五
「全部、本当のことよ。このことはもう美波だって知っているのよ」
「いったい何言っているのよ、あんたたち……?」
雪葉は夕子を睨みつけ、つづいて美波を睨んだ。
「逃げるのよ」 夕子は力強く言う。
「このままだったら、あんたのお腹の子は殺されてしまうわ。あたしたちだって、これ以上モルモットみたいにされるのはご免よ。逃げ出すのよ」
真剣そのものの夕子の顔に雪葉は圧倒されつつある。
「なんなの……? いったい何があったのよ?」
最初は疑っていた雪葉だが、美波と夕子の説明と説得によって、次第に二人の言い分を信じはじめた。
胸は痛んだが、美波は本館の舎監室で見た雪葉のファイルの内容を告げた。雪葉はますます青ざめ、怒りつつも、最後には二人の言い分を信じた。いや、信じざるを得なかったのだろう。
「まぁ、うちはママもママだし……。お祖母ちゃんが芸者だったっていうのも聞いていたけれど……、ひいお祖母ちゃんまでもがプロの娼婦だったとはね……」
雪葉の表情は複雑だ。そんな家系の秘部を知られてしまったことに対する羞恥と屈辱が、さすがにいくらかは混ざっているのかもしれない。
「言っておくけれど、あんただけじゃなくて、この別館に集められた生徒のほとんどは、過去にはお祖母ちゃんやひいお祖母ちゃんが、そういう職業についていて、それで、当時は『マグダレン・ホーム』って呼ばれていたこの学院で子ども生んだ……その子孫なんだって。うちだってそうよ」
夕子の説明に雪葉は疑問を口にする。
「……でも、なんで、わざわざそうやって集められたわけ?」
夕子が溜息を吐いて説明する。
「追跡調査っていうやつなんだって。昔、『マグダレン・ホーム』で生まれた堕落した女たちの子どもがどうなったか、その孫やひ孫がどうなったか、それをずっと調べてレポート取ってるんだってさ」
これには美波も目を見張った。
「でも、そんなことしていたら、すごい時間や人手がいるんじゃない? どうやって調べるのよ?」
思わずそう訊くと、夕子はさらに説明する。
「組織の人間が動くこともあるし、探偵とかも使っていたみたい」
「そ、組織?」
話の意外さに美波は仰天し、雪葉も呆然としている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます