負の遺伝 一
首尾よく落ち合うと、以前とおなじく裏にある洗濯場に向かう。そこなら万が一杉かシスターが本館から向かってきたとしても目に入らない。
「でも、よくばれずにここまで来れたわね。前のときもそうだったけれど、どうやって敷地内に入って来たの?」
「秘密の場所があってね。そこ死角になっていて、どうにか隙をついて入ってきたんだ」
「え? そんな場所があるの? どこ、どこ?」
いざというとき、そこから逃げ出せるのではと思って訊いてみると、司城は苦笑いして首を振った。
「君には無理だよ」
「無理でも、教えてくれるだけ教えてよ?」
「いやー、女の子には無理だから」
高い塀だろうか。気にはなったが、美波はとにかく今は先日入手した情報を告げた。
「妹さんのことなんだけれど……」
口早に盗み聞きしたシスター・アグネスと杉の話の内容を伝える。
司城の顔に苦悶がにじむ。話を聞き終えると、苦いものを飲みこんだように苦しげな顔になった。
「やっぱり、妹は殺されたんだな。いくら彩花自身が飛び降りたからといって、そこまで追い詰めたのは連中だ」
「わたしが証人になるわ。夕子だっていっしょに聞いていたんだし。警察に行こう」
「……それだけじゃ駄目だ」
司城は忌々しげに首を振る。
「女の子二人の証言だけじゃ不足だ。せいぜい、学院に不満のある女生徒のたわごとでかたづけられてしまう」
「そんな……」
意気込んで何か言おうとする美波を司城は辛そうな目で見下ろした。
「君には想像もつかないだろうが、この学院のバックには国際的な巨大組織がついているんだ。だからこそ、半世紀以上にもわたって大勢の女性たちの人生を調べ続ける、なんてとんでもない面倒なことが出来るんだよ」
話はどんどんとんでもない方向に向かっていっており、ときどき美波は呆然としそうになる。
「……でも、調べて、それをどうするの?」
そのことはずっと美波にとって疑問だった。
司城は一瞬、唇を噛んだ。言うかどうか迷っているような顔だ。
「もうここまで知ったんだから説明しておいた方がいいだろう。この学院の創始者であるジョナサン神父のパートナーであり、ともにこの学院の運営を助けたオブライエン博士は、遺伝学のエキスパートだった。ジョナサン神父は堕落した女性の救済が目的だが――それも俺に言わせたらかなりエゴイスティックな言い分だと思うけれどね――、オブライエン博士は、集められた女性たちの負の遺伝を調べるのが目的だった」
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