罪の報い 一

 美香は断ることなく礼も言わず受け取ると、美味しそうに口に入れた。妊娠中ならお腹が空きやすいだろうに、この学院はそういうところも厳しく、出される食事は質素なものだ。

 杉に言わせると、体重が増加するとそれはそれで妊婦に良くないので、節食する方がいいのだとか。ただ夕食のときのご飯だけはお代わりがゆるされるという。

「美波は?」

「私はいいわ。美香が食べるといいよ」

「雪葉は?」

「食欲ないの」 

 雪葉が青い顔でつぶやく。悪阻つわりもあるのだろう。

「じゃ、全部食べていい?」

 美香が言うのに、美波は小声で注意した。

「一枚だけ真保にのこしておいてあげたら?」

 ちょうどそのときドアが開いて真保が帰ってきた。

「二階の教室の、持ってこられるだけ持ってきたけど」 

 おどおどと言う。

「ちょうど良かった、真保、ビスケットあるよ」

 真保の目が輝いた。拒食症気味でも久々の菓子は眩しいもののようだ。

「一枚だけだけど」

 美香からわたされたビスケットの小袋をおずおずと受け取ると、真保は嬉しそうに口にする。だが、その瞬間、

「あなたたち、何をしているのですか?」

 厳しい声と同時に入ってきたのは、なんと最悪なことに学院長だった。

 その場にいた全員が凍りついた。

 黒い僧服のスカート裾をゆらしながら、ツカツカと学院長が靴音をたてて食堂へ入ってきて、全員の顔をながめる。

 咄嗟とっさに真保がビスケットの袋をポケットにしまおうとしたが時すでに遅く、学院長の眼鏡の奥の目が青白い光を発する。

「出しなさい、それを」

「あの、それは……!」 

 なんとか言わねばと美波は思ったが、言葉がつづかない。

「出しなさい」

 低い声がいっそう不気味に恐ろしげに食堂にひびく。真保がおそるおそる差し出した透明の空の包みを見ると、学院長はそれを検分するように凝視し、それから真保に向かって、聞く者の体温を下げるような声で告げた。

「手を出しなさい」

 真保は泣きそうな顔になりながら、美波を見、それから晃子を、美香を見る。だが、誰もどうにもできない。椅子に座っている雪葉はますます青ざめた顔になっている。先日、むりやり髪を切られた雪葉は学院長の恐ろしさを見にしみて知っているのだ。

 真保は涙ぐみながら両手を出した。

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