そういうことでも言いたくないものだ。

 それも、初対面の人間もいるのだ。美波は我知らず背が張りつめてくるのを感じた。

「では、今度は真保からいきましょうか?」

「え?」

 名指しされた真保は真っ赤になった。やや色黒の肌がどす黒くなる。もともとあまり顔色が良くなかったのだ。

「えーと、あの……」

 しどろもどろになりながらも真保は言葉をひねり出した。

「食事を残しました」

「それだけ? それだけじゃないでしょう?」

 シスター・マーガレットの目は細められたままだ。

「えっと、他にも友達の悪口を言ったり、嘘をついちゃったり……」

真保は他愛もないことをつらねた。シスター・マーガレットは微笑しているが、茶色がかった消炭色チャコール・グレイの瞳は冷たく光っている。なんとなく美波は背がぞわぞわしてきた。

「もっと他にあるでしょう?」

「え……、それは」

 真保はこわばった小さな顔でシスター・マーガレットを上目づかいに見上げた。

「真保、他の皆もそうだけれど、あなたたちは何故この学院に来たのだと思う?」

 一瞬、美波も夕子も唇を引きしめていた。

「あなたたちは生まれ変わるためにここに来たのでしょう?」

 目を向けられている真保は硬直している。

 シスター・マーガレットの顔は真剣そのものだ。

「ここが大切なときなのよ。ここで生まれ変わるか、地獄の業火で永遠に焼かれるか」

 過激な言葉に美波は呆気にとられた。

 ふと見ると夕子もぽかんとした顔をしている。

「ねぇ、真保、よおく考えてごらんなさい。秘密をすべて打ち明けなさい。そうして心から懺悔すると、新たな人生が始まるわ。あなたは、何をしたの?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る