八
気が抜けたが、このまま放っておくわけにもいかないので、仕方なく美波は床に散らばっている髪の毛を、部屋に常備されている箒で掃きあつめすべてゴミ袋に入れる。どういうわけか自分が仲間外れにされたような気分で、気がすさむ。
窓から差しこむ外灯の灯りにつられてふと外を眺めてみると、遠く芝生のうえのベンチに座っている二人の生徒が見えた。
就寝時間までは中庭を歩いてもいいことになっているのだが、宵闇のなかに見るせいか、ベンチに座っているその二人の少女の様子はひどくうらぶれて見える。女の子らしくない青い制服のせいもあるが、なにより雰囲気がまた少女らしくないのだ。十代の青春真っ盛りの女の子にあるまじき
(わたしもあんなふうに見えているのかも)
そんなことを思うと美波は背が寒くなった。
翌朝は雨だった。
外の掃除がない分、生徒は皆寮内の掃除にまわり、いつもはしないところまで掃除させられる。
「なんか、『サスペリア』かと思ったら、ローウッド慈善学校だわ」
部屋の拭き掃除をしながら夕子がぼやく。
「ローウッド慈善学校って?」
机の上に立って窓をすこしだけ開け、外気を入れながら美波は訊いてみた。
「むかしの外国の小説に出てくるとんでもない学校のこと」
ふうん……と、何気ないような顔をしつつも、内心、夕子の博識に舌をまく。いや、高校生でもそういった外国の文学作品を読んでいる子はいるだろうが、夕子はどう見てもそういうタイプに見えないだけに、時折口から飛びだす知識に脱帽させられるのだ。
「……雪葉、あれからどうしてるのかな?」
それとなく言ってみると、夕子が答えた。
「昨日はそのまま舎監室に寝かせるってシスター・グレイスが言っていたけど」
「……結局、なんだったの?」
何故か訊くのがためらわれる。一瞬、スピーカーから流れていた音楽が止まり、雨粒がしずかに外の庭木の葉をうつ音がひびく。
「なんか、ヒステリーの発作かなんかじゃないかって。よくわかんないけれど。環境の変化に心がついていけてないんだって」
夕子は部屋の隅まで雑巾で拭きながら言う。いつになく今日はまじめに掃除するのが奇妙に思えたが、それが実は美波と目を合わせないためにだと気づいた。
「……ふうん。この後、朝食には来るかな?」
「治っていたら来るんじゃない?」
夕子の口調はそっけないが、それはいつものことで、掃除が終わると、二人はつれだって食堂へ向かった。
食堂にも雪葉のすがたは見えない。昨夜のみじめなざんばら髪を思い出し、あれでは人前に出づらいだろうと美波は同情した。
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