三
そんなふうにして、常に奇妙なもやもやを感じながらも、初日の授業がすべて終わって放課後になり、これで自由だと気がゆるんだ瞬間、スピーカーから例の音楽が流れてきた。
ひどくテンポの遅いその曲を聞きながら、教室の掃き掃除をさせられる。ありがたいことに、校舎のトイレ掃除は今回は別の生徒に割り当てられた。朝は寮の掃除、夕方は校舎の掃除をすることになっているため、ふつうの学校の倍掃除をしなければならない。
それも終えて、今度こそ帰れると廊下に出た美波の耳に、聞き覚えのある声がひびいてきた。
「この廊下を掃除したのは誰ですか?」
レイチェル、つまり裕佳子だ。指差した箇所はとなりの青薔薇組の担当する場所である。
「あたしよ」
もしや、と思ったが、やはり声を返しているのは夕子である。
「ここ、まだ汚れています。もう一度掃除しなさい」
夕子は怒った顔になったが、それ以上言い返すこともなく、モップを取りに行く。内心美波ははらはらして見ていたが、怒りに顔を赤くしつつも夕子が掃除をしているので安心した。が、次にひびいた裕佳子の言葉に身をすくめた。
「カードを出しなさい」
「なんでよ!」
「掃除をおこたった罰です」
夕子はますますいきりたったが、裕佳子の顔は冷静だ。
「ちゃんとしてるじゃん!」
「掃除をおこたったのですから減点です。カードを出しなさい」
「はぁ!」
そばにいた別の生徒が夕子になにか耳打ちしている。おそらく、言われたとおりにした方がいい、と説得しているのだろう。夕子は怒りに頬をどす黒く燃やしながら、悔しげにポケットから青いカードを出した。
同い歳の裕佳子に上から目線で命令され、召使のように扱われるのは、気の強い夕子にとっては我慢ならないはずだ。美波は夕子が気の毒でたまらない。実際、見ていて裕佳子の態度に腹も立つ。なにがどうとうまく説明できないのだが、裕佳子の態度や雰囲気は美波の神経をもひっかくものがある。
「あ、いたわ。美波、夕子、今すぐ学院長室へ来るようにって」
夕食までまだ一時間以上あり、一日の緊張で疲れていた美波がベッドで寝そべっていると、晃子が部屋へやって来てそう声をかけた。
「え、なんで?」
同じように自分のベッドで寝そべっていた夕子も身を起こす。
「わからないけれど、廊下歩いていたらシスター・アグネスに声をかけられたの。二人に今すぐ学院長室へ来るように伝えてほしいって」
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