八
そんなことをしていると、夕子がぽつりと訊いてきた。
「ねぇ、あんた大学はどうするの?」
「え……?」
思いもよらぬ質問だったが、考えてみれば高校二年ともなれば当たり前の質問だった。夕子から訊かれるのがすこし意外だが。
「え……と、それは」
本当なら、どうすべきか考えておくべきことだ。世間一般の高校二年生であれば、進学するにしても就職するにしてもそろそろ具体的な進路を決めて、それに向かって努力していかねばならない時期なのだ。
進学ならば当然受験勉強をしなければならない。いや、それ以前にどういった大学に行くか決めておかねばならないはずだ。
だが美波は、
「あんたなら当然、大学行くんでしょ?」
ベッドに寝そべりながら訊く夕子から美波は目をそらした。
「うーん。わからないけど」
「……短大とか、専門学校?」
「それも、まだ」
これには夕子が意外そうな顔をした。
「え、でももう高二なんだし、そろそろ決めないと」
「そ、それを言うなら夕子はどうするのよ? 夕子、頭良さそうだし、進学とか考えていないの?」
今度は美波が訊きかえした。
「んなもん、行けるわけないじゃん。うち、金ないし」
馬鹿々々しい、と言わんばかりに夕子が天井を向く。白石の天井は高く、部屋は狭いわりには広々として見える。だが、その分、どこか寒々しい。
「でも、奨学金で行くってことも」
「あのねぇ、あんた知ってる? 奨学金って借金なんだよ、借金。卒業したときすでに何百万っていう借金抱えてることになるんだよ」
それは美波もニュースかなにかで聞いた記憶がある。
すべてというわけではないが、奨学金の種類によっては返済しなければならないものもあり、考えなしに受けてしまうと、卒業後かなりの負担になってしまう。すんなり就職できて充分な収入があればいいが、それができずに、奨学金を受けたことでかえって貧困に陥る人もいると。そもそも奨学金を受けて進学する人は、生活に余裕がない人たちなのだから大変だろう。
その番組では、奨学金返済のために無理な仕事をして身体をこわしてしまった人や、水商売や、果ては風俗の仕事をせざるを得なくなった女性の例も挙げていた。美波の場合は経済的な問題に関してはひとごとなので、ぼんやりとそんな話を聞きながら、あくまでも遠い世界のことしてそのときは聞き流していたのだが。
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