たしかなこと

真白 悟

第1話

 地球が後何分だかで終わると言われたらどうするか。

 終わりまでの時間は違えど、長い人生の中で誰もが一度はディスカッションしたことだろう。意味がない討論だと思う人もいるかもしれない。

 しかし、実質はそうじゃない。誰にでも必ず訪れる重要なことだ。この言い回しでは気がつけない。

 だから僕が出した課題はこうだ。


『人生が終わるまで後3分しかないとするならどうするか?』


――これは、誰しもがいつかは直面する課題だ。


 そんな課題だからこそ、生徒たちはより深く考えなければならない。

「私なら、最後は大切な人と一緒にいたいかな……」


 一人の女生徒が口を開く。

 彼女の意見は一番多数派のものだろう。誰だって真っ先にそう思う。


「それは……難しいんじゃないかな?人生最後っていうのがどんな状況かわからないし……たった3分じゃなにもできないしね」


 反対意見を出したのは、最初に発言した女生徒の恋人だ。

 付き合いは長いらしいが、僕もそこのところはよく知らない。


「だけど、そんなこと言い始めたら、何もできないよ?たった3分なんだから……」

「そうだよ!もっと自由に考えなくちゃ。ブレーンストーミングだよ」


 友達同士で参加している二人の女の子達がそう提案する。

 流石大学生といったところか、覚えたての言葉を使いたがるお年頃らしい。

 このままでは、意見がとっちらかってしまうだろう。


「今回の題目を考えてもみなよ。3分で出来ることは限られているんだ……やりたいことを全部書き出してる余裕なんてないよ」


 グループ内で一番優秀な男性が指摘した。

 ちょうど、そのタイミングでベルが鳴った。今ちょうど議論が始まって3分が経過したということだ。


「はい、そこまで!」


 僕は椅子から立ち上がり、終わりを告げる。


「3分がどれほど短いかは実感できましたか?いまのが本当に最後の3分だとするなら、きっとみなさんは後悔することでしょう……ですが、それが現実です。最後だろうと、なんだろうと3分は3分です」


 もともと、3分で出来ることなんて限られている。

 生徒達がいくら消化不良な顔をしたところで、3分で議論など出来るはずがない。

 だからこそ、議論などに大それた意味などない。特に大人数だと、自分の意見を言える時間も限られてしまう。


「だからこそ、最後の3分になっても、後悔しないように常々人生について考えて下さい。それがいつか役に立つでしょう。――それでは、今回の講義を終わりとさせて頂きます。出席カードに感想を書いて提出した下さい」


 僕の言葉を皮切りに、生徒達が立ち上がり、カードを提出して教室から出て行く。

 その中で、一人だけ僕の前で止まる生徒がいた。最初に意見を述べた女生徒だ。


「先生、最後の3分はどうしたら後悔しないように出来るんですか?」


 彼女は不安そうに僕に尋ねた。

 僕は非常に困ってしまった。なぜなら、後悔しないことなんてありえないからだ。

 しかし、教鞭をとる者として、答えを出さないわけにはいかない。


「それは、これから自分で見つけるんですよ」


 僕はえも言えぬ気持ち悪さを抱きながら、そんな無責任なことを言う。

 それで、彼女は満足気に去っていくのだが、きっといつか僕のことを恨むようになるのだろう。

――問題を先送りにすることに意味などないと気がついていながらも、最後の3分を先送りにして。

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たしかなこと 真白 悟 @siro0830

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