「なんとか財団ていうのが後ろについていて、その調査のために莫大なお金をつぎこんでいるんだって。以前、この学院の勧誘のためにうちに来た学院の人もその組織の人みたい」

「で、でも、私にこの学院をすすめてくれたのは、パパよ。パパは関係ないじゃない」

「関係なくないって。あんたのパパは、以前にもこの学院へ女の子を連れて来たんだって。どういう経緯いきさつからか、前からこの学院の秘密や事情を知っていて、だからこそ、あんたをここへ連れて来たんだよ、多分」

 夕子は一瞬、口を止めてから話した。

「うまく処置してもらうために……。もしかしたら、中絶したくない女性をまるめこんで中絶させられる場所っていうことで裏で知られているのかもね」

 美波も雪葉もぽかんとした顔になってしまう。

 話は非現実的だが、思えば最初からこの学院自体が非現実的な存在なのだ。

「何で、パパがそこまでするのよ? こんなことしなくても、私が産むのが嫌ならそう言えば……」

 雪葉の顔はいまだ半信半疑だ。夕子は腕を組んだ。

「それで、あんた納得する? あっさり堕ろした? 言ったらなんだけれど、相手はけっこう金持ちだし地位もある人なんでしょ? あんたもあんたのお母さんも、ここぞとばかりにごねて、相当のものを引き出そうとするんじゃない?」

「……」 雪葉は唇を噛む。おそらくは、そうしたのだろう。

「だからそうならないように、後々のちのち、あんたに恨まれたり、あんたの母親にゆすられたりしないためじゃない? 自分の地位や立場を守るためにね。まったくの偶然なんだろうけれど、そうやって連れてきたあんたは、もともとこの学院に関係があって、そういう事情からマークされていたんだよ。これって特殊なケースらしくて、あんたはシスターたちから最初からけっこう注目されていたらしいよ」

「……」

 雪葉はむっつりとした顔をし、美波も驚きっぱなしだ。あまりの異常性に、普通なら到底信じられないが、ここで経験したことを考えると、信じるしかない。ただやはり美波は気になった。

「で、でも、なんで、夕子そんなこと知っているの?」

「教えてくれた人がいるのよ。雪葉のケースは非常に特殊なんだって」

「誰なの、教えてくれた人って?」

 よもや司城かと思ったが、夕子の返事はまったく違っていた。

「パトリック……守衛よ。最初のとき会ったでしょ?」

 そこで夕子は視線をそらす。

「あ、ああ……」

 美波は拍子抜けした。そういえば、最初にこの学院に来たとき門のところに長身の守衛がおり、二言、三言言葉を交わした。顔はろくに見ていなかったが。

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