十一

(シスターたちが、もうちょっと優しくしてあげれば……)

 とも思う。だが、この学院のシスターによれば、罪の子を宿している女は労働することによって罪を清めなければならないのだそうだ。罪人と呼ばれ、妊娠中でも労働を強いられ、さらに美香にとってむごいのは、つい先日までおなじ年頃の少女たちの汚れ物をあつめに行かされ、洗濯させられていたのだ。考えてみれば、これはひどい待遇だ。

 何故、自分だけが……。と悔しく思うのももっともだろう。十代の少女たちだって性を謳歌している現代である。大抵の子はうまくやりこなしているのに、美香はほんのちょっとの偶然でとんでもない重荷をしょいこんでしまったのだ。

美波の周囲でも高校時代、いや早い子なら中学時代でもボーイフレンドと楽しんでいた子はいた。それなのに大抵の子が要領よく切り抜けた問題を、うまくこなせなかった運の悪い子がいる。

(ババ引いちゃったんだよね)

 そういう子は、ババ抜きのババを運悪く引いてしまった子たちなのだ、と美波はなんとなく思っていた。

 強姦されてしまった子、病気をもらってしまった子、妊娠してしまった子――。それでも、それが秘密で終わればまだ傷は浅かったろうが、それを人に知られて噂になってしまったら、これはもう致命的だ。

 十代の子たちはこういった噂が大好きだ。名誉をぼろぼろにされ、青春時代を完全に泥に埋められてしまう。大袈裟ではなく、現実に性が氾濫している今の時代でもあることなのだ。しかも、こういう場合、どうしても大きく損をするのは、当然ながら女の子だ。女の子だけだ。

 美波が内心溜息をついたとき、ドアが開いて雪葉が戻ってきた。

「あー、気持ち悪い……」

 戻ってきた雪葉は当然のごとくと椅子に座り、手伝おうともしないが、無理強いはしたくない。だがそんな雪葉を美香は憎らしげに睨んでいる。

 同じような境遇でも、雪葉は妊娠したこと自体についてはまったく後悔しておらず、それどころか嬉しく思っている。それがなまじ同じ立場なだけに美香には憎らしいのだろう。

 美香のお腹の子は、周囲の誰にも求められず、母である美香自身からもその存在を忌まれている……。

「これ、食べる?」

 晃子が仕事の手を休め、ポケットに入れていたビスケットの小袋をとりだし、慰めるように美香にすすめた。

「いいね、ジュニア・シスターに気に入られていると」

 美香はそこのところの事情を知っているようだ。万事のんびりしたところのある晃子は人に好かれやすく、菓子を入手できるジュニア・シスターやプレたちからおこぼれをもらえたりするのだ。

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