最後の3分間

空音ココロ

きみとぼくの今昔物語

 パン、パン、はい!

「はくさい」

 パン、パン、はい!

「はちみつ」

 パン、パン、はい!

「ハンバーガー」


 手を叩く音とそれに続いて単語を順番に言っている。

 古今東西ゲーム、山手線ゲームとも呼ばれるお題に添って順番に答えていくだけのこのゲームは暇つぶしに持ってこい、道具は要らない、最近じゃ脳トレにも良いのでご老体にもいかがでしょうか……? なんて話はさておき、今行われているのは各チームの願いが込められたサバイバルバトルである。

 西曜日の5時間目の自由時間は何をするか決める

 略して古今東西デスバトルが5年4組の教室で行われていた。現在のお題は「は」のつく食べ物。


 ちなみに先生が急に言い出したので今が水曜の5時間目。

 結局のところ勝敗を決めるために古今東西をやりだして「全然結果がでない」& 「面白くなってローカルルールが追加」されていった結果水曜の5時間目は残り3分となってしまっていた。

 もはや何かをするというよりは各チームのプライドをかけた戦いになってしまっている。先生としては校庭、体育館を使うだの微妙な手続きをするのが面倒なので教室内でことが収まることになってラッキー、といった気持ちをぐっとこらえて表には出さず生徒を温かい目で見つめているだけであった。


 追加されていったローカルルールはいろいろある。

①1分以上続いた場合は1分経った時点で回答権を持っていた人の負けになり残念な称号ポイントが追加される。

 回転が速くないと面白くないので1分で毎回お題を変えることにした。ということだが回転早すぎだろ。という突っ込みは入れずに黙って見ておくことにする。

②リズムは自由に変えてもいい

 パン、パン、はい!

 パパパン、パン、はい!

 それは古今東西としてどうなんだ? と思うがそれっぽいリズムを言っていればいいらしい。小学生らしいゆるゆるルールだ。

③お題はあらかじめ紙に書いてボックスに入れる。負けた人が引いてスタートする。

 とんでもないお題が入っていないことを祈る。

④残念な称号ポイントが一番少ないチームが勝利して時間の使い方を選択できる。


 さて、視点をデスバトルに戻すと京谷君がリズムを乱されたせいか上手く答えられなかった様だ。


 パパパン、パンパン、はい!

「歯磨き粉」


 その瞬間に一斉に同じ言葉が教室に響き渡る。

「アウト―!」

「いやいや、歯磨き粉にイチゴ味とかあるじゃん」

「京谷、そういうならイチゴ味の歯磨き粉食えよ」

「う、うぅぅ……ぐはぁ。だっ駄目だ、俺にイチゴ味の歯磨き粉はくえねぇ」


 京谷君は歯磨き粉を食べるふりをするも口に手を当てて食べられなかった演技をしながら床に突っ伏した。


 残り2分。

 次が最後の勝負になるだろう。すでに残念ポイントの溜まり過ぎた京谷君チームは自ら引いたようだ。京谷君自体がまだ床に転がっているのでみんな放置していると言った方が正しいのかもしれない。

 高鬼がしたい芳香さんチーム、サッカーをしたい聡美君チームの一騎打ちになった。

 

 さて最後のお題は何になるのか京谷君の代わりに京谷君チームの亮太君がボックスから紙を取り出した。

 今までに「学校の先生の名前」「昆虫の名前」「サッカー選手の名前」「妖怪ゲームのキャラ名」など身近にあるものだった。

 単純だなぁと思っていたら最後のお題は少し捻りがきいている。今までに比べれば最後に相応しいのかもしれない、よく今まで出なかったと思う。


「最後は同じ文字が2回入る動物、ってなんだこれ?」

「同じ文字が2回入るって、ほらオオカミとかオが2回入るでしょ」

「うわっ、これ芳香がいれたのかよ」

「うわって何よ、どーせ亮太君は答えないんだから関係無いでしょ」

「そーよ、そーよ」


 芳香さんが問題を入れた様だ。亮太君が嫌そうな顔をすると芳香さんチームの加奈さんがシッシッと亮太君を追いやる。負けが込んでいるせいもあってか亮太君弱腰だ。


「お願い芳香!」

「聡美負けるんじゃねぇぞ!」


 それぞれのチームから選手へ声援が送られる。両者見合ったところで亮太君からストップウォッチも取り上げた加奈さんが始めの合図をした。


「オオカミ」

 パン、パン、はい!

