ルール違反
真己
第1話
バシャバシャシャ
車が校門の前を通る。ウィンカーを何回も動かしていた。
「困りましたね」
眼鏡をかけた7:3わけの男子生徒が呟く。
30分前から降り始め、どんどん勢いをつけていく雨のせいで、彼は玄関から動けずにいた。天気予報を大きく裏切る天気模様だ。
彼は柳誠一(やなぎ せいいち)、性格は彼自身を見るだけで分かるが、付け加えるのなら生徒会に籍を置くに値する人物ということだろう。
今も生徒会の書類の入った紙袋を地面に置かない。
柳も困り果て、諦め帰ろうとしていた時だった。
コツコツコツ、ギィーーー
雨音以外も音がし、ドアが開く。
そこには、黒より薄いグレーの髪の女子生徒が現れた。
ほんの少しだけ驚いたような顔をした後すぐに、目を細める。
「田谷さん、こんな時間まで何をしているのですか。下校時間は過ぎていますよ」
彼女は、クラスメートだった。
『本の整理があったんよ。そやったら、あんたも同じやろう』
すぐに反論が返ってきた。折だたみ傘を持っている手がかすかにふるえている。しかし、すぐに収まった。
「た、確かにそうですね」
柳は苦笑いを浮かべた。
普段から猫のような田谷の目がさらに細くなる。そして視線を外に向けた。
『帰らへんの』
そのかなり低い声で言われてしまうと、急いで帰りたくなる。
「はい、今から帰ります」
そう言うと、上着を脱ぎだす。
『ちょ、ちょい待ち』
驚いたように止まる彼。
『あんた、バカなん』
彼に向かって折りだたみ傘が投げられる。「待ってください、田谷さん。あなたの傘は、」
『うちんのは教室じゃ』
来た時と同じようにコツコツと音を立てながら教室まで歩く。
『あ、勘違いせんといてな。それ貸したんは、あんたが休んだらハルが困るかからやで』
一瞬だけ止まった足が再び動きだし、それが止まることはなかった。
彼女が言ったハルとは、柳の部活仲間でもある、彼女の幼なじみだ。大会が近づくなか、風邪でも引けば困ったことになるのは目に見えている。
「真鍋君……ですか……」
彼は傘を差し返っていった。
【昨日の雨が嘘のような晴天です。一日中この天気が続くので洗濯物がよく乾くでしょう。最高気温は、】
スマホを柳の手が奪う。
「やなぎー、それ返してー」
「風紀委員兼生徒会委員の前でよくできますね」
「返してくれんとハルくん泣くよ」
しっかりと電源の切られたスマホが真鍋の手に戻る。
「なんか用でもあるの?」
「良く分かりましたね。実は田谷さんのこ、」
「田谷ー?」
あからさまに疑問系。
「田谷さんに会いたいのですが、何処にいらしゃるかわかりますか」
「今の時間なら屋上じゃないかのう」
「ありがとうございます」
一礼すると、教室の外へ。
「あっ、……俺も聞いて欲しいことがあるんだけどねー?
昨日、田谷がねー、ずぶぬれで家にきたんだよ。あいつは傘置いちょるはずなのになー。
あ、行ってよか、すまんのう」
彼は「では」と短い一言を言うと屋上へ向かう。
真鍋はテレビをまた見るのかスマホの電源を付けた。
彼は屋上のドアを音を立てないように開ける。
声が聞こえる。
『別にそんなんじゃなかとよ。ただ困っしょるようだったからや。貸しただけや、珍しいやと、確かにそやけど・・・気まぐれじゃ』
彼は話の途中だと思い去ろうとするが彼女が発した言葉で動きが止まった。
『好きってことはわかってるが。わかっちょるやろうハル。なんやて、素直になれって……無理やって。まず、釣り合わへんは
無愛想なうちと柳くんは・・・」
コン
『えっ、なんで柳くん。ハル! 仕組んだんやな、どないしてくれるん。ルール違反やろ、黙っとけって念押ししたんに!! あ、切れちょる……』
普段で見えないぐらい焦る悠。
「すいません、盗み聞きするつもりは……。先日はありがとうございました。これ傘です」
『わざわざども・・・じゃあ』
彼の横を通りすぎようとする悠。
しかし、
『柳くん、離してくれんか』
彼が腕を掴んだことで失敗した。
「さきほど件なんですか・・・」
悠の視線が彷徨う。
「……次は晴れの日に何処かに出かけましょう」
『えっ、それどういうこと……?』
「それが私の答えです」
ゆっくり顔が赤くなっている悠
「悠さんと呼ばせていただいてもよろしいですか」
悠はコクッと頷くとドアを乱暴に開け、走っていった。
「両思いだったなんて……」
ホッとしたように呟く柳とメールを受信したスマホだけが
音をだす。
メールの相手は真鍋だった。
真面目な相方達のために、ルールを飛び越えて一直線にゴールインさせてしまったのでした。
ルール違反 真己 @green-eyed-monster
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