六
山本美香と彼女は名乗った。
「……気づかないうちにもう堕ろせなくなっちゃったの」
「あ、相手は……?」
小声で美波が訊ねてみると、やや目をうるませて
「わかんない……。一緒に遊んでいた子たちの誰かだと思うけれど」
絶句しつつ美波は美香を見る。
全体に、少女にしてはいかつい身体に、腫れぼったい目や顔はあまり美しいとは思えず、標準体重を――妊娠中とはいえ――かなり上回っていそうだ。そんな男遊びをするタイプとは思えないが。
「……学校にはばれて退学になって、親も途方にくれて困っていたときに、ここの学院のことを知って……。この学院は妊娠した生徒を受け入れてくれるから」
「そ、そうなの?」
最近では高校生でも出産しても学校を辞めない生徒も多いと聞くが、まだまだ厳しい学校も多く、妊娠した場合は退学をすすめるケースもある。別の学校に転入するにしても、出産するまでは休学するものだと美波は漠然と思っていたが、この聖ホワイト・ローズ学院では、妊娠期間中も受けいれてくれるという。むしろそういった悩める少女を救うための場所なのだそうだ。
「それもキリスト教の理念とかで?」
美波はやや皮肉気に訊いていた。
「そうじゃない? 中絶しないように、そういう生徒の生活も面倒みてくれているの。無料でね。でも……」
十代の娘が妊娠してだんだんお腹がふくらんでくると、やはり大抵の親は世間体を気にして困惑するものだ。
そういう状態で全寮制の女子高で生活全般を引き受けてくれるというのは、ありがたい。けっして生活が裕福ではなかった美香の家族はその話を聞いて、地獄で仏に会ったように喜んだという。
でも……、という否定形のつづきが気になっている美波から目をそらし、美香はぽつりとつぶやく。
「思っていたのと、ちょっと違うかな……って」
「そうよ、聞いた話とは全然違うわ! 言っとくけれど、パパはちゃんとお金を払っているのよ」
またも雪葉がヒステリックに叫ぶ。
「え、うちは無料でいいって言われたけれど。あ、このこと言ったら駄目だって言われているんだ」
美香が複雑そうな顔になった。
「パパは寄付を払っておいたって言っていたわ! 最低でも百万は払っているはずよ」
二人の話からすると、おそらく払える家からは寄付というかたちで払ってもらい、払えない家は無料でいいということになっているようだ。ある意味合理的かもしれない。
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