「なんだろう? あんた、なにかした?」

「べつに。夕子は?」

「なにもしてないよ、まだ」

 まだ、という一言が気になるが、二人はつれだって校舎にある学院長室へ向かった。

 奇妙な胸騒ぎを覚えながらも室にたどりついた二人は、ドアを開いた瞬間目を見張った。

「遅かったですね」

 学院長に不機嫌そうに言われても、美波の目はその人物から離れられない。室にはシスター・アグネスもいて、かすかな微笑を向けたいる。

「こちら、西条さいじょう雪葉ゆきはさん。本来なら昨日、あなたがたと一緒に入寮するはずだった新入生です」

 一瞬、ぽかんとした顔で美波は紹介された生徒を見ていた。隣の夕子も呆気にとられた顔をしている。

「ご挨拶しなさい」

 シスター・アグネスにうながされて、雪葉という少女が口をひらいた。

「こんにちは」

 雪葉は身長はやや美波より高く、すらりとした身体つきで、どことなく洗練されているように見える。着ている水色のワンピースも値段の高そうなものだ。

 だが、美波が雪葉を見てまっさきに目を奪われたのは、彼女の黒々とした髪だった。腰近くまで伸ばしてある豊かな髪はつややかで、当節これほど黒く豊かな髪を持つ少女はいないのではないかと思える。このまま平安時代のドラマに出てくるお姫様を演じられそうだ。

 目鼻顔だちもひどく大人びていて美しく見える。もしかしたら薄く化粧をしているのかもしれない。とにかく、美波が今までに見てきた同世代の少女のなかでは、タレントやモデルは別として、一番の美少女だ。

「あ、あの、近藤美波です」

「小瀬夕子です」

「どうぞよろしく」

 言われて美波はなぜか慌ててしまった。

「あ、はい。こちらこそ」

「……よろしく」

 どぎまぎしている美波を面白くなさそうに夕子が睨んでいるのがわかった。

「レイチェルは今少し忙しいので、夕食まであなた方二人がいろいろ案内してあげなさい。制服の支給はその後でします」

 制服、と聞いて雪葉の長い眉がしかめられた。そしてふしぎそうに二人の着ている制服を見る。

「あのぉ、私もこれを着るのでしょうか?」

「当然です」

 学院長の言葉に雪葉は眉をしかめる。

「私は私服でいいです」

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