囁く魔女たち 一


 美波は闇のなかに身を起こす。音をたてないようにシューズに足をつっこむ。

 やはり起きていたのだろう、夕子も起き上がった。

「どこ行くの?」

「美香のことが気になるの」

「待って、私も行くわ」

 もしかしたら、やはり眠れない生徒にこの会話を聞かれているかもしれないが、かまわなかった。ひどくもやもやした気分で動かずにはいられないのだ。

 二人つれだって部屋を出、忍び足で廊下をすすみ、階段を下りる。

 一階にたどりつくと、目当ての部屋へと向かおうとしたが、それよりも手前の管理人室から声が聞こえてきた。


「母体とも異常なしよ」

 杉の声に二人は足を止めた。

 どうやら赤ん坊は無事産まれたようで、ひとまず美波は胸を撫でおろした。

「……皮肉なものね、雪葉じゃなくて美香の方がこうなるとは」

 シスター・アグネスの忌々し気な声が廊下にひびく。

「まぁ、無事で良かったわ」 杉の安心した声。

「養子先を探すことになるわね」

「本人の意向がまだ固まってないのよ」

「……それにしても、雪葉の方はどうにかならないかしらね? ちゃんと入れているんでしょう?」

 シスター・アグネスの言葉に美波は息を飲んだ。側の夕子も身体を固くしたのがわかる。

「入れているし、効果も出ているようだけれど、決め手にはならないのよね」

「もっと量を増やしてみたら?」

 いらだたしげなシスター・アグネスの声。

「あんまり増やすと味が変になってしまうし、他の生徒も妙に思うかもしれないわ」

「そういえば、最近、どうも生徒たちの様子がおかしいのよね」

「まさか、何か気づいているのかしら?」

 杉の心配そうな声。

 美波は身体が震えそうになるのをおさえた。となりの夕子がナイトウェアの上から腕をつかむ。動揺しちゃ駄目、というように。

「さっき部屋に行ったときも妙な雰囲気だったわ。誰か馬鹿な真似しなけりゃいいけれど。いよいよとなったら、扇動者せんどうしゃを除外しないと」

「でも、まえの、あの……彩花みたいなことになったら……」 

 彩花の名前が耳に入った瞬間、美波は心臓が止まりそうになった。司城の妹だ。

「あれは失敗だったわね。……殺すつもりはなかったのよ。うるさいこと言うようだから病院に移そうとしたら、勝手に走り出して屋上まで逃げて飛び降りてしまうんですもの。ああならないように今度は気をつけないと」

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