カウンセリング 一

 真保は目に涙を浮かべた。制服の膝のうえで握りしめているちいさなこぶしがふるえている。

「わ、私は……、男の人とホテルに行きました」

 一瞬、美波は息を飲んだ。

 高校生なら、早熟な子なら、そういうことをする子もいるかもしれないが、小柄で幼げに見える真保からは想像できなかったのだ。

「相手は恋人?」

 うっ……! と真保は顔を伏せて泣いてしまった。三人の生徒は呆然としている。

「泣いていてはいけないわ。さ、頑張って。生まれ変わるチャンスなのよ」

 シスター・マーガレットはなだめるように優しく言い、椅子から立って真保のそばに行くと、手で背を撫でてやる。その態度は聖母のようだが、それでも美波は彼女のチャコールグレイの目が気になって仕方ない。

「は、初めて会った男の人です……。さ、寂しくて、声かけられて、ご飯おごってもらって……な、なんだか家に帰るのが嫌になって……、それで、それで、ひっく」

「お金をもらったの?」

 シスター・マーガレットは、啜り泣く真保に、さも優しげに問う。美波は背に汗が走るのを感じた。

(そんなこと……、なにも他の生徒がいる前で訊かなくても)

 じわじわと湧いてくる苛立ちは、この後自分も訊かれるのだと思うといっそう強くなる。

「も、もらいました」

「それを、人に見られて、噂になったのね。それで、この学院に来た。そうよね」

 知っているのだ。シスター・マーガレットは最初から知っていたのだ。

「よく言ったわね、偉いわ。それでいいのよ。これであなたは生まれ変われるのよ」

(これって、カウンセリングの一環なの?)

 美波はますます身体が固くなってくるのを感じた。

「それじゃ、次は、桜子」 

 呆然と真保を見ていた桜子は一気に青ざめた。

「わ、私は……、えっと、……た、煙草を吸ったことがあります」

「幾つのとき?」

「中学二年です」

 身を小さくして桜子が答える。その隣の真保はまだ泣いているが、桜子の言葉に気を引かれているようだ。

「他には?」

 シスター・マーガレットの声はどこまでも優しい。優しいのに、なぜか美波は聞いていて妙に神経がピリピリしてくる。

「……お酒……ビールも飲んでしまいました」

「それも中学二年のとき?」

「そうです」

「……他にはないの?」

「それぐらいです」

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