「全部、本当のことよ。このことはもう美波だって知っているのよ」

「いったい何言っているのよ、あんたたち……?」

 雪葉は夕子を睨みつけ、つづいて美波を睨んだ。

「逃げるのよ」 夕子は力強く言う。

「このままだったら、あんたのお腹の子は殺されてしまうわ。あたしたちだって、これ以上モルモットみたいにされるのはご免よ。逃げ出すのよ」

 真剣そのものの夕子の顔に雪葉は圧倒されつつある。

「なんなの……? いったい何があったのよ?」


 最初は疑っていた雪葉だが、美波と夕子の説明と説得によって、次第に二人の言い分を信じはじめた。

 胸は痛んだが、美波は本館の舎監室で見た雪葉のファイルの内容を告げた。雪葉はますます青ざめ、怒りつつも、最後には二人の言い分を信じた。いや、信じざるを得なかったのだろう。

「まぁ、うちはママもママだし……。お祖母ちゃんが芸者だったっていうのも聞いていたけれど……、ひいお祖母ちゃんまでもがプロの娼婦だったとはね……」

 雪葉の表情は複雑だ。そんな家系の秘部を知られてしまったことに対する羞恥と屈辱が、さすがにいくらかは混ざっているのかもしれない。

「言っておくけれど、あんただけじゃなくて、この別館に集められた生徒のほとんどは、過去にはお祖母ちゃんやひいお祖母ちゃんが、そういう職業についていて、それで、当時は『マグダレン・ホーム』って呼ばれていたこの学院で子ども生んだ……その子孫なんだって。うちだってそうよ」

 夕子の説明に雪葉は疑問を口にする。

「……でも、なんで、わざわざそうやって集められたわけ?」

 夕子が溜息を吐いて説明する。

「追跡調査っていうやつなんだって。昔、『マグダレン・ホーム』で生まれた堕落した女たちの子どもがどうなったか、その孫やひ孫がどうなったか、それをずっと調べてレポート取ってるんだってさ」

 これには美波も目を見張った。

「でも、そんなことしていたら、すごい時間や人手がいるんじゃない? どうやって調べるのよ?」

 思わずそう訊くと、夕子はさらに説明する。

「組織の人間が動くこともあるし、探偵とかも使っていたみたい」

「そ、組織?」 

 話の意外さに美波は仰天し、雪葉も呆然としている。

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