過ぎに目を覚ました。傷はあと少し深ければ致命傷は免れなかったと医師が話してくれたらしい。奥さんの安心した様子の声に電話先で聞いていた京朔も安堵した。

 事件から二日後の午後、聞き取り調査が行われた。そこで香川は右野に質問されながら言葉を紡いだ。その様子を京朔は横で見ていた。

「つまり犯人とは認識がないということですか?」

「はい。始めは何かの事件捜査でお世話になった誰かかと思いましたが、やっぱり心当たりはありません」

「その犯人はこの中にいますか?」

 右野は十枚ほどの胸から上の写真をベッドのテーブルに並べ始めた。様々な男たちの写真だが、どれも青年や少年と表現できるほどに若い。

「確か……この彼です。暗くて街灯がない暗がりだったからよくは見えなかったですけど、顔の感じはこんなだったはず」

 香川が示したのは七枚目に並べた写真だった。見た目はやはり高校生ぐらいで、年頃の女性にモテそうな容姿をしていた。

 答えた香川に対して宇野はさしたる反応を見せなかった。「そうですか」とだけ言って淡々と写真を回収した。

「犯人は他に何か言っていませんでしたか?」

「いいえ、何も。相手は俺を確認だけすると襲いかかってきました。何が目的か何度も聞きましたが相手はそれに答えようとはしませんでした。ただ無言に包丁を振り回しました」

「なるほど……」と相槌を打っていた右野の目つきが急に変わった。その殺気のようなものはそばで聞いていた京朔には空気が変わったように感じられた。

「包丁を振り回す犯人に対してあなたは何をしましたか?」

「それはどういう意味ですか?俺はとっさに抵抗できずこのザマです。参ったものですよ。これぐらいで病院送りになるなんて精進が足りなかったと反省するばかりです」

 香川は刺されケガを負った左わき腹や腕の傷を目線だけで示した。

 そんな香川の気さくな回答に相変わらず抑揚のない低い声で右野は言うのだった。

「いや~、確かに大きなケガをされたみたいですけど相手の少年は亡くなっていますんでね。ある疑問が残るんですよ。お互い警察だからわかると思いますけど、疑問点を放っておくことはできないでしょう」

「待ってください。俺は一方的に男に襲われただけで、反撃は一切していません。正当防衛すら余裕はありませんでした」

 香川はあまりのことに傷口に障った仕草が無意識に出ていたが、気にしていられないといわんばかりに反論した。

 だが右野の抑揚は変わらない。

「つまりあなたは被害者というスタンスの主張を辞めないわけだ」

「ちょっと待ってくれ。香川は被害者だ。まるでこいつが殺したみたいな取り調べになっているじゃないか」

 京朔はただ傍観しているという約束を破り、口を挟まずにはいられなかった。

 そんな京朔を横に右野は頭を掻きながら面倒くさそうに話し始めた。

「ですがね~実際に少年は亡くなりました。それも自ら持っていた出刃包丁です。鑑識に回して調べてみたのですがね~、少年の指紋以外に別の何物かの指紋が検出されまして、指紋を調べてみた結果、香川省三さん、あなたのものと一致したんです。不思議じゃないですか。だってどう考えても包丁に指紋が付くということはそれを使ったということでしょう。それ以外にどんな解釈ができるんですか?」

「そんなはずはない。鑑識結果が間違っているんだ」

「どうでしょうか」と右野はファイルから数枚連なった書類を取り出した。そしてそれを本人に直接手渡した。それは鑑定書の原本であった。

 香川は一読したあとその紙の束を投げつけると、痛そうに傷口を抱えながら横になった。京朔は気になりその書類を寄せ集めその中を確認した。指紋鑑定の結果は間違いなく香川のモノであることを証明したものだった。

 こればかりは京朔には反論の余地が浮かばない。だとしても香川省三という男が嘘をついているとも思えない。

「正直に申される方が懸命ですよ。正当防衛をして彼を殺してしまったのでしたら、情状の余地があることはご自分でもご存じのはず」

 右野の言葉に香川は口をつぐんだ。

 沈黙を回答と見ると右野はさらに歪曲した推理を述べ出した。

「正直、私の見解としては正当防衛というのも違うと思うのですよ。あなたは致命傷一歩手前だったとしてもこうして生き延びた。一方相手の少年は胸を一突きと首元に大きな傷がありました。これではどうも正当防衛というよりは意図的に少年を殺めようとしたとしか思えません。そう考えると、どうでしょうか、こんな推測が立つのです。あなたは自身で出刃包丁たる凶器を用意した。そして事件現場となったスーパーマーケットの駐車場に少年を呼び出した。そして少年を殺害。自分もまた腕と脇にケガを自ら付け、少年の犯行に装う事件を作り出したのです」

「ひどい言いがかりだ。香川が少年を殺したなど本気で思っているのか?」

「まあ、今はまだ可能性の一つです」と右野は京朔に手を差し出した。それは鑑定書を返してくれという意思表示だった。

 右野は鑑定書を受け取ると帰り支度を始めた。

「あの少年とは何の接点も認識もありません。動機はわかりませんが相手も俺のことを尋ねてから犯行に及んだほどです。彼はいったい何者なんですか?」と香川は首だけを上げて訴えた。否定しないとさらに立場が危うくなりかねない。傷口が痛むのか顔に苦痛の表情が宿っていた。

「まあ、参考までに心に留めておきましょう。それでは」

 最後は一度も二人の方を向きもしなかった。右野貴徳は厚手のコートを羽織ると中折れ帽をかぶり、影をゆっくりと残しながら病室を出て行った。それが京朔の目には不気味な空気を纏っているように見えたのだった。