「シマウマ」

 パパパン、パン、はい!

「モモンガ」

 パパパン、パンパン、はい!

「ムササビ」

 パン、パパン、はい!

「アジアゾウ」

 パンパン、パンパン、はい!


 初手はさっき例を言った芳香さん。まぁ自分で言ったことなら文句は出ないか。

 同じ言葉が入った動物か。先生、思いつかないぞ。

 二人ともぱっとでて凄いな。頭が柔らかいんだな。


「イノシシ」

 パパン、パンパン、はい!

「チンパンジー」

 パパン、パパン、はい!

「ジャイアントパンダ」

 パン、はい!

「キタキツネ」

 パンパパン、パンパン、はい!


 すごい、二人とも続いている。

 必死に考えて答えを探している。聡美君が手拍子を一回だけにして即効返しをしたが芳香さんは軽くかわした様だ。なかなかやる。

 動物の名前が頭の中を駆け巡っていることだろう。二人ともそんなに動物好きだったのかな? そうじゃなきゃすぐ出てこないよね、って思ったけど今のところ良く知ってるような動物ばっかか。意外にお題簡単なのか?


 ただここで芳香さんの罠が発動した。

「オランウータン」

 パパン、パパン、はい!

 最後の「はい」と言うのと同時に頭に手を置いてぴょこぴょことウサギの耳のマネをした。

「ウサミミ」

 パン、パン、はい!


「ブー! ウサミミは動物じゃないでしょ。簡単に引っ掛かっちゃうんだから」

「うわぁー! 卑怯だ」

「そっちだって即効返ししたじゃない」

「そーよ、そーよ」


 芳香さんは椅子から立ち上がって嬉しそうにチームの人とハイタッチしている。

 反対に聡美君はチームメンバーにごめんと手を合わせて謝っていた。

 まぁ勝敗はついたところで残り時間はもう0分となっているのでこの試合はここで終わりだろう。


「さーて、自由時間はこれで終わりなー。次の授業するから休み時間の間にちゃんと準備しておけよー」

「えー! 先生酷い」

「そうだー! 決めるのと自由時間は別物だー」


 いろいろ批難が飛んでいるがさっさと部屋を出て次の理科の授業をするためにテキストを取りに行った。



 さて、話は変わってここはデスバトルの後、何年も後の話。


「という話があったよね? きみは覚えてる?」

「んー、どうだったかなぁ」

「ほらほら、もう後3分でタイムリミットだよ」

「んー。僕は芳香さんが最後何やったせいで引っ掛かったんだっけ?」

「えー? 覚えてないの?」

「薄っすら覚えてるんだけど、ちょっともう一回やってみてくんない?」

「駄目、タイムオーバーになったらやってあげてもいいよ」


 何年も経ってから昔のことを引っ張り出して覚えてるか覚えていないか問いただす芳香さん。そして首をかしげる聡美君。

 どうやらあと3分以内に思い出さないと次のどら焼きの日は聡美君が手作りすることになるらしい。聡美君としてはこんなことしなくても作るのにと思っていることだろう。

 ちなみにどら焼きの日は二人の間で決めたものであるからして、読んでいる人にとってはどうでもいいことである(天の声)


「んー」

「私のことそんなに見たって思い出せないわよ」

「いや、ここまで出てるんだよ、ほら手がさ頭の上に乗せてさ、それでなんだっけなー」


 本当は聡美君は分かっているのである。

 ただもう一回やって欲しいので3分がただ過ぎるのを待っていた。


「ブー、時間切れでした。本当に覚えてないの?」

「やってくれたら思い出せると思うんだけどなぁ」

「まったく、きみは仕方がないなぁ」


 芳香さんが頭に上に手をのせてぴょこぴょことうさぎの物まねをする。


「うさみみだ、うん思い出した。今見てもかわいいなぁ」

「え? 今見てもって、ちょっと覚えてたんでしょ! もう!」


 ご立腹な芳香さんとは別に、聡美君はうさみみが見れてとても嬉しそうだ。

 小学生の聡美君は負けて項垂れはしていたものの、特等席でうさみみを見て芳香さん可愛いで頭の中はいっぱいになっていた。

 今も昔も3分経った後には聡美君は幸せになっていた。

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