 香川省三の事件に続いたかのように2日後、新たな事件が発生した。朝食に菓子パンを頬ばっていた時だった。それは三田珪馬からの連絡だった。

「警部。こちらです」と三田が待ち望んでいたかのように案内をした。

「いったい何があった?巻き込まれたとか言うなよ」と、それは冗談のつもりで言ったわけではない。香川の件があって以来、何が起こるかわからないという不安がどうにもぬぐえない。

「いいえ、第一報が俺に来ただけです。そして真偽のほどを確かめようと駆け付けたところ、救急車に搬送されるところでした」

 そして案内された部屋は亡くなった被害者の部屋だった。壁には海外のバンドのポスター、本棚には漫画本、テレビとゲーム機、机の上にはノートパソコンが供え置かれていた。亡くなった少年は高校生ぐらいと聞いていたが、この年で自分専用のパソコンを保有しているというのは結構いい生活をしていたのかもしれない。

「亡くなったのは須藤欣悟、一七歳。県立西宮高校に通う二年生です」

 事件当夜コンビニの防犯カメラに映っていた黒のワゴン車の持ち主、須藤朝輝は製薬会社に勤める会社員。隣の地区に一軒家を構えており、それなりに業績が良い社員で会社からの評価も高いそうだ。本件の『ムツバ製菓女史殺人事件』の被害者今川瑛梨子との接点を探ってみても何も出てこなかった。須藤朝輝の勤める製薬会社とムツバ製菓の間に商談関係があった記録はなく、今川が会社に内緒で働いていた水商売にも関わっていなかった。

 つまり須藤朝輝は照合した車の件だけで捜査線上に浮上した人物であった。そしてその一人息子が亡くなったわけだ。

「死因は?」

「カーテンのレールに紐を括りつけてそこから首を吊るし、意識を失った息子さんを母親が発見したようです。その時にはすでに呼吸はしていなかったそうです」

 三田は手帳を広げて説明した。短い時間のうちに彼なりに関係者から事情を聴いて回ったのだろう。

「先ほど警部に連絡をする直前に息子さんの死亡が確認されました。現在ご両親は病院におります。状況から自殺の線は濃厚ではありますが、ご両親ともに自殺する理由はなかったと話しております。こればかりは本人の感情の部分が大きいのですが、翌日の学校の準備を終えており、命を絶つような予兆とみられるものは一切なかったと」

 京朔はカーテンレールに今も掛かっているロープを手に取って見た。途中の切り口は繊維が粗く、ここから切り落としたことがわかる。そして真下の敷布団には吐しゃ物で汚れた跡があった。

「自殺の予兆のない子供が亡くなったわけか……」

 京朔は呟きながら窓辺を探った。

「さらにこれは父親からの証言なんですけど、朝出かける時に玄関に異変を感じたそうです。玄関の施錠がなされていなかったそうで心なしか揃えられていたはずの靴が少し乱れていたと感じたそうです」

「つまり、両親ともに息子の死は自殺ではなく他殺とみているわけか」

 一通り窓の周辺を見て回ったがこれといった異変は見つからなかった。カーテンは遮光カーテンのように厚く、ロープはおそらく安物のどこにでもあるものだった。

「発見時刻は?」

「父親は朝七時に家を出て、母親は起きてこない息子に声をかけたのはその三十分後の事。さらに母親が出かける八時に部屋を覘いたところ異変に気が付きすぐに救急に通報。俺が呼ばれたのはそのころで、父親からの通報でした。俺たちが追っている事件との関連性を想像したそうなのです」

 関連性という言葉に京朔は頭を抱えた。接点がない中でも捜査上に浮上した男の息子の死はどれほどの関連性があるのかはっきりとした尺度がない。遠いと思われる事象もどこかで因果は巡っているかもしれないのだ。

 それでは今回の場合はどうであろう?ムツバ製菓の会社員今川瑛梨子が殺された事件。見方によっては無差別犯による強姦事件からの殺人事件かもしれない。その捜査上に浮かび上がった容疑者の息子が亡くなった。それも偶然にも玄関のカギは施錠されていないことや、自殺の予兆もなかったというらしい。今川瑛梨子の事件と今回の高校生の死の関連性をどう見るかで解決の糸口は変わってくる気がするのだ。そして違和感のように胸に残るのはある疑惑。

「警部、根拠はありませんが、この事件は父親が主張したように高架下で見つかった殺人事件と関連性があるように思えるのですが」

「奇遇だ。俺もなぜかはわからないが、直感的にそう思った。さらに言えば香川の事件も絡んでいる気がしてならない」

 京朔はポケットに手を突っ込んで部屋を抜けて階段を降りた。

「香川さんの事件ですか?」

 三田は従者のように京朔の後に付くと聞いた。

「だから俺にもわからない。だが共通点はある」

 二人は玄関を抜けると外に出た。寒空に枯れ葉が舞い散り、もうすぐ真冬の訪れを予感させた。雪が降り始めるのはそろそろだろう。

「なあ」と京朔は鑑識の一人に声をかけた。そこ声に一人の鑑識官が立ち止まった。

「携帯電話やパソコンは調べるか?」

「自殺に関連がありそうなら調べますが、親の許可がいるでしょうね」

「許可なら取れるだろうさ。回収だけ頼むよ」

 鑑識官は返事をすると急いで家の中に駆け込んでいった。他にもぞろぞろと捜査官の出入りがありそうだった。自殺として処理されればそれまでだし、京朔らの件と関連がないとなっても管轄外の捜査になるだろう。

 京朔は訪れた捜査官たちに挨拶を交わしながらマイカーに乗り込んだ。そして助手席の資料を漁り、目的の資料を手に取って見た。

『速水佐敏』それが香川を巻き込んだ事件の死亡者の名前である。

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